ロシア・ウクライナ戦争による資源高および電気料金の高騰を背景に、電気自動車(EV)普及の見通しを疑問視する声が高まっている。しかし、EV市場の専門家たちは確信を抱いているようだ。
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イーロン・マスク率いるテスラが先陣を切って、電気自動車(EV)の普及がこの5年間で劇的に進んだ。
レガシー自動車大手が居眠り運転を続けている間に、テスラはEV分野のテクノロジーを武器に優位に立ち、その株価はパンデミック発生以前の10倍近くに跳ね上がった。
ただ、同じ電動化の波に乗り、大きな成長の余地を残しながらも、テスラほどの輝きを放つことができなかった競合は多い。
内燃機関車から電気自動車への移行は、二酸化炭素排出量を削減する世界的な取り組みに不可欠な構成要素だが、そのペースは2015年のパリ協定で定められた国際目標を達成するにはほど遠いものだ。
EV移行を足止めする最も大きな際立った障害として挙げられるのが、EV向けの充電インフラの不足。充電切れで立ち往生するような事態は起こらないと確信できなければ、消費者はEVを選ばない。
ほとんどの先進国では、あらゆる町、あらゆる幹線道路沿いに複数のガソリンスタンドがあるのが普通だ。どこで道に迷っても給油に困らない状況に、ガソリン車あるいはディーゼル車を運転する誰もが慣れきっている。
一方、EVについては状況が大きく異なる。自宅で充電できる便利さはあるものの、ひとたび公道に出ると油断ならない。EVの充電ポイントはガソリンやディーゼルのそれに比べて数が少なく、ポイント同士の間隔も離れている。
ガソリンや液化石油ガス(LPG)の給油と同じようにいつでも充電できるインフラの整備は、エネルギー転換に向けた不可欠のステップであり、今後そこに企業や政府から莫大な資金が投じられることは間違いない。
もちろん、それは投資家にとって大きなチャンスを生み出すことになる。
ドイツの指数提供会社(インデックスプロバイダー)ソラクティブ(Solactive)調査部門責任者のシャオチェン・リンは、同社作成の資料中で次のように指摘する。
「EV関連の投資機会と言えば、まず最初に思いつくのはいまや世界の至るところで目にするようになったテスラのようなEVメーカーですが、内燃機関車ラインナップの全面的なEVシフトを急ぐレガシー自動車メーカーもどんどん増えています。
EVは間違いなく自動車産業における主要な成長トレンドであり、世界の自動車販売台数に占めるシェアは現在の3%から2040年には60%近くにまで増えると予測されています。
そうした予測を背景に、EV関連企業の株価は力強い伸びを示しており、レガシー自動車メーカーに比べて圧倒的に高いバリュエーション(企業価値評価)を受けています。それはもちろん、将来予想される成長が株価に織り込み済みということです。
ただし、そこで見落とされがちなのが、将来の成長を実現するエコシステム構築の必要性です。2040年に6億台ものEVが世界の公道を走るためには、充電インフラを商用向け、消費者向けの両方に、しかも大々的に拡張する必要があります」
また、テーマ型上場投資信託(ETF)を提供する英ハンETF(HANetf)のヘクター・マクニール共同最高経営責任者(Co-CEO)は次のように強調する。
「自動車の未来は電動化にあります。深センからサンフランシスコまで、数十年後にはEVの走る光景が日常になるでしょう。ただし、そうした自動車革命は充電能力の大幅な増強なしには実現し得ません。
20世紀に内燃機関車の普及がガソリンスタンドの整備を必要としたように、21世紀のEV革命には数多くの充電ステーションと家庭用充電ユニットが必要なのです」
EV革命がもたらす主な投資機会は2つ、充電設備メーカーとEV向け充電ステーションだ。
ソラクティブのリン(前出)によれば、前者には、EV所有者のガレージや家屋、職場、あるいは既存の駐車場に設置可能な充電設備を提供するメーカーが含まれる。
投資対象となる具体的な企業名として、リンは以下を挙げる。
- ブリンク・チャージング(Blink Charging)アメリカ
- ウォールボックス(Wallbox)スペイン
- ビーム・グローバル(Beam Global)アメリカ
- ザプテック(Zaptec)ノルウェー
- シーテック(CTek)イギリス
一方、後者のEV向け充電ステーションについては、充電インフラのネットワーク構築にかかわる企業が含まれる。
「システムとしてのEV充電ソリューションを提供するためには、充電設備の製造に必要な知見やスキルとは別に、ネットワークの設計、設置ロケーションの計画とその最適化、ステーション建設に関する専門知識が必要になります」
具体的な企業名として、リンは以下を挙げる。
- チャージポイント(ChargePoint Holdings)アメリカ
- EVゴー(EVgo)アメリカ
- コンプレオ・チャージング・ソリューションズ(Compleo Charging Solutions)ドイツ
また、上記のような銘柄への分散的なエクスポージャー(=特定のリスクにさらす資産の割合)を取るテーマ別ETFを購入するのも選択肢だ。
いずれも前出のハンetfとソラクティブが最近リリースした上場投資信託「エレクトリック・ビークル・チャージング・インフラストラクチャー・UCITS ETF」は、リンが上で挙げたすべての企業が組み込み銘柄となっている。
(翻訳・編集:川村力)