2020年1月、中国・上海でテスラモデル3のイメージを示すスクリーンの横で話すテスラのイーロン・マスクCEO。
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テスラのイーロン・マスクCEOは最近行われた決算説明会で、電気自動車(EV)業界は新しいリチウム電池関連の起業家やスタートアップ企業を必要としていると投資家たちに語った。また、最近のツイートで、リチウム価格が「非常識なレベル」に達したため、テスラ自身がこのビジネスに参入するかもしれないと書いている。
しかし、この分野への参入は簡単なことではない。テスラやそのライバルと競ってリチウムイオン電池を供給しようとしているスタートアップ企業は、キャッシュを手にする前にいくつかの重要な課題をクリアしなければならない。
リチウムは、世界中のハイテク企業だけでなく、EVの製品ラインに何千億円も注ぎ込んでいる自動車メーカーやスタ―トアップ企業にとっても重要なものだ。リチウムイオン電池の価格とデータ評価を行うベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス(Benchmark Mineral Intelligence)によると、2030年までにこの分野は343億ドル(約4.4兆円、1ドル=130円換算)の市場になる可能性があるという。
リチウムへのアクセスはEVの運命を左右する可能性がある。そのため、自動車メーカーは十分なバッテリーの供給を確保するために、ベンチャー企業への投資や提携を進めている。
フォードは最近、塩水から直接リチウムを抽出しているスタートアップ企業のレイク・リソーシス(Lake Resources)と契約を結んだ。ゼネラル・モーターズ(GM)も、リチウム製品のスタートアップ企業のコントロールド・サーマル・リソーシス(Controlled Thermal Resources)と協力して自社のニーズに備えている。一方、テスラは、中国のガンフォンリチウム(Ganfeng Lithium Co. Ltd.)と契約を結んだ。このように、リチウムをめぐる動きは枚挙にいとまがない。
「リビアン、フォード、GM、テスラなど、企業はどこも必要な原材料が手に入らなくなるのでは、という懸念を切実に訴えています」と全米鉱業協会のリッチ・ノーランCEOは言う。「これらの原材料がいかに不可欠であるかということを真剣に考えているのです」
しかし、リチウムの採掘、加工、調達に課題がないわけではない。本稿では、EV用のリチウム事業における3つの難関を、スタートアップ企業がどう乗り越えようとしているのかを紹介する。
タイムライン
リチウムをEV用電池の原材料に加工する以前に、そもそもリチウムの採掘には、土地の選定から許認可、建設開始まで膨大なプロセスが必要になる。また、新規のリチウムプロジェクトは未開発地域の開発で資源を大量に消費するため、軌道に乗せるのは困難だ。既存のリチウム生産企業の規模を拡大することは容易だが、その場合にも時間的な制約がある。
専門家によると、これらのプロセスには5〜7年以上かかることがあるという。自動車メーカーにリチウムイオン電池を供給するためには、この長い開発期間を考慮しなければならない。
つまり、最近バイデン政権が電気自動車などのバッテリーに必要な重要鉱物の国内生産を促進するために発動した国防生産法や、カナダ政府による16億ドル(約2080億円)のEVバッテリー供給チェーン戦略とは異なり、これらのスタートアップ企業は、地方、州、連邦レベルで継続的に支持を求めてロビー活動を行わざるを得ない可能性があるのだ。
「つまるところ最大のボトルネックは、プロジェクトに許可が下りて正式な認可を得ることだと思います」とブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーに拠点を置くスタートアップ企業であるACMEリチウム(ACME Lithium)のスティーブ・ハンソンCEOは語る。「急かすことはできませんが、長期的な供給を可能にするため、並行してこれらの許認可を得るために我々のリソースを投入する必要があるのです」
ニッチなマーケットを見つける
リチウムビジネスの中には、取り組むべきチャンスがたくさんある。
ライラック・ソリューションズ(Lilac Solutions)やマングローブ・リチウム(Mangrove Lithium)のような企業は、より持続可能な採掘のための技術を開発している。また、ピードモント・リチウム(Piedmont Lithium)のように、実際に新しい未開拓の土地を開発し、プロジェクトに出資してくれるEV業界のパートナー企業を探している企業もある。また、アセンド・エレメンツ(Ascend Elements)やリ・サイクル(Li-Cycle)のように、EVバッテリーの使用済みリチウムをサプライチェーンに還元している企業もある。
「需給曲線には大きなギャップがあり、その需要を満たすには、国内、海外、リサイクル、再利用、代替品など、あらゆる供給源が必要」とノーランは言う。
需要に応える
自動車メーカーは日々、EV化に向けた野心的な計画を進めており、10年以内に大半をEVにすることを目標とするメーカーもある。
時間的な制約とコストを考えると、リチウムイオン電池メーカーは自動車メーカーの需要に応えるために現実的な対応を迫られている。
ノースカロライナ州ベルモントに本社を置き、アメリカ国内でリチウムを採掘するピードモント・リチウムのキース・フィリップスCEOは、「実際、需要の見込みは供給を上回っている」と話す。「1年か2年か3年もあればこの需要に応えられると思っている人が多いようですが、正直なところ10年20年で済む話ではないと思っています。我々はまだ初期段階に入ったばかりで、必要なリチウムをどこから調達するのかさえ、まだ決められていない状態ですから」
だがこのことは、スタートアップ企業にとってはチャンスでもある。ファンド運用会社グローバルX ETFs(Global X ETFs)のリサーチ・ディレクターであるペドロ・パランドラニ(Pedro Palandrani)は、リチウム価格は現在1トン当たり7万ドルを優に超えて過去平均の10倍になっていると言い、こう続ける。
「これらの原料の多くはすでに史上最高値に達していますから、実際には入手は極めて困難でしょう」
(翻訳、編集・大門小百合)