「CFO募集、ただし18歳以下」
世間の度肝を抜いた新聞広告から早3年、ミドリムシなどを原料にバイオジェット燃料などを開発するバイオベンチャーのユーグレナは、現在、3代目となる18歳以下のCFOを募集している。
ユーグレナでは、3代目のCFOの募集が行われている。
出典:ユーグレナ
ここでいうCFOとは、企業における財務関係の責任者「Chief Financial Officer」ではなく、最高「未来」責任者(Chief Future Officer:CFO)。業務内容は、ユーグレナのサステナビリティに関するアクションや、達成目標の策定に関するサミットの運営などだ。
ユーグレナがCFOというポジションを導入しているのは、事業活動においてどうしても不足しがちな「未来の当事者」の視点を意思決定に反映させるため。
「取締役会では、相当耳の痛いことをたくさん提言してもらっています」
ユーグレナのCHRO(最高人事責任者)を務める岡島悦子さんは、CFOについてこう話す。
岡島さんと2代目のCFOを務めた川﨑レナCFOに、18歳以下CFOの価値や、若い世代を採用する上でのポイントを聞いた。
18歳以下の目を通して見える経営課題
2代目CFOの川﨑レナさん(左)と、ユーグレナの岡島悦子CHRO。4月29日に、対談が行われた。
撮影:三ツ村崇志
2019年に始まったユーグレナのCFO。
1代目として就任したのは、現在丸井グループのアドバイザーを務める小澤杏子さん(当時高校2年生)。小澤CFOは、同じく18歳以下のメンバー(フューチャーサミットメンバー)と共に、ユーグレナ製品に使用している石油由来プラスチック量を削減するよう提言をまとめた。
この提言を受け、ユーグレナは2020年9月には同社の商品からペットボトル製品を撤廃。2021年中に石油由来プラスチック量を50%削減する目標を掲げている(現在、結果を集計中)。
ユーグレナは小澤CFOらの提言に基づき、2021年末までにプラスチック製品の50%削減を掲げている。
提供:ユーグレナ
2020年秋には2代目として、当時中学3年生だった川﨑レナさんがCFOに就任した。フューチャーサミットメンバーを含めて、全員が東京都以外の地域在住者ということも2期目の特徴だった。
川﨑CFOらは、2021年夏にSDGsを反映した内容に刷新されたユーグレナの定款の監修や、社内向けにアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をテーマにワークショップを開催。2022年4月から始まった新しい人事制度「ペアレンツ制度」(※)の導入を取締役会で提言するなど、実績を重ねてきた。
※中途入社や新入社員に対して部署や年齢、役職の垣根を越えてメンターとなる社員を2人つける取り組み。新入社員が早く会社に慣れて、活躍してもらうことを狙っている。
1期目にしろ2期目にしろ、会社との窓口となる社員からのサポートはあったものの、彼らが積み上げてきた実績は、あらかじめユーグレナによって敷かれたレールの上で議論した結果生み出されたものではない。
CFOやフューチャーサミットメンバーは、社員などへのヒアリングを重ねる中で「自分たちの目を通して」ユーグレナの課題を抽出。それを具体的な提言に落とし込み、取締役会に提案した。
その上で、提言をどう取り入れるか、取締役会が内容を精査して最終決定を下している。
「15歳でもこれだけできるのだから」
プラスチック削減という製品自体にかかわる提言を打ち出した1期目に対して、川﨑CFOら2期目では、社内コミュニケーションなどの企業文化に対する取り組みに重心が置かれていた。
これについて、岡島さんは
「今回、イノベーション人材を作るための提言をしてもらいました。楽しく、成長実感を持って働けるということはどういうことか、と企業文化に資することを提言してもらったおかげで、『CFOが15〜16歳でもあんなにできるんだから』と、関わっている仲間(従業員)の制限がなくなっているように感じます」(岡島さん)
と、社内でイノベーションを仕掛けていこうという流れに良い影響を与えているのではないかと指摘する。
ユーグレナは2022年に18期目を迎えた。その過程では当然、成功モデルも蓄積されてきた。
一方で、何か新しいイノベーションを起こそうにも、既存の成功モデルに対する違和感などを口にしにくい環境が生じてきていたのではないかと岡島さんは言う。
「ユーグレナは、やっぱりまだまだ成長企業だと思うんです。今のユーグレナのステージでは、社内から起業していくような精神を持った人たち(イノベーション人材)がどんどん生まれる会社にしていくことが求められていると思います。そういった意味で、社内のアントレプレナーシップに火をつけてくれたことは、CFOの成果だと思います。
CFOの活動がなかったら、どこかで高成長が寝るようなことが起きてしまっていたかもしれません」(岡島さん)
「若い世代の意見を取り入れたい」企業は、本気になれるか?
ユーグレナのホームページには、永田暁彦CEOや岡島CHROらと並んで、川﨑CFOの名前が記されている。
出典:ユーグレナ
意思決定に若い世代の意見を取り入れたいという企業は多い。ただ、中高生を採用すれば必ずインパクトのある施策を実現できるわけではない。
一歩間違えれば、学生をマスコットにしただけの表面的な施策になってしまう。
岡島さんは、若い世代の意見を企業活動に取り入れる上で、まず前提になるのは、「広告宣伝目的ではなく、『本気でやる』こと」だと強く指摘する。
「10年前のダイバーシティや女性活躍推進の話と全く相似形だと思います。言うのは簡単なのですが、実際にどう取締役会に取り込んでいくのか、どうサポートしていくのかということを含めて、経営陣のリソースを相当かけていかないと、これは成功しません。
ユーグレナは、(CFO施策を)未来から来る『宇宙人』のような若い世代の知見を得られる素晴らしい武器だと思っています。そう思えないと、社内の協力も得られない。」(岡島さん)
岡島さんは、Z世代などの若手人材を採用する上でも、考えることはそこまで大きくは変わらないと話す。
一般的な素養としての「伸びしろ」。学習能力や、考え方を変化させることができるのかという点などを踏まえ、「愛情と投資をすれば、伸びてくれるだろうなというところは見ています」(岡島さん)という。
その上で、岡島さんは、Z世代やアルファ世代の特徴として、社会や地球環境に対する課題感が強いことや、「1人ではなく仲間とやりたい」というように、ステークホルダーをまたいで協働したい考えがあると指摘する。
実際、川﨑CFOは、ユーグレナを通して社会や、自分が意識してきたものとは異なる社会課題に取り組む同世代と関わる中で、大きな影響を受けたと語る。
「CFOになって人生が180度変わりました。学生だけではない、いろいろな人に会えて話せたことで、人生の考え方が変わったと思います」(川﨑CFO)
CFOとしての任期は6月末まで。約1年半にわたる活動の中で、自身の考え方も変わったと話す。
撮影:三ツ村崇志
岡島さんも「子どもだから、学生だから……と、自らにかけていた制限が外れた印象がある」と川﨑CFOのこの1年半にわたる変化を語る。
日本では、多くの学生が学校でSDGsを学び、その認知率自体は高い。
一方で、どうしても「受験のため」に、優等生的にSDGsを消費してしまうケースもみられる。だが、学校で先生に褒められることや、受験で有利になることを目的にしては、本末転倒だ。
川﨑CFOは、そういった意味で、ユーグレナのCFOの活動を共にした同世代との出会いは「一生モノ」だと話す。
「ユーグレナのCFOになる前は、“居心地の悪い立場” に立つことはありませんでした。自分が知らなかったことを指摘されたり、『それ間違ってるよ』と言ってくれる仲間の存在は本当に重要なんだなと思いました」(川﨑CFO)
(文・三ツ村崇志)