Gabriel Ramos/Getty Images
- アメリカではここ3年で「ゴールデンパスポート」を購入する富裕層が急増している。
- プログラムによっては、その国に数百万ドルを投資した外国人に市民権を与えるケースもある。
- ゴールデンパスポートを求めるアメリカ人は、新型コロナウイルス感染症や気候変動、政治的分断をその理由に挙げていると複数の企業がInsiderに語った。
ビリオネアやテック界の起業家、有名人が家族のためにも「次善の策」を用意しておきたいと考える中、アメリカではここ3年で外国の市民権や在留資格を申請する富裕層が急増していると、複数の投資移民を手掛ける企業がInsiderに語った。
世界では12カ国以上が自国への投資と引き換えに裕福な外国人に市民権または在留資格を与える、いわゆる「ゴールデンパスポート」やビザを提供している。フォーブスによると、最も高額なものだとマルタの110万ドル(約1億4400万円)からオーストリアの950万ドルまで、さまざまなプログラムがあるという。
「わたしたちはこうしたプログラムを1つの保険と見なしています」とLatitude Residency & Citizenshipのマネージング・パートナーのエズディーン・ソレイマン(Ezzedeen Soleiman)氏は言う。
「これまでに数人のビリオネアから問い合わせがあり、気候災害や嵐、パンデミックが起きた時にどこに住むのが一番良いか、尋ねられました」
世界中の富裕層の申請手続きを支援しているLatitude Residency & Citizenshipでは、アメリカ人からの問い合わせが2019年から2021年で300%増加したという。市民権の取得を仲介する業界大手のHenley & Partnersは、アメリカ人に対する売り上げが2019年から2020年で327%伸び、2021年にはさらに10%伸びたと話している。
グーグルの元CEOエリック・シュミット氏も2020年にキプロスのゴールデンパスポート・プログラムを通じて市民権を申請したと報じられた。
Alex Wong/Getty Images
こうした動きを今、けん引しているのは「4つのC」 —— 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、気候変動(climate change)、暗号資産(cryptocurrency)、紛争(conflict) —— だとHenley & Partnersの個人顧客担当の責任者ドミニク・ヴォレク(Dominic Volek)氏は言う。
アメリカ人による申請はトランプ政権下で増加し始め、新型コロナウイルスのパンデミックによるロックダウン(都市封鎖)で加速したと、ヴォレク氏は話している。
「厳しいロックダウンの最中には、アメリカのパスポートしか持っていないとヨーロッパに入れないという時期がありました」とヴォレク氏はInsiderに語った。
「これが多くの、特に超が付くような富裕層に、自分の立場は思っていたよりもちょっと弱いのではないかと認識させたのだと思います」
Dasein AdvisorsのCEOレアズ・ジャフリ(Reaz Jafri)氏は、ここ3年で受けた問い合わせの件数は過去20年分を合計したよりも多いと話している。同社のアメリカ人の顧客はテクノロジー、不動産、暗号資産などの業界で仕事をしている、資産5000万ドルから200億ドルの人が多いという。
そして、これらの顧客には共通点が1つあるとジャフリ氏は言う。アメリカ社会の未来に対する根深い不安だ。
アジア系アメリカ人に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)の増加を懸念するテック業界の創業者から、増税を回避したい若いWeb3の起業家まで、ジャフリ氏は裕福な顧客が政治的な思想を越えて、最悪の事態に備えた計画を立てていると指摘する。
「わたしたちは皆、この2年半を生き抜いてきました」
「その経験は自分たちがいかに弱くて脆い存在であるかをわたしたちに思い出させ、手段を持っている人々は、こうしたことがまた起きるだろうと認めた上で、不意を突かれたくないと考えているのです」
「ポルトガルは次のカリフォルニア」
ポルトガルのポンタ・デルガダ。
A. Storm Photography/Shutterstock
Insiderが取材した企業のうち2社が、ポルトガルの5年間の在留許可 —— 欧州連合(EU)に加盟している26カ国にもビザなしで入国できる —— がアメリカ人投資家の間で最も人気のプログラムだと話している。
ポルトガルの「ゴールデンビザ」は、最低でも約20万ドルを投資すること、ポルトガルに平均して年に7日間滞在することを求めている。この在留許可の有効期限が切れたら、正規の市民権を申請することができ、さらに3年間滞在できる。
「ポルトガルは次のカリフォルニアです」とソレイマン氏は言う。
「とてつもない才能、とてつもない富が流入しています」
そして、超富裕層のアメリカ人は自分たちの子どもや孫たちのための「遺産」としてヨーロッパに根を張りたいと考えていると、ソレイマン氏は指摘した。
「彼らの多くがアメリカで今、起きていることに失望しているか、かつてアメリカにあったチャンスがなくなったと考えているかのいずれかです」
ただ、ゴールデンパスポートを手にした人の多くは最終的にその国に移住することはなく、中には全く訪れることのない人もいると、ガーディアンの2021年のマルタの市民権プログラムに関する調査報道は明らかにしている。
Henley & Partnersのヴォレク氏も「わたしたちの顧客も実際に移住する人はほとんどいません」と話している。
「顧客の大半は手に入る選択肢が欲しいというだけです」
ゴールデンパスポートを求めるアメリカ人が急増する一方で、こうしたプログラムは「怪しい人物」や「不正な金」がEUに入り込む抜け穴を作っているのではないかとの懸念もある。
テンプル大学の国際法の教授で、多重国籍や多重市民権に詳しいピーター・スピロ(Peter Spiro)氏は、Henley & Partnersのような大手企業は申請者を入念に調べることに「強い関心」を持っているとInsiderに語った。
「彼らはそれで大金を稼いでいますし、稼ぎ続けたいと考えています。だからこそ、彼らにはデューデリジェンスをきちんと行うインセンティブがあるのです。彼らはしっかりと仕事をしてきたと、わたしは思っています」
ただ、業界自体にはこれといった規制がないため、ヴォレク氏は投資移民を手掛ける比較的小さな企業の中には、申請者をきちんと調べていないところもあるとInsiderに語っている。
(翻訳、編集:山口佳美)