Mike Blake/Reuters; Savanna Durr/Alyssa Powell/Insider
かつてのアマゾンは広告に不信感を抱いていた。創業者で前CEOのジェフ・ベゾスは2009年に「広告費というのは、平凡な製品やサービスを作ってしまったことに対して支払うものだ」と語っている。
ところがアマゾンは2015年頃から、販売者が検索結果の画面で商品を宣伝できる広告を提供するようになった。アマゾンで歯磨き粉を検索した人にはプロクター・アンド・ギャンブルやユニリーバの商品広告が表示される可能性が高い。アマゾンの膨大な顧客の買い物データも、音声や動画その他のパブリッシャーのウェブサイトの広告に使用されている。
広告事業が急成長
アマゾンの広告事業はいまや、単に商品の販促方法というだけにとどまらない。テレビ広告予算の獲得や、急成長しているスーパーマーケット事業など、同社の他の領域での投資を後押ししているのだ。
アマゾンの2021年の広告事業の売上高は310億ドル(約4兆円、1ドル=130円換算)で、マイクロソフトやスナップ(Snap)を上回り、アメリカ国内の企業ではグーグル、メタに次いで第3位となった。
アマゾンは、影響を受けやすい閲覧者に対して広告を表示することができ、顧客の買い物データにも自由にアクセスできることを考えると、広告事業はまだまだ成長の余地があるといえるかもしれない。
Insider Intelligenceで主席アナリストを務めるアンドリュー・リップスマン(Andrew Lipsman)は次のように語る。
「アマゾンの広告がコネクテッドテレビや店内広告といったメディアにうまく移行できれば、リニアTVやショッパーマーケティングなど、新たに膨大なマーケティング費用を利用できるようになるでしょう。そうなれば、アマゾンはアメリカ国内の広告収入で、数年でメタを追い越すと予測されます」
以降では、アマゾンの事業が近年いかに爆発的に成功しているか、また次にどこへ向かおうとしているのかを探っていくことにしよう。
もはや商品の販促だけじゃない
アマゾンは2017年に、広告購入の自動化に使用される広告APIを公開し、大規模な広告事業を開始した。元アマゾン幹部で、現在はeコマース広告テクノロジー企業のパックビュー(Pacvue)の共同創業者兼社長を務めるメリッサ・バーディック(Melissa Burdick)は、「プラットフォームへのプログラムによるアクセスを許可した時が転換点だった」と振り返る。
アマゾンはまず、eコマースエージェンシーやアドテク企業数社にAPIへのアクセスを提供した。アマゾンのパートナー企業ディレクトリを見ると、アマゾンの広告エコシステムには現在600近くの広告パートナーが存在している。
「このディレクトリに検索ツールがたくさんあるのは、エコシステムが複雑なため手動で絞り込む必要があるからです」とバーディックは語る。
パンデミックが起こりeコマースの売上が急増すると、アマゾンの広告における野心は大きく加速した。
競合するからという理由でかつてはアマゾンで商品の販売・広告を避けていたブランドは、独自のD2Cプラットフォームを開発することと並行して、急遽アマゾンでの販売を開始しなければならなくなったと、ハバス・マーケット(Havas Market)の北米販売担当EVP・マネージングディレクターのジェシカ・リチャーズ(Jessica Richards)は語る。
「現実問題として消費者は、実店舗を訪れたり直接注文したりするつもりの場合も、アマゾンで検索して商品を比較しています」と彼女は語る。
アマゾンの広告収入が3年で3倍に増加した最大の要因の1つは、保険業者、映画スタジオ、自動車メーカーといった、アマゾンで商品を販売していない広告主の急増だった。
アマゾンは、現在はインスタカート(Instacart)の広告事業を率いるライアン・メイワード(Ryan Mayward)など、広告に関して豊富な経歴を持つ販売員を雇用し、グーグルやメタに何億ドルも出費している大手持株会社に接近した。
アマゾンの広告手法は、アマゾンで販売している特定の商品の宣伝から、自社が持つデータを利用してアマゾン外の広告をターゲティングし評価する方向へとシフトし始めた。また、パブリッシャーのウェブサイトに広告を掲載するための広告テクノロジー商品の開発も始めた。
アマゾンが発するメッセージや商品における変化は、同社が広告事業を、アマゾン外の広告主に広告を販売するための機会と見なすようになったことの表れだ。アマゾンは2022年1月に、元グーグルの広告担当幹部のアラン・モス(Alan Moss)のもと、販売構造を改革した。広告主に対してより大きな広告パッケージを売り込み、ダイレクトレスポンスよりブランド構築広告を志向する大手広告主を引き入れることが狙いだ。
広告事業を伸ばすため、アマゾンはアマゾンマーケティングクラウドと呼ばれるデータクリーンルームも売り込んでいる。アマゾンに多額の支出をしている広告主はこれを利用することで、誰が広告をクリックしているか、広告を見た後に特定のストアを訪問しているか、特定の商品を購入しているかといった行動データを見ることができる。近年アップルやグーグルがプライバシーポリシーを変更し、ユーザーの行動を追跡しにくくなったことを考えると、アマゾンのこのようなデータは特に貴重だ。
Cookieベースのターゲティングが段階的に廃止されるにつれ、広告主にとってはフェイスブックやグーグルでの広告のトラッキングが難しくなる。そのため、広告主は豊富な顧客データを持つアマゾンにシフトしつつあるのだと、アマゾンのコンサルタント会社であるポデアン(Podean)のグローバルCEOを務めるトラヴィス・ジョンソン(Travis Johnson)は言う。「顧客行動を理解することにかけては、アマゾンの触手は優れていますからね」
アマゾンの野心はデジタル広告にとどまらない。収益性の強化策として、アマゾンフレッシュストアでの広告販売も計画している。このような広告は、スーパーの店頭で買い物客に直接売り込む店内広告キャンペーンのために長年ウォルマートやターゲットなどの小売業者に広告費を払ってきたパッケージ商品業者にとっては魅力的だ。
テレビ広告にも食指
大手のブランドは依然としてテレビ業界に多額の予算をつぎ込んでいる。アマゾンの広告事業にとっても、テレビ広告は野心を満たすうえで特に重要な分野だ。
アマゾンは今、同じくテレビ予算を狙うHulu、Roku、YouTubeと接戦を繰り広げている。これらはリニアTVからストリーミングへとシフトしつつある予算の獲得を狙う企業だ。
アマゾンは、アマゾンFreevee(元IMDb TV)、Fire TVアプリ、ストリーミングスポーツゲーム、Twitchでの動画広告を販売している。リサーチ企業アンペア・アナリシス(Ampere Analysis)は、Freeveeの2021年の広告収入を3億ドル(約390億円)と見積もっている。
しかし、テレビ広告関連予算を狙うアマゾンの試みは、2022年の秋、プライムビデオ(Amazon Prime Video)において最大の試練に直面する。プライムビデオは通常は広告が入らないが、今年の秋、アマゾンは過去最大の広告主イベントであるNFLの「サーズデーナイトフットボール」を独占ストリーミング配信するからだ。
キャメロット・ストラテジックマーケティング&メディア(Camelot Strategic Marketing & Media)のCEOサム・ブルーム(Sam Bloom)によれば、アマゾンは来シーズンのサーズデーナイトフットボールの全試合にわたって、大規模な広告パッケージを広告主に売り込んでいるという。また、NFLとのパートナーシップを担える人材を積極的に採用しており、4月時点で約175のNFL関連の役職がウェブサイトに掲載されている。
収益性の高い試合を選んで広告を掲載することに慣れている広告主は、アマゾンが売り込む広告の値段の高さに驚いたかもしれない。しかしアマゾンの挑戦は、こうした広告主を納得させつつあると、ブルームは語る。
Insiderの取材に応じた別のメディアバイヤーによると、アマゾンはサーズデーナイトフットボールの試合における広告に、従来のテレビCMより高い価格を付けているという。CPM(広告が1000回表示されるごとに発生するコスト)が従来のテレビでは40ドル(約5200円)だとしたら、アマゾンのサーズデーナイトフットボールの場合は約50ドル(約6500円)で販売されているというのだ。なお、広告単価についてアマゾンにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
広告単価は高いが、アマゾンには、広告を見た人がその商品を買ったかどうかが分かる評価・識別ツールがあるとブルームは語る。テレビ広告主にとっては非常に貴重なものだ。
「広告露出の効果を精緻に示すソリューションを広告代理店がクライアントに提供するうえで必要なものを、アマゾンはすべて備えているんです」とブルームは言う。
NFLのパートナーシップにとどまらず、アマゾンの持つTwitch、Freevee、Fire TVアプリなどより幅広い動画広告プロダクトも有望だ。ブルームいわく、アマゾンが抱える動画の本数とデータのサイズは広告主にとって魅力的だという。
ただしブルームが見るところ、アマゾンがコネクテッドテレビのエコシステムを第三者に対して引き続き開放するか、あるいは広告主が見られるデータを制限する方向に行くかが問題だ。仮に後者を選んだ場合、広告主を締め出すことになりかねない。「アマゾンにとっては存続に関わる問題です」とブルームは語る。
中核となる広告主を軽視するリスクも
アマゾンの広告収入の大部分は依然として検索広告だ。そのため、ブランド広告の取り組みと、ダイレクトレスポンス広告の新たな取り組みのバランスをとる必要がある。
この1年で、アマゾンの検索商品にますます多くのダイレクトレスポンス広告主が押し寄せたため、価格が大きくつり上がった。アマゾンのアドテク企業であるパーペチュア(Perpetua)のデータによると、アマゾンの主要な広告商品の平均クリック単価(広告を1回クリックした際に発生する費用)は2022年3月には前年同期比で29%増だった。
価格が上がり続ければ、アマゾンのコアとなる広告主が離れかねない。
「コストに関しては、アマゾン販売者は最も目が肥えていますからね」と、代理店のブルー・ホイール(Blue Wheel)のエイタン・レシェフ(Eitan Reshef)CEOは語る。
それだけではない。アマゾンは、同社の広告事業の成功を模倣しようとするウォルマート、インスタカート、ターゲットなどとの激しい競争にも直面している。ウォルマートの広告事業は2021年に130%増となる21億ドル(約2730億円)の収益を挙げているが、従来型の広大な実店舗スペースで広告を販売できるため、さらなる成長余地がある。
アマゾンは今、反競争的行為を行っているとして他の大手テック企業とともに米議会から圧力をかけられている。アマゾンが外部出品業者のデータを使って自社ブランド製品を開発したかどうかが問題となっており、アマゾンは繰り返し否認している。
それでも、アマゾンは既にグーグルとメタから広告収入を奪いつつある。データという強みを持っているうえに、音声でも店頭でも海外でも、広告を売れる余地はまだまだ残されている。広告主が依然としてアマゾンに注目しているのはこうした理由からだ。
コルゲート・パーモリーブ(Colgate-Palmolive)で成長戦略・企画担当eコマースディレクターを務めるトッド・ハッセンフェルト(Todd Hassenfelt)は、長らくアマゾンに出稿してきた広告主であり、同社のプラットフォームを注視してきた。
認知広告の促進から出発したアマゾンが、スマートスピーカー「アレクサ」、Fire TV、そして2017年に買収したホールフーズの店舗をも徹底的にパーソナライズ広告と結びつけ広告効果を追跡するという、アマゾンの広告手法が次々に生み出される過程を、ハッセンフェルトは目の当たりにしてきた。
ブランド各社にとっては、広告投資戦略の再考を迫られるような魅力的な広告手法だ。「この流れに取り残されることへの恐れは大きいですから」
(編集・常盤亜由子)
[原文:Amazon is building an advertising behemoth——and it's coming for Facebook]