無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


サーキュラー・エコノミー、インパクト投資がカギ?「刑務所との協働」から生まれるイノベーション

event

画像:MASHING UP

2022年3月17日に東京で開催された「刑務所と協働するソーシャル・イノベーション」は、どうすれば受刑者の再犯を防ぎ、「誰も置いていかない」社会を構築できるかを、さまざまな角度から考えるカンファレンスだ。

刑務所で改善更生をした受刑者が、出所後に社会復帰するためには何が必要か。再犯防止につながるソーシャルイノベーションの可能性などをセッション、ワークショップを通して意見交換を行った。

刑務所と協働し、成長し続けるイギリスの企業

socialinnovaion1

「Recycling Lives」最高経営責任者のアラスデア・ジャクソンさん。Recycling Livesはイギリス国内でさまざまな賞、勲章を受賞している。

撮影:鈴木真弓

基調講演Part.1では地域貢献、循環型経済、さらに元受刑者の再犯防止を実現した「Recycling Lives(リサイクリング ライブス)」の代表・アラスデア・ジャクソンさんがビデオで登場した。

Recycling Livesは、地域で廃棄されたテレビ、パソコンなどを修理再生し、市場に還元しているイギリスの企業だ。イングランド北西部の7つの刑務所に作業場を設置。受刑者へリサイクル技術を指導し、修理に必要な国家資格取得をサポート、出所後の就職支援も行っている。

いまやヨーロッパ全域で広がるサーキュラーエコノミーの一翼を担う、代表的企業となったRecycling Livesだが、ジャクソンさんは、プロジェクトをすすめる過程で生まれた心境の変化をこう語った。

「当初は、作業所を自分達のために働いてくれる場所と考えていましたが、何年も続ける中で作業する彼らの助けになりたいと思うようになりました。彼らは、リサイクル技術以上のことを必要としていると知ったからです」(ジャクソンさん)

イギリスでも出所者に対するさまざまな偏見があり、社会復帰の際の障害になっているという。

私たちの取り組みで大事なことは、彼らの権利擁護であり更生のための機会が得られるように代弁すること。もし刑務所や受刑者と協働を考えているならば、刑務所の入所経験者の雇用を検討してください。それは大きな強みであり、プログラムに参加する受刑者にとっても、大きな“やる気の源”になるからです」(ジャクソンさん)

プロジェクトスタート時のRecycling Livesは中規模の企業だったが、現在は年間100億ポンド(約1兆6000億円)を売り上げるまで事業を拡大。「人を助けるほどあなたは成長できるし、あなたが成長すればより多くの人を助けることができる」と、刑務所・受刑者らと協働する意義を力強く語った。

開かれた刑務所は、地域との連携なしでは成り立たない

socialinnovaion2

左から田頭亜里さん、歌代正さん、山崎晴太郎さん、大野憲司さん。各パネリストが未来の開かれた刑務所のイメージを語った。

撮影:鈴木真弓

基調講演Part.2では、民間の資金とアイデアやノウハウを活用した、PFI(Private Finance Initiative)刑務所と企業の協働にフォーカス。テーマは「地方創生と未来の刑務所のあり方」だ。

登壇者は、受刑者にECサイト運営の職業訓練を行っているヤフーの大野憲司さん、長きに渡り刑務所PFI事業と関わり社会貢献に取り組んできた建設会社大林組の歌代正さん、美祢(みね)社会復帰促進センターで広告ポスター制作の職業訓練を行っている、セイタロウデザインの山崎晴太郎さんの3名。PwCアドバイザリーの田頭亜里さんがファシリテーターを務め、4者で意見を交わした。

PFI刑務所と民間企業の取り組みは、地域の課題解決にも貢献しているという。地域住民との連携が不可欠だが、4年の訓練経験を経て「手応えを感じる」と大野さんは話す。

「受刑者の方と、山口県美祢市の『道の駅』で扱う商品をECサイトで販売しています。『美祢社会復帰促進センター』では、地域の特産品の魅力が伝わるECサイトを構築するために受刑者同士が意見を交換したり、地域の道の駅の方とも対面でコミュニケーションをとれる訓練スタイルにしています」(大野さん)

山崎さんも、奈良少年刑務所内にあった「若草理容室」を例に挙げながら、PFI刑務所と地域との結びつきを前向きに語る。

「『若草理容室』は地域の人から愛されていたので、周辺住民の方は刑務所へポジティブなイメージを持っている。それを知ってから僕の概念も変わりました。こういう関係性が、各地域に拡散してほしい」(山崎さん)

歌代さんは15年前に「島根あさひ社会復帰促進センター」を誘致した際、地域住民から発された“温かい言葉”を振り返る。

」地域の方は経済の活性化もさることながら、『受刑者たちの更生に(自分たちも)関わりたい』とおっしゃっていたのが印象的でした。PFI刑務所と企業の協働は、地域の人との連携なしでは語れないし、成り立たない。“地域とともに作っている”のがPFI刑務所だと思います」(歌代さん)

「負のイメージを変える」ことが、誰も排除しない社会につながる

socialinnovaion4

(左から)「育て上げネット」の工藤啓さん、『Chance!!』の三宅晶子さん。

撮影:鈴木真弓

基調講演の後は、多彩な分野の専門家を招き3つのインスピレーショントークを展開。モデレーターはMASHING UPの遠藤祐子編集長が務めた。

1つ目は「再犯防止を目指してわたしたちにできること」をテーマに、初の受刑者専門の求人誌『Chance!!』を創刊した三宅晶子さんと、少年院内でも学習支援事業を行う認定NPO法人「育て上げネット」の工藤啓さんが登壇した。

「いい職場、人との出会いが重なれば、再犯防止への道が開ける」という三宅さん。

「出会いのきっかけを作りたい思いで求人誌を作っていますが、一般の方は(元受刑者に)負のイメージを持っている方も多くいらっしゃる。彼らを社会から排除せずに更生の道へ促すには、そのイメージを取り除くことが大切。まずは彼らを“知る”ことが第一歩になるのでは」(三宅さん)

また工藤さんは、刑務所や少年院の話題を「オープンに話し合えるのが理想」と話す。

「刑務所や少年院に関するセミナーなどの開催は多く、関心を寄せる方も大勢いる。でも、関心を持っていることをオープンにできない風潮があります。“どんな人も取り残さない”という社会的包摂を目指すならば、SNSで『こんなイベントに行ってきたよ!』と言えるようになるのも大事だと思います」(工藤さん)

刑務所にこそサーキュラーエコノミーがマッチする?

socialinnovaion5

左から安居さん、鴨志田さん。旧知のふたりのディスカッションでは建設的なアイディアが生まれた。

撮影:鈴木真弓

2つ目のインスピレーショントークは「サーキュラーエコノミーが刑務所のあり方を変える?」がテーマ。黒川温泉の「コンポストプロジェクト」で活動を同じくする、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さんと鴨志田農園園主の鴨志田純さんを迎え、未来への展望を聞いた。

刑務所とコンポストは相関性がないように思えるが、2人の柔軟な発想で、両者の連携に可能性が見出された。

「『堆肥技術者がもっと必要』と、鴨志田とよく話します。コンポストに取り組む刑務所があると聞いているので、堆肥技術者の育成をPFI刑務所と連携して行えないか、と。そうすれば、黒川温泉のコンポストプロジェクトと同様の取り組みが日本の各地域で進められ、日本全体の生ゴミが資源資材として活用できるのではないでしょうか」(安居さん)


「日本では食糧自給の前に肥料が自給できておらず、いかにして肥料自給率を上げていくかが求められています。今後、堆肥技術者の人材確保は必須。日本に堆肥技術者が5000人に1人いれば、国内で資源が循環できるのでは」(鴨志田さん)

「刑務所との協働は義務感というより、“自分にも社会にもいいことだからやりたい”という気持ち。刑務所の方と共有しながら一つずつ仕組みを作っていきたい」と、安居さんが締め括った。

行政×企業が生み出すビジネスの可能性

socialinnovaion6

オンラインで登壇した田淵さん。「再犯防止には、受刑者に対する固定観念を変える教育も必要」とコメントした。

撮影:鈴木真弓

最後は、社会的に貢献しインパクトを与える企業へ投資を続ける、Zebras and Companyの田淵良敬さんがオンラインで登壇。「ソーシャルイノベーションとお金の新しい流れ」をテーマに、イギリスで始まったソーシャルインパクトボンド(SIB)について解説した。

SIBとは行政から民間企業へプロジェクトを委託する手法の一つで、社会的成果に応じて成功報酬が支払われる。また、投資家が入るため、仮に成功報酬が支払われなかったとしてもその負担を投資家と事業者で分け合うことができ、事業者のリスクが軽減されるというメリットがあるという。

そして、投資家の視点で再犯防止を事業にできる可能性を感じる領域について、自らも投資家である田淵さんは次のように述べた。

「過去に再犯防止プロジェクトに関わったことがありますが、出所した後に『居場所がほしい』『仕事がほしい』『学びたい』というニーズがありました。これだけでコミュニティ事業、就職支援事業、教育プログラムなどがイメージできると思います」(田淵さん)

社会課題解決のためのイノベーションとして、刑務所と事業者の協働に大きな可能性が見出せた今回のカンファレンス。誰も取り残さない包摂的な社会を作るために企業がビジネスを通していかに貢献できるのか、新たな視点を得ることができた。

MASHING UPより転載(2022年4月18日公開


(文・石上直美)

石上直美:ライター・エディター。出版社にてウェルネス誌・カルチャー誌の編集者として勤務後、フリーランスに。現在は環境・ジェンダー問題などSDGs関連の記事や、ライフスタイル、インタビュー記事を中心に取材・執筆。また、社会問題をテーマとした映画レビューも手がける。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み