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旧経営陣ともリプ合戦。Twitter「5.6兆円買収」のイーロン・マスクにのしかかる「責任」…シリコンバレーVCに聞く

ツイッター

REUTERS/Dado Ruvic

Twitter社が4月25日、テスラ創業者のイーロン・マスク氏による440億ドル(約5.6兆円)での買収提案を受け入れることで合意したとの報道は世界中を駆け巡った。

Twitterの買収はLBO(レバレッジド・バイアウト)という手法で、年内には完了する見込みだ。Twitter社は買収された後に非上場化されるとも報じられている。

一方、かつてTwitterの経営に関わったメンバーとは、現在進行形でリプライ合戦が始まってもいる。

2015年までTwitterのCEOを務めたディック・コステロ氏は、Twitter上でいわゆる「エアリプ」(特定の人やテーマへの返信を匂わせつつ、単独投稿をする行為)で暗にマスク氏への批判を展開した。

「いじめはリーダーシップじゃない」(コステロ元Twitter CEO)

これに対し、マスク氏も即座にTwitter上で応戦した。

「何の話をしてるんだ? 私はツイッターは政治的に中立な必要があると言ってるだけだ」(マスク氏)

マスク氏は「Twitter」のどこに課題を見いだし、限界を押し広げたいと考えているのだろうか。

買収発表の直前に登壇した世界的トークイベント「TED」やTwitter社のプレスリリース、Twitter上での発言などで、マスク氏はいくつか印象的な発言を残している。

「言論の自由の確保」と非上場化

Scrum Ventures創業者の宮田拓弥氏。

Scrum Ventures創業者の宮田拓弥氏。4月27日に取材に応じた。

投資家は今回の買収劇とマスク氏の行動をどう見ているのか。シリコンバレーを中心に活動するベンチャーキャピタルScrum Ventures創業者の宮田拓弥氏は、マスク氏のTwitter買収とその後のビジョンを、マスク氏の起業遍歴から読み解く。

「まずイーロン・マスクという人は、非常にミッションドリブンな起業家です。過去につくってきたテスラ、スペースX、ボーリングカンパニー(トンネル掘削のインフラ企業)、いずれも、とてつもなく大きな社会に対するミッションがあり、それに基づく彼の行動がある。その実績を多くの起業家がリスペクトしています。
Twitterに関しては、彼自身も語っているように(インターネット空間における)民主主義の根幹で、そういう風(言論の自由を追求する場)にしていきたい、と考えているはずです」

注目される「非上場化」を念頭に買収した背景には、広告ビジネスとの関連があるだろうと、宮田氏は分析する。

「(一般論ですが)上場企業で広告ビジネスをしていると、例えばスパムを送るような“ボット”だとしても、全てを厳密に取り締まることが、ビジネス上、必ずしもよくないケースは考えられます(アカウント数、投稿数に影響するため)。
収益性にとらわれずに、ある種の理想郷的な言論の場として機能させるというのが、おそらく非上場化の狙いでは」

興味深いのは、この理想郷を追求することは、必ずしも「経済合理性の追求」と相反しないとマスク氏は考えているのではないか、ということだ。

「例えばテスラの話でいうと、『テスラが馬鹿にされていた時代』のことを、もはや誰しも忘れているわけです。(10年前は)全然儲かってもいない、クルマの質がいまひとつ、その割にちょっと高い、さらに充電ネットワークが当時無料でどうマネタイズするのか、とか言われていました」

この事実と、いまテスラがどんな評価を得ているかを思い返すべきではないか、と宮田氏は言う。

マスク氏の強烈なビジョンを示す端的な例は、テスラが持つ充電ネットワークへの投資だ。

この10年で、EV(電気自動車)が脱炭素化を加速するために有効な手段だと多くの人が信じるようになった。その一方で、EVが成立するためには、急速充電スタンドが欠かせない。テスラ車の量産がここまで成功すると思われていなかった時代に、既にマスク氏は充電ネットワークをつくりはじめている。

「マスク氏は、EVが成立するために不可欠な充電ネットワーク(の自社構築)を、いったん経済合理性を抜きにして、強烈な初期投資で実現してきたわけです。
私は2017年からテスラのユーザーですが、実際利用してみると、テスラネットワークの背景に彼のビジョンがあったことに驚かされます。おそらくTwitterに関しても、同じようなこと(まだ見ぬ未来像を)を考えているのではなかろうか、と」

なぜアルゴリズムのオープンソース化が必要か

経済合理性の追求、いわゆるマネタイズの話と、マスク氏が主張するもう1つのキーワード「アルゴリズムの開示(オープンソース化)」は地続きだ。

「(表示)アルゴリズムについては、例えば(Twitter同様に)Facebookも批判されています。どんどんマネタイズの方向に行くと(広告が増えたり、時系列ではないタイムラインの導入で投稿が探しづらくなったり)『一体これは誰のためのタイムラインなんだ』ということになりがちです。
ですから、普段のマスク氏の発言を信じるとすれば、(言論空間の根幹である)アルゴリズム自体もオープンソースにして、みんなの力でより良いものを作りあげていこうと」

実際、マスク氏は4月14日のTEDの登壇のなかで、Twitterの表示アルゴリズムについて「Twitterはアルゴリズムをオープンソース化し、人々のツイートが強調されたり削除されたりした場合は、その変更を明らかにするべきだ」と、その課題意識を明らかにしている。

「(マスク氏が考えているのは、)これまでのWeb2.0的な、あるいは僕らが今いるこの『国』という枠組みの中では創りえなかった民主主義じゃないでしょうか。
今のTwitterには、(賛否ありますが)権力者とかセレブリティとか、市井の人が自由に意見を述べられるという意味においては、多分に素晴らしい側面がある。
みんなでアルゴリズムを洗練させ(透明性も確保し)、株主に左右されない形で、コントリビューターの力による新しい言論空間をつくる——というような壮大な社会実験をしようとしているのでは」

イーロン・マスク氏が「所有」することのリスク

スマホを見るイーロンマスク氏

Joe Skipper/Reuters

ここまではポジティブな要素が多かったが、もちろん逆の意見もある。宮田氏の周囲でも、批判的な意見は当然あるという。

「(買収については)やはりネガティブな意見もあります。例えば2013年にジェフ・ベゾス氏個人が名門紙ワシントンポストを買収した際には、個人がメディアを所有することの是非という議論がありました。ベゾス氏が変心しないと信じるに足る理由は?という指摘です」

マスク氏のTwitter買収は、ある意味ではその5.6兆円という金額以上に大きな社会的なインパクトがある。

Twitterの直近の四半期決算(2月発表の2021Q4)によると、Twitterは全世界で毎日2億人以上(mDAU=収益化可能な日間アクティブユーザー数)が利用している。こうした言論空間を個人が所有することは、現代のメディア王のひとりに数えられても不思議はない。

「(買収が成功すれば)現代のメディア王になったとも言えますが、従来のテレビ局などは、その国の中で閉じていたり、あるいは『言語』の課題がありました。一方、Twitterは世界79億人の多くに届く可能性があるメディアです。さらに、今はテキスト翻訳がこれだけ簡単になっている。

一方、Twitter上にはひどい投稿も数多くあります。実際にそういう行為が人間のリアリティでもあるなかで、(アルゴリズムがオープンになったとして)どう変わっていくのか。マスク氏の責任は非常に重い」

孫正義、渋沢栄一、希代の連続起業家としてのイーロン・マスク

ソフトバンクグループ創業者の孫正義会長兼社長。

ソフトバンクグループ創業者の孫正義会長兼社長。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

インターネットの歴史の教科書があれば間違いなく記録されるだろうイーロン・マスク氏のTwitterの買収劇は、公表からわずか10日あまりで決まった。

宮田氏は、貸し付けも含めて個人で5兆円以上を工面し、巨大SNS企業を買収して未上場化しようとするマスク氏の考え方に衝撃を受けた、と最後に振り返った。

「私自身も、今回のモルガン・スタンレーの判断(マスク氏に対する3兆円以上の貸し付け計画を6日間でとりまとめた)を見て、イーロン・マスクって一体何者なんだろうと考えさせられました。
1人で複数の事業を同時期にこれだけやった日本人って、一体誰がいるのかと。日本だと、古くは渋沢栄一氏の名前が浮かびますが、同時代の時間軸では、孫正義氏でしょうか。
マスク氏が特別なのは、成功確率が強烈なんです。恐ろしいことに、全部自分のビジョンだけでこれまで成功してきている。
『スペースXは絶対に失敗する』と誰もが思ったけどここまできて、ボーリングカンパニーもユニコーン企業(評価額10億ドル円以上の企業)になりました。自分自身もテスラに乗っていると、もはや偉大な会社だなとしか思わないわけですよね」

これまで不可能と思われた事業を次々に成功させてきた実業家が、文字どおり「物言う100%株主」になるという意味で、買収完了後のTwitterがどう変化するのか、世界中が注目している。

編集部より:初出時、宮田氏のフルネーム漢字表記に誤記がありました。現在は正しく改めております。お詫びして訂正致します 2022年4月28日 17:50

(文・伊藤有


宮田拓弥:Scrum Ventures 創業者兼ジェネラル・パートナー。2002年南カリフォルニア大学発のベンチャー企業ニブンビジョンの創業に参画、日本法人社長就任(後にグーグルに買収)。同年10月にジェイマジック設立。画像解析技術などを利用して、モバイルに特化したサービスを展開。2009年同社のイグジットの後、ミクシィに入社し、アメリカ法人のCEOなどを歴任。2013年スクラムベンチャーズ創業。早稲田大学大学院理工学研究科薄膜材料工学修了。

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