子育てをしながら社長も務める3人の女性経営者たち。左から、ナタリー・ムルエ、リア・グレアム、ホープ・ドラーシク・スミス。
写真はいずれも本人提供
母親としての顔も持つ経営者にとって、経営と育児の両立はコロナ禍でさらに困難なものになった。子どもの面倒を見るために仕事量を減らさざるを得なかった人も多い。
「経営と母親業には多くの共通点があります。例えば、成長させるためには育成の手間と時間が不可欠だという点もそうですよね」
こう話すのは、中東でラグジュアリーブランド向けのコンサルティング事業を行い、最近は欧米でも知名度を上げているメゾン・ピラミデ(Maison Pyramide)の創業者、ナタリー・ムルエ(Nathalie Mroue)だ。
同じように感じているのはムルエだけではない。夫のケヴォルと2人で、ブルックリンにある中南米レストラン「ココモ(Kokomo)」を経営しながら3歳以下の子ども3人を育てているリア・グレアムもそうだ。
グレアムにとって経営と育児の両立とは、子どものトイレトレーニングのために早起きしながら、子ども部屋で仕事の電話をすることを意味する。
経営と育児を両立するために日々のスケジュールをどう組み立てているのか、数億円の事業を成功させている2人と、2019年に事業を立ち上げた経営者を加え、3人の女性を取材した。
リモートで週4日勤務に
2016年に起業したナタリー・ムルエは、家事代行サービスや住み込みのベビーシッターに頼っているという。
Nathalie Mroue
夫とロンドンを拠点に活動するムルエは、夫婦ともにフルタイムで働きながら3歳と7歳の子ども2人を育てている。2021年には売り上げも数百万ドル(数億円)規模となった(Insiderも文書で確認済み)。
仕事はリモートで行い、週4日勤務にしているとムルエは言う。こうすることで、必要に応じて柔軟に子どもの面倒を見ることができる。
NPO法人のカタリスト(Catalyst)がフルタイム勤務の労働者約8000人を対象に2020年に行った調査によると、リモート勤務が可能な育児中の女性はリモート勤務ができない女性と比べて、退職を考えている割合が32%低かったという。
家族のための時間をブロックする
2人の子どもと食事を用意するグレアム。彼女の会社では無給の家族休暇が取得可能だ。
Ria Graham
グレアムは子どもと過ごすために朝の早い時間をブロックしている。5時に起き、娘のトイレトレーニングをしてから、家族でお祈りをし、その後朝食の準備だ。
朝9時までには仕事に集中する。レストランに出勤するのは週4日のことが多いが、自宅でデスクワークもしているという。
家族と夕食をとってゆっくりできるよう、17時までには仕事を終わらせるようにしているというが、子どもたちを寝かしつけた後に少しだけ仕事をすることもある。
「両立は本当に大変です」と話すグレアムのビジネスは、2021年には400万ドル(約5億2000万円、1ドル=130円換算)の売り上げを計上した(Insiderも文書で確認済み)。
育児をサポートしてくれる人を雇う
ビスタ・エクイティ・パートナーズ(Vista Equity Partners)の創業者であり、億万長者ロバート・スミス(Robert Smith)の妻としても知られる、ホープ・ドラーシク・スミス。
Hope Smith
ホープ・ドラーシク・スミス(Hope Dworaczyk Smith)は、妊婦でも安心して使える商品を提供したいと2019年にスキンケア・ブランドのマザ(Mutha)を立ち上げた。
7歳以下の子ども4人を育てるスミスは家で仕事をすることがほとんどだ。過去6年間ではシッターも雇ってきたおかげで、事業拡大に注力することができたという。
「子育てのサポートを受けたと言いたがらない人が多いですが、それがなければ私はこの仕事は無理でしたね」
スミスは子どもたちの勉強部屋を設け、ホームスクーリングができるよう先生も雇っている。
母親社員の支援制度を設立
ムルエの会社では、子どもを持つ女性社員は半休の取得と在宅勤務が可能になっている。多くの社員がいる中東ではワーキングマザーの立場が弱いこともあり、こういった就業規則の導入は必須だったという。
スミスも自分の会社で同様の規則を設けている。加えて、母親は4カ月間の有給休暇と無制限の病気休暇が付与される。スミスは自分と息子が体調を崩して以来、病気休暇がいかに必要か気づき、制度を設けた。これにより、母親社員は有休を使い果たしてしまうのではと気をもまずに済むようになったという。
グレアムの会社では育児休業制度は設けていないものの、母親たちが自分や家族のためにも使える無給の家族休暇や、生命保険、確定拠出年金、障害所得補償保険、通勤手当などを付与している。使わなかった病気休暇は有給の育休として使ったり、出産時にトラブルが発生した場合には会社の傷害保険を利用したりすることもできる。グレアムはこう語る。
「うちの会社は女性幹部を多く抱える、家族経営の企業です。だから最低限の給料を払うだけでなく、彼女たちの生活や家族も守る必要があるんです」
(翻訳・田原真梨子、編集・野田翔)