脱・年功序列に副業解禁…「ブラック霞が関を“カラフル”に」若手が提言。国会の責任にも言及

提言を手渡しする様子

川本・人事院総裁と二之湯智・国家公務員制度担当相に提言を手渡す若手チームのメンバー。

撮影:横山耕太郎

人事院と内閣人事局の若手官僚8人によるプロジェクトチームが2022年4月28日、霞が関の働き方に関する提言を発表した。

提言には「年功序列」にとらわれない人事制度など制度の根幹にかかわる内容に加えて、国会に対しても「質問内容の早期伝達」などを訴えた。

河野太郎氏らがチーム設置

若手プロジェクトチームは2021年10月に、当時の行政改革大臣・河野太郎氏と、マッキンゼー出身の人事院総裁・川本裕子氏により結成された。

河野氏は行革大臣に就任後、「20代の霞が関の総合職の自己都合退職者数が6年で4倍以上になった」指摘。霞が関の働き方改革を進める姿勢を打ち出し、その流れのなかでこの若手プロジェクトチームは誕生した。

チームでは霞が関を辞めた元官僚ら30人へのインタビューや、有識者や民間企業への聞き取りを重ねるなどして、約半年かけて今回の提言を完成させた。

年功序列ではなく「公募による異動原則」

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出典:「“人人若手” 未来の公務の在り方を考える若手チーム」の提言

発表した提言の冒頭では若手が抱える現状について、こう記した。

「降ってきた仕事をこなし、組織の駒となって、家庭生活との両立にもがき続けることが、本当に『世の中のためになっているのか』…」

その上で、霞が関のあるべき姿として、「自立した個人に支えられた多様性豊かでしなやかな公務組織へと変革する必要がある」と指摘。霞が関は長時間労働が常態化し「ブラック霞が関」と揶揄(やゆ)されていることから、一人ひとりが強みを伸ばして活躍できる「カラフルな公務」を目指したいとした。

具体的な提言内容では、年公序列ではないキャリアを提案。手を挙げれば省庁を超えてポストを選択できる「公募による異動を原則とする」とした。

また深刻化する人手不足については、民間企業のようにCHRO(最高人事責任者)を設置するなど、人事戦略や人材育成の機能を強化するとした。

そのほかにも、担当以外のプロジェクトに業務時間の最大20%を充てられる「20%ルール」を霞が関全体で導入することや、民間企業での副業の解禁、「360度評価」(上司や同僚、他部署からも評価する制度)の導入などを盛り込んだ。

長時間労働「国会が筆頭格」

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国会対応が長時間の残業の一因になっている。

撮影:今村拓馬

また長時間労働の原因の1つになっている国会についても踏み込んだ。

提言では「特に超過勤務の多い本府省における、勤務時時間外に及ぶ突発的な業務としては、国会に関わるものが筆頭格であることも事実」と、国会の責任についても言及した。

提言では、答弁者の連絡をFAXではなくデジタルツールに統一することや、法案の審議順や質問者を早期に決めること、質問主意書の答弁期限の延長など、具体的な内容を提案した。

一方、この日、若手メンバーから提案を受け取った二之湯智・国家公務員制度担当相は、「政治の問題でもあり、政治で解決できることがある」と述べるにとどめた。

ノンキャリアの離職も「深刻」

大平さん

海外勤務を希望している大平さんは、外務省経験者採用試験に合格。2022年7月からは外務事務官として、外務省で働き始めるという。2022年3月撮影。

撮影:横山耕太郎

このプロジェクトに関わった若手官僚たちは、どのような思いで提言を作ってきたのだろうか? 2人の若手官僚にその思いを聞いた。

霞が関の働き方というとキャリア官僚ばかりが注目されます。でも私達ノンキャリアも、どんどん離職してしまっています」

国家公務員試験採用Ⅱ種試験(現在の一般職試験)に合格し、人事院に採用された大平弘太郎さん(33)はそう話す。

霞が関の場合、キャリアとノンキャリアは出世コースが区分され、昇給・昇格のスピードは大きく異なる。一般職から幹部への登用もあるが少数派だという。

「キャリアとノンキャリアの違いは分かっていましたが、ノンキャリアとして働き始めて、マネジメントに挑戦したいと思っても、その道は多くはありません

大平さんにとって転機になったのは、人事院採用6年目で、フィジー大使館に派遣されたこと。大平さんは4年間滞在し、周辺の5カ国のODAを担当し、外交のだいご味を味わった。

だが、任期を終えて人事院に戻ったとき、裁量のギャップに物足りなさも感じたという。

「専門性を磨きたいと思っても、どこでどんな業務をするのかは、組織にゆだねるしかありません。そして、管理職への登用機会が限られているノンキャリアこそ、専門性をつけたいという思いから転職してしまう。ノンキャリア、キャリアに関わらず、希望して専門性を高められるような、霞が関になればと思っています」

「自分は恵まれていただけ」

谷口さん

谷口さんは「離職した官僚と話して考え方が変わった」という。2022年3月撮影。

撮影:横山耕太郎

内閣人事局の谷口健二郎さん(34)は、「長時間労働できる官僚だけが評価される霞が関は変わらないといけないと思っています」と話す。

谷口さんは、東大公共政策大学院卒業後に、総務省に入省。総務省では内閣人事局の立ち上げ業務を担当し、当時は月に300時間残業することもあったが、同時にやりがいも大きかった。

「当時の安倍総理による訓示や看板かけなど、秒刻みのタイムスケジュールや動線作りを担当しました。ロジや雑務もとらえようによってはすごく面白い仕事。僕にとっては深夜に及ぶ国会の対応もそんなに苦痛ではありません」

谷口さんは2019年から2年間、イギリスへの留学も経験するなど、順調にキャリアを歩んできたが、今回の若手プロジェクトチームに入り考え方が変わった。

霞が関では自分のように時間を使うことで貢献する人間が重宝されます。でもそれは自由に時間を使える自分が恵まれていただけではと思うようになりました」

霞が関を辞めていった官僚からは、家庭との両立などに苦しみ離職した人もおり、働き方改革の必要性を強く感じたという。

「女性官僚や共働き世帯も増えており、時間による貢献以外の貢献のあり方を広げていかないといけないと思っています」

霞が関を変えたいという若手官僚の思いが詰まった今回の提言。

実際に制度を変えることは簡単ではないが、そもそもこのプロジェクトチームを発足させた人事院や内閣人事局には、提言を受け取った責任があるだろう。提言だけに終わらせずに、どこまでリーダーシップを示せるのか注目したい。

(文・横山耕太郎

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