HAPSモバイルが開発する無人航空機「Sunglider(サングライダー)」が成層圏を飛行する様子。無人航空機には太陽光パネルと電池を搭載しており、太陽光をエネルギー源として稼働する。雲よりも高い高度を飛行するため、日中に日差しが陰る心配はない。
画像:HAPSモバイル
ソフトバンクの子会社で、無人航空機を使った成層圏通信プラットフォーム(HAPS)の構築を目指すHAPSモバイルは、オーストラリアのLendlease(レンドリース)社と現地・シドニーに合弁会社「HAPSMobile Australia Pty Ltd」を設立したことを発表した。出資比率は50%ずつ。
同社は今後、オーストラリアでの成層圏通信プラットフォーム事業を検討するとしている。
空から通信で、どこでも手軽にインターネットを
ソフトバンク、及びHAPSモバイル代表の宮川潤一氏(左)と、レンドリース 日本マネジング・ダイレクターのアンドリュー・ガウチ氏(右)。
画像:HAPSモバイル
成層圏通信プラットフォームとは、無人航空機を通信の「基地局」として活用することで、広範囲にわたる通信網を構築しようという取り組みだ。
携帯電話などの通信の基地局は、通常は地上にある。
ただ、地上にある基地局は、災害時に電源が喪失したり、壊れたりすると通信できなくなってしまうことがある。また、過疎地域などでは基地局の建設に多大なコストがかかるため、広範囲に安定したネットワークを構築することは難しいとされている。実際、現時点でも世界では約30億人がインターネットに接続できず生活しているという。
HAPSでは、無人の航空機を使って空から通信を担うことで、地上の基地局ではカバーできない広範囲にわたる通信網を効率的に構築できるとしている。また地震や津波などの自然災害の影響を受けにくいという利点もある。
HAPSモバイルが今回のように海外の企業と、HAPS事業の可能性を調査する事例は今回が初めて。
同社広報は、Business Insider Japanの取材に対して、
「オーストラリアの市場や事業展開に知見があるパートナーと協力し、事業調査を行うことがより効果的だと考え、合弁会社を設立しました。」(HAPSモバイル広報)
と意図を語った。
オーストラリアは広大な国土を有する一方で、人が住んでいない地域も多い。そのため、全土をカバーする基地局を建設することが困難だとされている。そこで空から通信網を構築できるHAPSの可能性に注目したわけだ。
今回の合弁会社の設立は、当然オーストラリアでのサービス展開を見越したものだと思われる。ただ、現状ではサービスローンチの時期は決まっていないようだ。
同社広報は、
「合弁会社が取り組む事業調査の結果を踏まえて、次のステップを検討して参ります」(HAPSモバイル広報)
と語った。
空から通信網を構築しようとする似たような取り組みとして、イーロン・マスク氏がスペースXで展開する人工衛星を使った通信網「Starlink」が知られている。
ただ、Starlinkでは通信用の電波を受信するために専用の端末が必要となる。一方で、HAPSモバイルが提供する成層圏プラットフォームによる通信では、専用の端末が不要。手持ちのスマートフォンなどでそのまま手軽に通信できる点に違いがある。
なお、HAPSモバイルは、ソフトバンクが2017年にこの分野のパイオニアであるアメリカのAeroVironment社と共同で設立した企業。現在、大型固定翼タイプの無人航空機の開発を進めている。
2020年には、5度目のテストフライトで、成層圏飛行からのLTE通信に成功している。2027年には機体を量産して商用化を加速し、通信ネットワークのグローバル展開を目指している。
(文・三ツ村崇志)