イーロン・マスクは、自身を「言論の自由の絶対主義者」だと公言してきた。
REUTERS/Dado Ruvic/Illustration
テスラ、スペースX、ニューラリンク(Neuralink)、ボーリング・カンパニー(The Boring Company)のCEOを務めるイーロン・マスクは2022年4月下旬、440億ドル(約5兆7200億円、1ドル=130円換算)でTwitterを買収する取引をまとめた。この買収により、世界一の富豪が世界屈指のSNSプラットフォームを手中に収めたことになる。
買収直後にはTwitter経営陣の今後の処遇、2021年11月に同社CEOに就任したパラグ・アグラワル(Parag Agrawal)が続投するか否かについての憶測が飛び交った。しかし、「CEO交代」の憶測は5月5日に収束した。マスクは暫定的にTwitterの最高経営責任者(CEO)に就任する見込みだとCNBCが報じたためだ。
ツイッターのパラグ・アグラワルCEO。
先を見据えたリーダーシップと型破りな思考で知られるマスクは、テスラを新興ブランドから世界で最も価値の高い自動車メーカーへと成長させ、最近ではスペースXの宇宙船で民間人4人を地球周回軌道へ送った。
Insiderの取材に応じた専門家は一様に、性格的に予測不可能なこの人物の行動を予測するのは難しいと口をそろえる。危機管理を専門とするレビック(Levick)の会長兼CEO、リチャード・レビック(Richard Levick)も「イーロン・マスク氏が次にどう出るかを知ることは不可能です」と語る。
レビック社はスペースXの代理も務めてきたことから、誰も予測できないようなことを好んでやろうとするマスクの性質をレビックは熟知している。
「今でもよく覚えているのは、ある晩、彼が突然夜の6時か7時に電話をかけてきて、『これからワシントンへ飛ぶ。明日の朝9時から記者会見できないか』と言ってきた時のことですね。
記者会見は必死に準備して何とかうまくいきましたが、この話からもよく分かるでしょう、マスクが何を考えているか誰にも分からないということが。もしかしたら彼自身も分かっていないんじゃないでしょうか」
Insiderは、レビックを含むレピュテーション・マネジメントのコンサルタント、CEOコンサルタントなどの専門家に、Twitterの経営陣はマスクの下でどのような影響を受けることになるか尋ねた。彼らは、遠からず2つの影響が顕在化しそうだと予想しているようだ。
経営陣にとって「痛みを伴う大改造が起きる」
マスクはこれまで、Twitterの経営陣に対する不満を公言してきた。9100万人以上のフォロワーを持つマスクは4月下旬、2人の幹部を批判するツイートを立て続けに投稿した。
Twitterの副顧問弁護士のジム・ベイカー(Jim Baker)は、FBIの顧問弁護士だった頃に不正行為を行っていたとして右派活動家のマイク・セルノビッチ(Mike Cernovich)から非難のツイートをされた。マスクがそれに同調するツイートをしたことでベイカーは荒らしの標的になった。
Twitterのポリシーおよび法務を統括するビジャヤ・ガッデ(Vijaya Gadde)も、Twitterでニュース記事を制限することにしたという決定を「非常に不適切」だとマスクが述べた後、ネット上で嫌がらせを受けるようになった。
このマスクとTwitter経営トップの溝を見るかぎり、同社の経営陣がマスクの監視下で交代させられる可能性は高い、と専門家らは指摘する。
レピュテーション・マネジメント・コンサルタンツ(Reputation Management Consultants)の会長兼CEO、エリック・シファー(Eric Schiffer)は「これから痛みを伴う大改造が起こるでしょう。安定した地位にいた多くの経営幹部にとっては、精神的打撃になるはずです」と話す。
マスクはまた、Twitterを「言論の自由を守る砦」に変える意向を明確にしている。「言論の自由を恐れる人々の極端な抗体反応」を批判する自身のツイートに続けて、マスクは次のようにツイートしている。
「『言論の自由』とは単純に、法律に即したものという意味だ。法律をはるかに超える検閲には賛成できない」
レビックは、マスクがプラットフォーム全体でグローバルに思い描いているような言論の自由の権利を行使できるかどうかは疑問だと考えている。「中国には、表現の自由を保障する合衆国憲法修正第一条のような条文がありません。また、インターネット規制という点では、ヨーロッパの規制当局はアメリカよりもっと先へ進んでいます。EUが最近可決したデジタルサービス法(Digital Services Act:DSA)についてはどう対処するつもりなのでしょうか」と指摘する。
株式を非公開にすれば、Twitterは今後四半期決算を発表する必要がなくなる。そうなれば同社の経営陣と収益モデルを大きく刷新することが容易になるだろう、とデジタルマーケティングコンサルタントのジェイ・ベアー(Jay Baer)は指摘する。
2021年のTwitterの総収入は50億ドル(約6500億円)だった。「多少の変更を加えれば中間期の売上と利益を大幅に増やせるだろうとマスクは心から信じているんでしょう。つまるところ、金銭的に旨味があると思わなければこんなことはしないでしょうから」とベアーは言う。
しかしマスクは、決断力のあるリーダーだと称賛されることもあるものの、周囲を混乱させることも多いと観測筋は言う。CEOコンサルタントのトム・グッドウィン(Tom Goodwin)は次のように語る。
「彼が何をしようとしているのか、どういう意図を持って動いているのかを正確に捉えるのは難しいと思います。Twitterを買収したからといって、同社の日々の業務に深く関わるとは思えません」
アグラワルCEOが解任されても驚きはない
アグラワルは、Twitterの創業者ジャック・ドーシー(Jack Dorsey)の後任として2021年に新CEOに就任した。交代した時期はちょうど、月額課金で利用できる高機能版「ブルー(Blue)」や、クリエイターが自分のコンテンツへのアクセスに課金できる「チケット制スペース(Ticketed Spaces)」といった、収益化機能を導入した重要な時期だった。
ドーシーがアグラワルを新CEOに指名したと発表すると、マスクは、厳しい言論弾圧で知られる旧ソ連の独裁者、スターリンの顔の部分をアグラワルに入れ替えた加工画像をTwitterに投稿した。さらに、米証券取引委員会(SEC)に4月13日に届け出た文書の中で「(買収提案をしているTwitterの)経営陣の能力には確信が持てない」と疑問を呈した。
マスクがアグラワルを厳しく批判していることを考えれば、(今は保留になっているものの)現CEOが解任されたとしても専門家にとっては驚きではない。
ロイターの報道によると、アグラワルはマスクの買収発表後、全社員集会で従業員に対し、「マスク氏が率いるTwitterの未来は先行き不透明だ」と述べたという。
しかし、仮にアグラワルが追放されても指導力に欠けていたからだとみなすべきではない、とベアーは指摘する。
「就任からの短い期間に国内外で多くの出来事があったことを考えると、彼にあれ以上のことができたとは思えません。
優秀な人材の獲得も進んでいます。Twitterは他のソーシャルネットワークと比べてNFTでもリードしています。Twitterというプラットフォームはグローバルな文化的土台としてかつてないほど重要な存在になっていますから」
攻撃的で思いつくままにツイートする傾向を見ていると、言論の自由に対するマスクの姿勢や、Twitterのオーナー兼CEOとしてTwitterを自らの拡声器として使いこなす能力には疑念が湧く。
Insiderの取材に応じた専門家らは、マスクはリーダーとしては成功を収めたが、次に何をするかは誰にも予測できないと口をそろえた。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)
[原文:A storm is brewing in Twitter's executive ranks. Here's how experts say it could play out.]