火星探査機インサイトとドーム型の地震計の火星での様子を示した想像図。
NASA/JPL-Caltech
- NASAの火星探査機インサイトは、火星での記録史上最大の地震を検知した。これまでの記録の16倍の規模になるという。
- インサイトは、電力不足でセーフモードに切り替わる数日前に、この大地震を検知した。
- 火星で稼働しているどのロボットにとっても共通の問題であるダストによって、2022年中にもインサイトは停止してしまう可能性がある。
アメリカ航空宇宙局(NASA)は2022年5月4日、火星探査機インサイト(InSight)によって、火星での記録史上最大の地震(火震とも呼ばれる)を検知した。これまでの記録の16倍の規模になるという。
地球であれば、これは中規模程度の地震だが、火星にとっては大地震であり、地球以外の惑星で検知された地震としては観測史上最大のものだ。
ドーム型の地震計を、インサイトが撮影した画像。
NASA/JPL-Caltech
「この地震によって、これまでにない火星の姿を見ることができる。科学者たちはこれから何年にもわたってこのデータを分析し、火星について新たなことを学んでいくだろう」とNASAのジェット推進研究所のインサイトチームを率いるブルース・バーナード(Bruce Banerdt)が、2022年5月9日の声明で述べている。
2018年、地震計はインサイトに搭載されて火星に到着した。それ以来、1300回以上の地震を検知してきたが、そのほとんどは小さな揺れだった。3年間にわたって、科学者たちは大きな地震が検知されるのを待ち構えていた。
これまで、火星で検知された最も大きな地震は、2021年9月に発生したマグニチュード4.2の地震だった。2022年5月4日の地震はマグニチュード5と推定され、9月の地震の6倍の規模で、15.8倍のエネルギーを放ったことになる(リヒタースケールによるマグニチュードは、10を底とする対数値で表され、数値が1増えると地震のエネルギーは約31.6倍になる)。
2022年5月4日にNASAの火星探査機インサイトの地震計によって検知されたマグニチュード5の地震を示す(黄色の突出した部分)スペクトログラム。
NASA/JPL-Caltech/ETH Zurich
今回の地震の震源地がどこなのか、何が原因となったのか、地震波がどのようにして火星内部へ伝わっていったのか、これらを語るのは時期尚早だ。しかし、過去3年間の地震データによって、火星の地殻は考えられていたよりも薄く、地球よりも月の地殻(小惑星の衝突により破壊されることもある)に近いことが示された。また、火星の核は液状であることも明らかになった。
インサイトは大地震を検知することに成功したが、その先行きは電力の供給問題で怪しくなっている。インサイトが設置されたのは開けた平原で、科学者が予想していたよりも風が弱く、そのためソーラーパネルに厚いダストが降り積もっているのだ。
NASAは2022年12月まで、インサイトのミッション延長と資金の供給を承認したが、「ダスト・デビル(火星の地表温度が上がり、周辺の大気よりも熱くなったときに発生する風)」がパネル上のダストを吹き飛ばさない限り、ミッションを継続できる「見込みはない」と、5月11日の声明で述べている。
ダストによりインサイトや火星ヘリコプターへの電力供給が困難に
ダストに覆われた太陽電池のひとつを、2021年6月26日にインサイトが撮影した画像。
NASA/JPL-Caltech
インサイトのチームは、科学機器に供給する太陽光エネルギーの生産量を増やそうと、1年以上にわたって苦労してきた。火星の冬が近づき、大気中のダストが増えてきた今、インサイトが受ける太陽光はますます減少している。2022年5月7日にはセーフモードを発動させるレベルにまで電力供給量が落ち込み、科学調査などの必須ではない機能の停止を余儀なくされた。このような事態は今年に入って2回目となる。
前回の火星の冬の間、インサイトは大量の電力を消費したため、NASAのエンジニアはインサイトを冬眠させ、科学機器の稼働も停止させた。2021年6月にバーナードはNASAの火星探査プログラム分析グループ(MEPAG)に対し、火星の冬が始まる2022年4月にはインサイトのミッションが終了する可能性があると述べた。
NASAは5月11日の声明で、5月17日にインサイトの今後と電力状況の最新情報について説明すると述べている。
火星で稼働するすべてのロボットにとって、ダストは脅威となっている。5月3日、赤茶色のダストが太陽光を遮ったことなどが原因となり、小型の火星ヘリコプター「インジェニュイティ」が初めて通信不能に陥った。太陽が昇ってバッテリーが充電されると、通信は再び可能になったものの、この事故によりインジェニュイティは、インサイトのセーフモードと同じような節電モードに入り、必須ではない機能をシャットダウンすることになった。
2021年6月15日、火星探査車「パーサヴィアランス」に搭載されたマストカムZで撮影されたインジェニュイティ。
NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS
インサイトが生き残れなかった場合、NASAが数億ドルをかけて開発した他のダストに屈したハイテク火星ロボットに仲間入りすることになる。NASAの火星探査機「オポチュニティ」は、2018年の砂嵐の発生により、ダストがソーラーパネルを覆ったことなどが原因で、通信が復活することはなかった。
[原文:Wavering NASA lander detects biggest Mars quake yet, even as dust drains its energy]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)