アップルのサービス担当上級副社長であるエディ・キューは、ストリーミングや広告といった収益性の高い分野により注力するため、760億ドル(約9兆8800億円、1ドル=130円換算)規模のサービス事業の再編を検討しており、すでにそのために幹部を昇格させている、と複数の情報筋が伝えている。
アップルのエディ・キュー上級副社長。
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アップルのサービス部門には、App Store、Apple Music、iCloud、AppleCare、Apple Pay、Apple News、広告、Apple TV+などが含まれる。
サービス部門の2022年第1四半期の売上高は17%増の198億ドル(約2兆5700億円)、有料会員数は全世界で8億2500万人と報告されている。この売上規模は、仮に単独企業と見なせばフォーチュン500社の113位に相当する。
キューと直接話したある人物によると、キューは経営体制を再編し、ストリーミングや広告などの分野により注力することで成長につなげることを検討しているという。アップルは2500万ドル(約32.5億円)を投じた映画『Coda コーダ あいのうた(原題:CODA)』でアカデミー賞作品賞を受賞したほか、Apple TV+では毎週金曜日の夜に広告付きメジャーリーグ中継のストリーミングを開始したばかりだ。
キューはすでに、アップルのスポーツ関連分野を率いる幹部の担当を変更している。その幹部とはサービス担当副社長のピーター・スターン(Peter Stern)で、LinkedInのプロフィールによると、これまでビデオ、ニュース、書籍、iCloud、広告、Fitness+、Apple Oneなどの部門の責任者を務めてきた。そのスターンが広告担当を外れたと、事情を知る3人の情報筋は言う。スターンの担当範囲は幅広いため、かなり神経を使うはずだ。
アップルは2022年4月から、毎週金曜の夜に行われる米メジャーリーグの試合をApple TV+で放送している。
提供:Apple
アップルは今後、NFLのサンデーチケット(日曜昼間に行われる試合)やNBAなど、スポーツ中継の権利が更新される時期に多くの権利獲得に乗り出すと見られている。スターンは、2016年にアップルに入社する以前はタイム・ワーナー・ケーブル(Time Warner Cable)に在籍しており、インターネット、電話、ビデオ、「インテリジェントホーム」事業を統括し、ロサンゼルス・ドジャースのメディア権獲得にも関わっていた。
スポーツTVコンサルティング会社デッサースポーツメディア(Desser Sports Media)のエド・デッサー(Ed Desser)社長は次のように話す。
「アップル特有の事情として、Apple TV+のユーザー数が比較的少ないことが挙げられます。サンデーチケットの放映権を獲得すれば、契約数を増やし、経営指標であるリフト値(編注:販促などのマーケティング施策による売上増の効果を測る指標)を高めることができるでしょう」
また、アップルはスポーツの放映権を得ることで「新規加入者」「スポーツパッケージ加入者からの追加収入」「広告収入」という3つの方法で収益化することができる、とも指摘する。
スターンが担当を外れた広告事業は、スターンの直属の部下で、同社の広告事業を10年以上にわたり担当している副社長のトッド・テレシ(Todd Teresi)の管轄下になると言われている。テレシは今年初めに密かに昇進し、現在はキューの配下にあると事情に詳しい複数の関係者は言う。
「サービス部門の事業は今や大きすぎますし、他にも成長しているセグメントは多々ありますから。広告事業は単独で展開していける規模に成長しています」と、関係者の一人は語る。
テレシの昇進は、最近のアップルの広告事業の爆発的な成長を受けたかたちだ。調査会社オムディア(Omdia)の主席アナリスト、マシュー・ベイリー(Matthew Bailey)によると、アップルの広告事業の最大の収入源である検索広告は、2021年は対前年比で238%成長し、37億ドル(約4800億円)に達したという。アップルの検索広告収入は2022年には55億ドル(約7150億円)に達するとオムディアは予測している。
アップルは2021年にユーザーのプライバシーに関するアップデートを行い、アプリ開発者にトラッキングの許可を求めることを課した。これにより、一部の広告主は検索広告に予算をシフトさせるようになった。アップルはApp Storeの他にApple Newsや株価アプリ内で広告を配信しているが、最近、MLB中継でテレビのような広告枠の販売も開始した。
ある情報筋は2人のアップル関係者から聞いた話として、テレシが「元の担当に戻る」との情報を得たと言う。テレシは以前、アップルのモバイル広告ネットワーク「iAd」を率いていたが、モバイル広告市場で1桁以上のシェアを獲得できず、2010年の立ち上げから6年でサービス終了に追い込まれていた。
なお、サービス部門で予定されているその他の役員人事については詳細不明。アップルの広報担当者はこの件に関してコメントを差し控えるとした。
(編集・常盤亜由子)