画像:Business Insider Japan
スマホから離れて1つのテーマとじっくり向き合う。時間のある大型連休だからこそ読み返したい本を、Business Insider Japanの編集部員が紹介します。
「差別」の解像度
木村映里さんの『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』(晶文社)。
最近、メディアを通して「ジェンダー平等を考えましょう」や「多様性を大事にしましょう」といった文言をよく見かける。こういったテーマは、SDGsの一つとしても掲げられているし、多くの人が同意することだろう。
ただ、では具体的に何が不平等で、何が大事にされていないのかと問われたときに、解像度が高くその問題を認識できている人は、そこまで多くはないのではないかと思う。
結局のところ、私たちは無自覚に差別や偏見を持ち続けながら、その一方で「平等」を掲げる、ちぐはぐな状態に陥ってるのだ。
私自身、そんなもやもやを抱えていた中で出合ったのが、現役の医療従事者である木村映里さんが執筆したこの本だ。正直、初めて読んだときには、ハッとした。
セクシャルマイノリティの患者、性風俗産業で働く患者、依存症の患者、生活保護の患者、そして医療従事者自身など……。「医療」という現場に関わるさまざまな人が抱える困難や理不尽、そして彼ら・彼女らが差別されてきた様子が鮮明に描かれており、どれも私の現実から想像もできなかったことだった。
医療現場以外にも、社会には無自覚な差別や偏見が満ちている。まずはそこにある景色を知ることが、スタートだと感じた。
(文、撮影・記者 三ツ村崇志)
仕事に悩んだ時にはお仕事小説
『私、定時で帰ります』はシリーズ3巻が発売されており、2巻までが文庫化されている。
5月病の季節を迎え、「仕事・会社に向いていないかもしれない…」と思う人もいると思います。そんな時は、お仕事小説を読むと新しい価値観に出合えるかもしれません。
僕がGWに読み返したいのは、ドラマ化もされた『わたし、定時で帰ります。』(朱野帰子著)です。特にシリーズ第3弾の『ライジング』は、「稼ぐためにあえて残業をしたい若手社員」という、現代の労働環境を反映したテーマです。経済ニュースを読むよりも、小説を読んだ方が社会を学べるのではと思ってしまいます。
そしてもう1作品、芥川賞受賞作『ブラックボックス』(砂川文次著)。主人公はメッセンジャーの仕事をしていますが、この小説では、仕事の理不尽さや「あきらめ」が色濃く描かれます。対照的な2作、どちらも仕事観を揺さぶります。
(文、撮影・記者 横山耕太郎)
なぜ人類学が今注目されているのか?
モリス・バーマン著、柴田元幸訳『デカルトからベイトソンへ 世界の最魔術化』(文藝春秋)。訳者あとがきには「それぞれの章が独立した物語を構成しているから興味のあるところから読んでいただければ」。巻末の「復刊に寄せて」は20代でベイトソンの本と出合い、大きな影響を受けたというドミニク・チェンさん。
「こちらからアプローチしたことはなかったのに、企業からの問い合わせが増えてきたんです」
春先に人類学者の比嘉夏子さんからお話を聞く機会に恵まれたとき、比嘉さんはのんびりした口調で話し始めました。研究の傍ら、会社も設立したとか。
データで語る、主観より客観、仮説の検証の繰り返しといった「経済合理性」がビジネスの前提であるなら、人類学はその対極にあるものです。フィールドワークを通した直接体験、わたしが起点、問いそのものを疑う……。ビジネスの世界で人類学の手法が用いられることは希望であるとともに、時代の転換点にいるという思いを強めました。
1989年に邦訳され、2019年に復刊されたのが人類学者、グレゴリー・ベイトソンの思想について書かれたこの本。多様性、主観(思いや「らしさ」)、パーパスドリブン、ナラティブ……ビジネスで求められるものが変わる今こそ読み返したい1冊です。
(文、撮影・ブランドディレクター 高阪のぞみ)
新作映画の予習に!「成田亨作品集」
2022年4月現在で購入出来る版では、「シン・ウルトラマン」のデザインコンセプトとなった成田亨作の「真実と正義と美の化身」が表紙になっている。
今年のGWが明けて1週間後、とある映画が公開される。「シン・ウルトラマン」だ。企画・脚本・編集は「ヱヴァンゲリヲン」シリーズの庵野秀明。監督は「平成ガメラ」シリーズの樋口真嗣。製作発表から約3年、「シン・ゴジラ」のチームが再タッグを組んだ期待の新作だ。
今回紹介する「成田亨作品集」は、1966年の初代ウルトラマンの美術を担当した成田亨氏の作品集だ。「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などのさまざまな怪獣、宇宙人、そして宇宙船や建築物などのデザイン画が収録されている。
成田氏本人が彫刻家でもあったことから、一つひとつのデザインがいかにしてこだわり抜かれたものか、詳細に記されている。ウルトラマンを「秩序」として、怪獣を「混沌」の象徴とするなどといったデザイン思考も興味深い。
そしてこの作品集を見ると、当時の製作の都合により、デザイン通りに実写化されなかったものが多いと分かる。
しかし「シン・ウルトラマン」では、成田氏が元々意図しなかったウルトラマンの胸の「カラータイマー」などが廃された「本来」のウルトラマンが忠実に再現されているのだ。
「ウルトラマン」を知らない人は映画の予習として、知っている人は復習として手に取ってみてはいかがだろう。
(文、撮影・iPhonegrapher/動画担当 山﨑拓実)
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