撮影:今村拓馬
パワフルな波、ツバメに馬、ペイズリー。色鮮やかな模様が描かれたバッグたちがウインドウ越しに目に飛び込んでくる。見ているだけで元気をくれる。それが、東京・代官山にショップを構えるウガンダ発のファッションブランド「RICCI EVERYDAY(リッチーエブリデイ、以下リッチー)」だ。アフリカンプリントで作られたバッグや雑貨を現地で製造し、日本で販売する。
創業者である仲本千津(37)は、決してブレない。SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)の推進をビジネスの幹とするエシカル企業として、単に「メイド・イン・アフリカ」のものを売るだけでなく、現地に雇用を創出することで国の復興まで見据える。
アフリカ支援を掲げる社会起業家は他にもいるが、仲本が注力するのがウガンダだ。笹川アフリカ協会(現ササカワ・アフリカ財団)の駐在員として訪れた地。そこでアフリカンプリントを見つけ、バッグ作りを思いついた。ウガンダと日本を行き来しながら2022年8月で創業7年を迎える。
コロナ前から逆風が吹いていたアパレル業界にとって、コロナはさらなる一撃になった。ブルックス・ブラザーズのような伝統企業でさえ経営破綻を免れなかった。民間会社の調査によると、2020年の国内アパレル総小売市場規模は前年比81.9%と苦戦を強いられているが、リッチーは順調に業績を伸ばしている。
学生インターンの一言で逃れた窮地
パンデミックによって対面販売に影響が出たのはリッチーも同じだ。そんな中、インターン学生から出たアイデアが風向きを変えた。
提供:RICCI EVERYDAY
「コロナ禍になって2020年も何とかプラスで、2021年は前年比のプラス30%で売り上げは推移しました。なんというか、もう奇跡ですね。最初の緊急事態宣言では百貨店も全部休業しました。決まっていたイベントやポップアップショップも軒並みキャンセルになり、どうやって生き延びればいいんだっていう。もう、不安しかなかったですね。あのときが一番怖かったです」
なにしろ売る場所がない。リモートで社内会議をするなか、インターンの学生から「あの~、だったら、ポップアップに出す予定だったものとか、小物とかも全部オンラインのほうに載せませんか?」という声があがった。当時、リッチーのオンラインストアはバッグのみの販売だったが、掲載アイテムを一気に増やした。
対面ができないならオンラインでいこうと、仲本は腹をくくった。提案してくれた学生が中心になって商品を撮影するなど、若いスタッフの活躍で、オンラインに集客するという流れがつくれた。同時期に仲本はインスタのライブ配信を始め、SNSでの発信を強化した。
ビビッドなアフリカンプリントのバッグやグッズは「インスタ映え」する。視覚に訴えるものがあるのだ。コロナ感染におびえる暮らしの中で、目に飛び込んでくるパワフルな絵柄は女性たちに歓迎され、売り上げの4割だったオンラインストアは6割を占めるようになる。同時に、SNSのダイレクトメールで「元気をもらえる」「(注文したものを)開ける瞬間が幸せ」と購入者から声が届いた。発送時にはレターやパンフレットをしのばせた。
「レターもインスタライブも、お客様と少しでもつながりを持っていたいという気持ちでした。ウガンダの人たちのモノ作りは持続可能なかたちでやってきたものなので、それを紹介することがお客様にとっても新たな発見、学びといったらおこがましいですが、プラスになるんじゃないかなと思っています」
仲本が大切にしてきた客とのつながりは、アナログからデジタルへ鮮やかにシフトチェンジした。
「リッチーだけ安泰ならいいというのは違う」
ウガンダの首都カンパラ近郊にあるリッチーの工房では、19人の従業員が働く。
提供:RICCI EVERYDAY
販売手法をシフトさせる一方で、商品を製造するウガンダの工房は一時ストップした。ウガンダ政府から、コロナ感染防止のため企業や工場へ運営停止の通達が来たからだ。日本であれば概ねでも停止の期限を示すが、それもなかった。
「これ、半年とか1年続いちゃったら、会社が潰れちゃうって思いました。しかも、私はたまたま日本にいて、しばらくウガンダに入国できませんでした。あの(2020年の)4月は本当に生きた心地がしなかったですね」
2カ月後に運よく工房が再開され、仲本も10月にはウガンダに行くことができた。彼女が新たに始めたのは「ウガンダにもっとフォーカスする」だった。まだ遭遇できてなかったいろんなクリエーターに会いに駆けずり回った。
そのなかでいくつもの新商品が生まれていった。例えば、バーククロスという木の皮を布のように伸ばして作ったバッグ。かつてウガンダ王国の王族がまとったと言われ、1000年前から受け継がれてきた伝統技術である。
「コットンが入って一気に駆逐されちゃったのですが、今でも伝統的な儀式で使われたりしている。バーククロスはアフリカのそこここにある。リサイクルペーパーをピアスやネックレスなどにする既存商品のペーパービーズのように、持続可能なモノ作りです」
クリエーターはそれまで観光でウガンダにやってくる外国人向けに販売していた。だが、コロナ禍で外国人はもう来ない。仲本たちが一瞬経験した「売る場所がない」状態。つまり、営業活動が継続できない状態になりかかっていた。
「私達は幸いにして日本というマーケットがありました。若干シュリンクはしたけれど販売は継続できる。でも、リッチーだけ安泰ならいいというのは違う。自分たちさえという感覚じゃ駄目だよなって思って。そこで日本のお客様にほかのクリエーターたちの商品をつなげることにしました。今はウガンダのさまざまな工房と提携をし、リッチーがデザインを提供して生産管理をしています」
従業員に無利子で融資
撮影:今村拓馬
さらに仲本は、ウガンダで働く19人の従業員に無利子で融資もしている。子どもの教育費、自身の医療費、眼鏡代、母親に「車椅子を買ってあげられた」と喜ぶ顔も見た。きらびやかなファッションショーや展示会が開かれる裏で、低賃金で長時間働かされる人たちの問題がこの業界にはある。
「今までいろんなところで誰かが犠牲になってビジネスが成立していました。大量生産を支えるための一つの駒として使われてしまっていたり。環境汚染があれば、それに苦しむ人が出てくる。だから、私は誰も犠牲にならないモノ作りをしたいのです」
社会起業家としての高い志は、ともすれば、利上げや利益を後回しにしがちだ。しかし、仲本は二つの車輪を軽やかに走らせる。
次回は、その志をどう得たのかを伝える。
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(文・島沢優子、写真・今村拓馬、連載ロゴデザイン・星野美緒)
島沢優子:筑波大学卒業後、英国留学等を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』の人気連載「現代の肖像」やネットニュース等でスポーツ、教育関係を中心に執筆。『部活があぶない』『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』など著書多数。