コインベース(Coinbase)のCEO、ブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)は、2032年までに10億人の人々が仮想通貨を使ったり、使用を試みたりするようになると見ている。最近のレポートによると、現在の仮想通貨産業1兆ドル(約130兆円、1ドル=130円換算)規模、ユーザーは2億2000万人だ。
「今後10~20年で、(アメリカの)GDPのかなりの割合が仮想通貨関連から生み出されるようになると予想しています」
アームストロングは、5月2日に開催されたMilken Global Conference(ミルケン会議)で、萌芽期にある仮想通貨の成長ぶりを初期のインターネットに例えながらこう語った。
コインベースのブライアン・アームストロングCEO。
Patrick T. Fallon / Getty Images
しかし、仮想通貨市場では弱気の観測が広がっている。仮想通貨を専門とする調査会社Messari(メサーリ)によると、この1カ月間でイーサリアムとビットコインの価格は15%以上下落し、ソラナなどのアルトコインに至っては34%下落した。
今後ユーザーがさらに増えるには、規制の明確化、ブロックチェーンのアップグレード、そして仮想通貨エコシステムに機関投資家の資金が流入することが鍵になる、とアームストロングは見ている。
コインベースは規制を遵守している、とアームストロングが語る通り、同社は2022年1月、米商品先物取引委員会(CFTC)の規制下にあるデリバティブ取引所「FairX」の買収を発表した。
「アメリカ国内外で規制がどんどん整備されており、仮想通貨空間の信頼性も高まっています」とアームストロングは言う。
しかし、コインベースは規制当局の厳しい目に晒されてもいる。同社は貸付プログラムを計画していたが、米証券取引委員会(SEC)は2021年9月、プログラムを実施すれば法的措置をとると警告した(計画はその後中止)。これを受けてアームストロングは、「当局の対応は『本当に大雑把』だが当社は指示に従う」とツイートした。
アームストロングはミルケン会議において、アメリカの規制環境には「楽観的になれる要素」がまだあると語り、今年3月にバイデン大統領が出したデジタル資産に関する大統領令に言及した。
「『この技術のイノベーションの可能性を保護する必要がある』という発言もあり、とても勇気づけられました。これはアメリカに大きな機会があることを示しており、そうした機会を守っていきたいと思っています」
一方、アーク・インベスト(Ark Invest)のキャシー・ウッド(Cathie Wood)CEOは、規制には明確性が欠けており、これが特に機関投資家による仮想通貨の導入を遅らせる要因になっていると語る。
「運がよくなければ、『規制のアービトラージ』によってこの市場は消え去ってしまうでしょう」。ミルケン会議でのパネルにアームストロングとともに登壇したウッドは、そう述べた。
「技術面はどんどん改善されている」
仮想通貨の主な問題はそれを動かしている技術にある、と批評家は言う。しかしアームストロングは、技術面は継続的に改善していると考えている。
例えば、最大のスマートコントラクトのネットワークを見てみよう。イーサリアムの拡張性や処理速度、エネルギー効率はよく非難の的になる。統計ウェブサイトStasticaの1月10日付けのレポートによると、イーサリアムのブロックチェーンでの1回のトランザクションは、Visaカード数千回の取引のエネルギー消費量に匹敵する。
しかしイーサリアム財団(Ethereum Foundation)は、「Eth2」または「The Merge」と呼ばれるアップグレードに取り組んでいると主張している。このアップグレードは、ネットワークのインフラに対する不満に対処する目的で行われているもので、「プルーフ・オブ・ワーク」の合意メカニズムから「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」モデルへの移行が含まれている。財団によると、PoSはエネルギー集約度が低いという。
「こうした新たなイノベーションが多数起きています」とアームストロングは指摘し、DeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)、DAO(分散型自律組織)などを引き合いに出した。「テクノロジーはどんどん向上しており、一般の人々が利用しやすくなっています」
ただし、こうした複数段階のアップグレードがいつ実現するのかは不明だ。イーサリアムのプログラム開発に携わるティム・ベイコ(Tim Beiko)は、4月12日付けのツイートで「移行には6月から『数カ月』かかる可能性が高い」と述べているが、「まだスケジュールは確定していない」という。
アームストロングは、ここ数年で機関投資家の資金からおよそ1000億ドル(約13兆円)が仮想通貨界隈に流入したと語り、コインベースが正式な資産保管機関となり「プライムブローカー」になったことで仮想通貨の導入がさらに進んだのではないかと述べた。
「こうした機能が一体化し始めており、その重要性が非常に高まっています」とアームストロングは付け加えた。
イーロン・マスクと「分散型Twitter」
アームストロングは仮想通貨の未来に強気の見方を示す一方で、テスラのイーロン・マスクによる(分散型メディアである)Twitter買収の行く末についても予想した。莫大な資産を持つマスクは、Twitterのアルゴリズムを開示し、ユーザーが自分のフィードの仕組みを見られるようにすることに前向きだ。
それが実現すれば、アームストロングにとっては分散型ソーシャルメディアアプリケーション(「DeSo」、つまりTwitterのWeb3バージョン)の様相を呈してくるだろう。
仮想通貨の推進派の多くは長らく透明性について懸念を示しており、Twitterという巨大なソーシャルメディアのプラットフォームに分散型のプロトコルを導入するよう求めている。
「Twitterには本質的に、分散型プロトコルを採用する機会があると思う」とアームストロングは語る。
このプロトコルが実装されれば、ユーザーは自身のデータを所有できることになる。その際、ユーザー情報はファイルコイン(Filecoin)や分散型台帳に保管される。
「Twitterのひとつの可能性として、そうした方向が考えられます。Twitterがそれをやらないのであれば、競合する分散型ソーシャルメディアプロダクトを開発しようとするスタートアップや他社が複数出てくるでしょう」
(編集・常盤亜由子)