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今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
事業の「立ち上げ」のフェーズだけをやっていたい、という企画職の方です。
まず、Aさんにお尋ねします。
これまで「0→1」の立ち上げプロジェクトに関わってこられたとのことですが、その事業やサービスは、現在どのような状態になっていますか?
大きく成長を遂げて利益を生み出しているのでしたら、その実績を携えて転職活動をしてみてもいいと思います。新規事業立ち上げポジションの求人は多数ありますので、希望どおり、「0→1」に取り組める企業に出合える可能性があります。
しかし、もし「立ち上げはしたものの、スケールはしていない」ということでしたら……心苦しいのですが、厳しい現実をお伝えしなければなりません。
0→1と1→10、難易度が高いのは?
Aさんが転職活動を始めたとして、面接で「0→1の立ち上げを経験しました」とアピールしたとしても、スケールに至っていないのであれば、「実績」とは認められないでしょう。
「0→1」の経験を求める求人では、同時にそこからある程度までスケールさせた成果をセットで評価をされるものです。
そして転職市場においては、「0→1」の立ち上げよりも「1→10」「3→10」などのフェーズを担える人材のほうが、はるかにニーズが高いのです。そのほうが難易度が高いからです。
実は「0→1」って、それほど難しいことではありません。世の中の困りごとやニーズなど、事業の「ネタ」を探すのは意外と誰にでもできること。それこそ、大学生を集めたワークショップで「事業のアイデアを出してみましょう」という課題を出せば、けっこうたくさんアイデアは出てくるものです。
そして、少しの行動力があれば、それを実行に移すこともできます。
しかし実際にやってみると、「こんな商品・サービスを出せば、こんなお客様に支持されるだろう」などと立てた仮説をそのとおりに進めることはそうそう簡単ではありません。
立ち上げた後に、想定外の課題がどんどん出てくるものです。使いにくかったり、不具合があったり、価格設定の間違いに気づいたり、そもそも顧客ターゲットの設定がズレていた……なんてことが起こってきます。
それらを軌道修正しながら、根気強くPDCAをぐるぐる回していって、何巡目かでようやく収益化に至り、一つの事業として確立する——ここまでを経験してこそ「0→1をやりました」とアピールできるのです。
ちなみに、自分が「0→1」を手がけ、「1→10」を自分以外の人が担当してスケールに成功した場合も、一定の評価は得られます。「0→1」の企画・立ち上げが適切になされたということですから。
つまり、Aさんの知人がおっしゃる「担当したプロジェクトである程度の実績を出してからのほうが転職しやすいんじゃないか」というアドバイスは的を射ていると言えますね。
「1→10」を成功するまでやれば考えが変わるかもしれない
もしかするとAさんは、ご自身が立ち上げたプロジェクトについて、この先の成長に期待を持てていないのではないでしょうか?
「育てていくのは大変そうだな……」と面倒さを感じて、逃げたい気分になっている、なんてことはないでしょうか?
多くの企画職の方は、自身が立ち上げた企画に愛着や手応えを感じていれば、自分の手でスケールさせたいと思うものです。
「自分が魂を込めて生み出したのだから、責任を持って育てたい」——そんな声をよくお聞きします。
Aさんも立ち上げたプロジェクトに改めて向き合い、自分の手で育て上げることにチャレンジしてはいかがでしょうか。
私は転職エージェントという立場上、新規事業を成功に導いた実績を持つエグゼクティブの方々に多くお会いしてきました。彼らはこう言います。
「1→10って大変なんだけど、それを成功させる面白みを体験するとやみつきになる。0→1よりも価値を感じられる」
Aさんは「立ち上げた後は飽きてしまう」とのことですが、忍耐強く取り組んでみて成功体験を得られれば、「1→10」の醍醐味が分かるかもしれません。
そうしてスケールさせた実績をつくれたら、その時に再び「0→1」ができるポジションへの転職を検討してはいかがでしょうか。
ただし、これまで「1→10」の経験がなくやり方が分からない、社内には成功事例がなくてノウハウを学べる人がいない……という状況なのであれば、転職を検討するのも一つの手段です。
いきなり「0→1」のポジションを狙うのではなく、ある程度のアセットやノウハウを持つ企業を選び、「1→10」や「0→10」のミッションを経験してみるといいでしょう。
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※本連載の第77回は、5月16日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。