ポリゴン・スタジオ(Polygon Studios)最高経営責任者(CEO)のライアン・ワイアット。
Polygon
ユーチューブ(YouTube)出身のライアン・ワイアットは、ユーザーが自ら制作したコンテンツをマネタイズする方法、つまりクリエイターエコノミーの何たるかを知悉(ちしつ)している。
ブロックチェーンゲームとNFT(非代替性トークン)に特化したポリゴン・スタジオ(Polygon Studios、イーサリアム向けのスケーリングソリューションを開発するポリゴンが2021年7月に新設)CEOに転身したワイアットは、いまの仕事がクリエイターエコノミーに「不気味なほど似ている」と語る。
「考えてもみれば、開発者のエコシステムとしてのWeb3とクリエイターエコノミーには多くの類似点がありますよね」
ワイアットはユーチューブのゲーム部門をゼロから立ち上げた人物。それ以前は、eスポーツの草分け的存在である米メジャーリーグ・ゲーミング(MLG)のバイスプレジデント(番組担当)を務めていた。
現在35歳のワイアットは2021年、ゲーム業界にベンチャーキャピタルからの資金が大量流入していることに気づいた。以前は事業資金と言えば、大手投資会社ではなくゲームパブリッシャー(販売・配信会社)から調達するのが一般的だった。
「私が本当に信頼している人たち、本当に頭が切れると思っている人たちが、それぞれに資金を集めて次々とゲーム開発スタジオを立ち上げていることが分かってきました。
彼らがその資金でやろうとしていたのは、ブロックチェーン技術を基盤にしたゲームだったのです。私もワクワクしてきました」
アンドリーセン・ホロヴィッツ、タイガー・グローバル・マネジメント、セコイア・キャピタルなど大手ベンチャーキャピタルはいずれも、ブロックチェーンゲームの黎明期から投資を続けてきた。
ブロックチェーン専門の調査会社ダップレーダー(DappRadar)によれば、ブロックチェーンゲーム開発企業による資金調達額(2021年)は40億ドル(約5200億円)超に達している。
ゲームに組み込まれたNFTについて、ワイアットは「マネタイズの新たな手段」と評価する。
「(従来の)ユーザーとゲーム開発者の間の取り決めは一種のライセンス付与です。しかも、ほとんどの場合においてゲーム内のアイテムには流動性がありませんでした。
ところが、アイテムをブロックチェーン上でトークン化された資産にすることで、ゲームスタジオとそのエコシステムに参加するプレイヤー(ユーザー)の双方が、新たなマネタイズ戦略を展開できるようになるのです」(ワイアット)
現時点で最も浸透しているのは、プレイヤーがゲーム内で操作するキャラクターのスキン(=衣装などの見た目)の購入だ。ゲーム内アイテムのマーケットプレイス「DMarket(ディーマーケット)」によれば、その市場規模はおよそ年400億ドル(約5兆2000億円)に達する。
ゲーム実況配信プラットフォーム「ツイッチ(Twitch)」共同創業者のジャスティン・カンはInsiderの取材に対し、ブロックチェーンゲームの登場により、プレイヤーは仮想空間に存在するモノについて「真の」所有権を手にしたと語っている。
2021年12月にゲームNFTマーケットプレイス「フラクタル(Fractal)」をローンチさせたカンは、さらにこう強調する。
「(ブロックチェーンゲームと従来型ゲームの)たったひとつの違いは、ゲーム開発スタジオ側が支配権を手放したこと。その代わり、彼らはより堅固な経済圏を手にしたのです」
詳しくない人のためにあらかじめ説明しておくと、ポリゴンなどが手がける「レイヤー2(L2)」は、イーサリアム(Ethereum)ブロックチェーン上に構築されたスケーリング(拡張)のためのソリューション全般を指す。
ポリゴンのソリューションを活用すれば、開発者は同社のブロックチェーンネットワーク上に分散型アプリケーション(dApps)を構築できることから、高い需要を集めている。
ポリゴンのブロックチェーンネットワーク上にゲームを構築してNFTを発行することも可能で、そうしたユースケースが増え続けている。
ポリゴンは2022年2月、セコイア・キャピタル・インディアがリードインベスターを務める資金調達ラウンドで4億5000万ドル(約585億円)を集めたと発表。ソフトバンク・ビジョン・ファンド2、タイガー・グローバル、ギャラクシー・インタラクティブなども資金提供に加わった。
また、同社はこれまでにデジタルアーティストのビープル(Beeple)、NFTマーケットプレイスのオープンシー(OpenSea)、高級ファッションブランドのドルチェ&ガッバーナ、デジタルスポーツエンタテインメント大手ドラフトキングス(DraftKings)との提携も発表している。
ワイアットはオンライン決済大手ストライプ(Stripe)が仮想通貨支払いサービスのインフラとしてポリゴンのネットワークを採用した(4月22日発表)ことに触れ、「世界で最も評判の良い企業が、デューデリジェンス(=経営・財務状況調査などを通じた適性評価手続き)を経てポリゴンを選んでいる」と強調する。
「レイヤー2」ソリューションの行く先
ポリゴンの代表的な技術ソリューションとしては、スーパーネッツ(Supernets)とプルーフ・オブ・ステーク(PoS)が挙げられる。
前者はアプリケーション開発に特化したブロックチェーン構築ツールで、開発者は自由度の高いさまざまな設定が可能になる。同社はスーパーネッツの開発と普及のために1億ドル(約130億円)を出資すると発表している。
後者はトランザクション(=取引)を確定する際のコンセンサスアルゴリズム(=承認方法)の一種で、従来のプルーフ・オブ・ワーク(PoW)に比べて大幅にエネルギー消費を減らし、スループット(=単位時間あたりの処理量)を向上させることができる。
ポリゴンの手数料、いわゆるガス代はイーサリアムより断然安い。また、イーサリアムのトランザクション数が毎秒13~17件程度にとどまるのに対し、ポリゴンは毎秒7000件の処理が可能とされる。
ただし、スケーラビリティ問題(=ユーザー数の増加による処理の遅延や手数料の高騰)を抱えるイーサリアムのレイヤー2スケーリングソリューションを手がけるのはポリゴンだけではない。
アービトラム(Arbitrum)やループリング(Loopring)、エックスダイ・チェーン(xDai Chain)、オプティミズム(Optimism)、イミュータブル・エックス(Immutable X)が同業他社として挙げられる。
また、イーサリアムそのものも(当初の予定からは遅れたが)数カ月後に「ザ・マージ(The Merge)」と呼ばれるアップグレードを予定している。
このアップグレードには、ポリゴンが採用するプルーフ・オブ・ステークへの移行によるエネルギー消費の削減が含まれる。
ネイティブトークンは低調
大規模資金調達や巨大企業との提携発表で話題豊富なポリゴンだが、2019年4月にローンチしたネイティブトークン「マティック(MATIC)」は、年初来続く株式市場の低迷に連動した暗号資産(仮想通貨)全般の低迷に流されるままになっている。
マティックは過去1カ月で30.34%の下落を記録。5月9日の終値は0.80ドルで、1年近く前(2021年7月)につけた価格水準まで落ち込んだ。
史上最高値は2021年12月27日に記録した2.92ドルで、それとの比較では72.6%の下落。時価総額はおよそ68億ドルまで目減りしている。
(翻訳・編集:川村力)