ボヤージ・フーズのピーナツバター、チョコレート、 コーヒーのサンプル商品。
Voyage Foods
ブドウの種は、毎年、世界中のワイナリーで廃棄される何百万トンもの廃棄物の一つだ。しかし、代替食品のスタートアップ企業であるボヤージ・フーズ(Voyage Foods)にとっては、これらのブドウの種はチョコレート作りには欠かせないものである。
ボヤージ・フーズのアダム・マックスウェル(Adam Maxwell)CEOはInsiderの取材に対し、農業が気候変動の影響を受ける中、同社の化学者や食品科学者のチームは、ブドウの種を加工することでローココアと同じ深い味わいを生み出すレシピを開発したと語った。
ボヤージ・フーズはココアやコーヒーについても代替食品の開発を進めている。というのも、地球温暖化に伴ってコーヒー栽培に利用できる土地が減少すると米州開発銀行(Inter-American Development Bank)が予測しているように、温室効果ガスを生じさせる化石燃料などが使われ続けることで、ココアやコーヒーの生産が脅かされているからだ。
「これらは気候変動で壊滅的な打撃を受ける可能性が高い作物です」とマックスウェルは語る。「そこで、『どうすればこの先もこれらの食品を存続させられるだろうか』という課題に行き当たったんです」
「分子工学」
ビヨンド・ミート(Beyond Meat)、インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)、オートリー(Oatly)などのスタートアップ企業は、動物性の肉や牛乳に代わる植物性代替食品で知られるようになった。これらの企業は、より環境に優しく、倫理的に問題のあるサプライチェーンから抜け出す手段として、自社の製品を販売している。
それと同じように、家庭でおなじみのコーヒー、ピーナッツバター、チョコレートといった食品に目をつけたスタートアップ企業が、いま続々と代替食品の開発に乗り出している。
ボヤージ・フーズは2022年4月28日、直近の資金調達ラウンドであるシリーズAで3600万ドル(約47億円、1ドル=130円換算)相当の資金を調達したと発表した。
同社は今後数カ月以内に、消費者向けの代替食品の直販を開始する準備をしており、まずは2022年6月に他の種や穀物を使ってピーナッツバターのような味のスプレッドを販売する予定だとマックスウェルは言う。同氏によると、2022年夏にはブドウの種を使ったチョコレート、年末までにはコーヒーがこれに続いて発売される予定だという。
コーヒーやチョコレートは厳密にはすでに「植物由来」の食品だが、これらを生産する企業やシステムには多くの問題がある、とマックスウェルは言う。
気候変動の脅威のほか、カカオもコーヒーも水を大量に消費する作物であり、発展途上国の労働力に依存しているというのだ。
例えば、ハーシー(Hershey)、ネスレ(Nestlé)、モンデリーズ(Mondelez)といった一流チョコレートメーカーは、契約する西アフリカのカカオ農園での強制労働(児童労働を含む)撲滅に向けた取り組みが十分でないとして批判にさらされている。
マックスウェルは、ボヤージ・フーズの目標は従来の食品の味や食感に近い代替食材を見つけることだと述べ、こうつけ加えた。
「当社は基本的には、再現しようとする食品と、ある程度似た性質や分子構造を持つ原料を探しています」
同様のアプローチをとる代替食品企業としては、チリに拠点を置くノット・カンパニー(NotCo)がある。同社は、キャベツやパイナップルなどの食材を使って、牛乳に含まれる乳糖の味を再現している。また、ブドウの皮やナツメヤシ種子、チコリの根などを使ってコーヒーを作るアトモコーヒー(AtomoCoffee)もそうだ。
ボヤージ・フーズの食品加工設備は、従来のチョコレートの製造に使われるものと似ていると、マックスウェルは言う。
「当社では従来の食品に使われるものとほとんど同じ機材を使い、生産工程もほぼ同じです。ココアの香りを引き出す方法が少し違うくらいでしょうか」
同社のシリーズAに投資したレベル・ワン・ファンド(Level One Fund)の創業パートナーであるジェームズ・スチュワート(James Stewart)は、「私はこれを『分子工学』と呼んでいる」と話す。
スチュワートは、この分子工学の技術において2つの点で感銘を受けたという。「分子工学は、従来の食品よりもはるかに低コストで食品を作ることができる」うえに「より環境に優しく、より速く作れ、より大規模に展開できる」と言う。
価格だけでなく気候変動でも競う
カナダのハリファックスにあるダルハウジー大学(Dalhousie University)で、食品政策と流通を研究するシルヴァン・シャルルボワ(Sylvain Charlebois)教授は、ボヤージ・フーズにせよアトモコーヒーにせよ、スタートアップ企業がチョコレートやコーヒーのような新ジャンルに挑戦することは容易ではないと語る。
同教授は価格が大きなネックになる可能性があると指摘する。原材料費や製造コストは抑えられても、広告宣伝や小売店での流通など、名だたる既存企業と競争するうえで必要となるブランド構築のための費用は、当初は重くのしかかると予想されるからだ。
市場に進出して既に何年も経っているビヨンド・ミートやインポッシブルでさえ、自社の製品価格を本物の牛肉と同じ価格帯に近づけようといまだに奮闘している。
消費者がボヤージ・フーズのチョコレートのような代替食品をこぞって手に取るようになるためには、これらの商品を購入する経済的余裕があり、かつ代替食品が好きでなければならないと、シャルルボワは語る。「富裕層向けに開発された食品が一部存在するとはいえ、実際にはもっと一般的な製品開発を可能にする食品イノベーションが必要だと思います」
マックスウェルによると、ボヤージ・フーズは発売開始から数カ月のうちに小売店での展開も考えているという。
だが長期的な目標は、世界的な食品会社にボヤージ・フーズの製品を原材料として使ってもらうことだ。マックスウェルは、すでに「数十億ドル規模の製菓会社」と組んだ共同ブランドのチョコレートバーを今年の第3四半期に発売するべく準備をしていると話す。
「こうした多国籍企業に協力することが、変化を起こすために当社ができる最大の方法なんです。我々がやろうと思ったらものすごく時間がかかるような大規模な展開を、彼らはすでにやっていますからね」
※この記事は2022年5月13日初出です。