5年前、ジュネイド・ガウリ(Junaid Ghauri)は多くの人と同様、ビットコインに投資するのはばかげていると感じていた。
「気にも留めていませんでした。ちょっとした遊び感覚でやるものだと思っていました」とガウリはInsiderに話す。
現在、仮想通貨の投資運用会社パレート・テクノロジーズ(Pareto Technologies)を経営している32歳のガウリは、仮想通貨は現金よりもはるかにリスクの低い資産だと考えている。
パレート・テクノロジーズ共同創業者兼最高運用責任者のジュネイド・ガウリ
Junaid Ghauri
ガウリは2018年、不動産投資信託や投資運用会社向けに調査を担うマーク・ラブズ(Mark Labs)で最高技術責任者(CTO)を務めていた。その頃、顧客からブロックチェーンのデータがどのように活用され仮想通貨が生成されるのかなど、仮想通貨についての質問をよく受けるようになった。
そして、ガウリは2019年、ビットコインや米ドルをベースにした金融商品を投資家に提供するパレート・テクノロジーズを共同設立したのだ。
「最初は、機関投資家のアセットマネジャーがなぜ仮想通貨に関心があるのか、仮想通貨は何をもたらすのか、全く理解していませんでした」とガウリは話す。今では、デジタル資産全般が従来の金融システムに「変革をもたらす」と確信している。
とはいえ、仮想通貨データサイト「コインゲッコー(CoinGecko)」によると、ビットコインの価格は2018年、1カ月足らずで1万5900(約207万円、1ドル=130円換算)から6952ドル(約90万円)へと60%近くも下落した。
だが、ガウリいわく、ビットコインは時間の経過とともに価格変動が緩やかになり、法定通貨に対して優位性が増すという。
ガウリは誕生してから13年を迎えたビットコインについて、「時間が経つにつれて、ネットワークはより安定してきます。現在の激しい価格変動は、生まれて間もない通貨の副産物ですから」と話す。
「年単位で見ると明らかですが、ビットコインの時価総額は膨らみ続け、資産価値は上がり、技術的な観点からもネットワークは強固なものとなっています。ボラティリティはそれほど大きな問題ではなくなるでしょう」とガウリは見る。
米ドルに存在する「異なる種類のリスク」
米ドルは仮想通貨にはない問題を抱えているとガウリは言う。それは、インフレリスクだ。
アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)は2022年3月、インフレ圧力に対処するために金利を引き上げ始め、この動きは年内いっぱい続くと予想されている。
米商務省が2022年4月29日に発表したレポートによると、インフレ率は3月、40年ぶりの高水準に達した。
商務省によるインフレ指標はFRBも重視しているが、3月の個人消費支出(PCE)は前年同月比で6.6%上昇し、2月の6.3%を上回った。さらに、ウォール・ストリート・ジャーナルが行った調査によると、3割近くのエコノミストが今後1年以内に景気が後退すると予測している。
「ポートフォリオの資産を現金化したとしても、リスクが減る訳ではありません。インフレという別のリスクがあるからです。現在の通貨制度は構造自体が脆弱だと思います」とガウリは話す。
ビットコインを低リスクだと考えるのは、ガウリだけではない。
ビジネスインテリジェンス会社マイクロストラテジー(MicroStrategy)の共同創業者であるマイケル・セイラー(Michael Saylor)は、ビットコインはボラティリティが高いにもかかわらず、最も低いリスクで最も高いリターンを得られると述べている。同社は最大のビットコイン保有企業で、12万1044枚を所有している。セイラーは2021年11月のインタビューで、次のように語っている。
「私には金を買うほうが、よっぽどリスクが高いように思えます。企業を買収したり、株を買ったりするのはもちろん、市場を独占するような巨大ハイテク企業の株であってもリスクがあります。仮想通貨の売買なら、取締役会や従業員らのしがらみもなく、事業がらみの規制や競争からも解放されます。それに、国が関与しない資産のニーズは確かにあるのです」
しかし金融グループUBSのアナリストは、仮想通貨はリスクヘッジ(回避)資産として「効果が高いとは言い難い」として、投資家は「ポートフォリオのエクスポージャーを戦略的に高めるべきではない」と警告する。それよりも、分散型台帳技術(DLT)を活用した企業やプラットフォーム事業者など仮想通貨関連企業への分散投資を推奨している。
2022年2月14日に発表されたUBSの報告書には「仮想通貨は通貨同士の相関性が高く、仮想通貨市場内での分散投資は適切とは言えない。また、価格は大きく変動するため、そもそも分散投資の対象とするのは難しく、インフレヘッジの効果も高いとは言い難い」と記されている。
サトシ・ナカモトによる発行上限
ビットコインには、現金にはない「保証」があるとガウリは言う。それは、供給量が限られていることだ。
サトシ・ナカモトと名乗る人物によって考案されたビットコインは、発行上限が2100万枚と定められており、採掘(マイニング)という作業を通して発行される。仮想通貨の推進派は、物価が徐々に上昇したとしても、通貨の供給量は限られているのでインフレヘッジ資産になりうると主張している(だが、金利が上昇する昨今、ビットコインはアメリカのテクノロジー株と連動するような値動きが見られる)。
「時間の経過とともに、ビットコインの分散型ネットワークはさらに強固になるでしょう。一方で、米ドルの通貨システムは脆弱になり、常に政府が介入してくるかもしれません」とガウリは話す。
かたやFRBはドル紙幣を増刷し続け、世界的なパンデミックのような大惨事が発生した際には景気刺激策として、さらに大量の資金を投入して介入してくるとガウリは指摘する。
将来的には、機関投資家マネーが仮想通貨市場にますます流入する、とガウリは見ている。投資銀行のモルガン・スタンレーは2021年3月、富裕層の顧客向けにビットコインの投資信託を提供すると発表した。
「機関投資家は莫大なドル建て資産を抱えているので、パニックに陥っています。現金化したとき、保有資産の価値が下がるかもしれないと不安に駆られ、もっといい投資先を探し始めました。多くの投資家が仮想通貨市場に参入してくるでしょう」
(翻訳・西村敦子、編集・大門小百合)