アサヒ飲料は日本環境設計とタッグを組み、これまで難しいとされてきた自販機で販売した使用済みペットボトルを再びペットボトルとして再生する「水平リサイクル」に着手する。会見するアサヒ飲料の米女社長(左)と日本環境設計の髙尾社長(右)。
撮影:湯田陽子
アサヒ飲料は5月10日、リサイクル関連ベンチャーの日本環境設計と提携し、これまで難しいとされてきた自動販売機横の回収ボックスに捨てられたペットボトルの「水平リサイクル」の取り組みを開始すると発表した。
まずは5月中旬から、首都圏のグループ直営自販機約3万台の横に設置されている回収ボックス経由で収集する使用済みペットボトル年間約2000トンを、再びペットボトルへと再生する水平リサイクルに着手する。
「販売者の責任として、自社でつくるペットボトルは自社で再利用する循環を構築して、持続可能な容器包装(リサイクル)に貢献していきたい」
記者会見でそう意欲を見せた米女太一社長は、2022年内には同社の中部・近畿エリアにまでこの取り組みを拡大すると表明。さらに、その他エリアのグループ直営自販機についても2022年中に検討を開始し、全国に約7万台あるグループ直営自販機全体に「できるだけ早く」(米女社長)広げる方針を明らかにした。
「ボトルtoボトル」リサイクルが難しい理由
水平リサイクルとは、使用済み製品から再び同一の製品を製造するリサイクル手法だ。ペットボトルでは、使用済みペットボトルを原料に再びペットボトルを作ることを指し、「ボトルtoボトル」リサイクルとも呼ばれている。
PETボトルリサイクル推進協議会によると、日本のペットボトルの回収率は約97%。うち、市町村が家庭ごみとして分別収集している割合が5割弱で、残りの5割強は自動販売機横の回収ボックスなどから収集される事業系のペットボトルとなっている。
ただ、高い回収率の一方で、国内でリサイクルされている使用済みペットボトル34万4000トンのうち、ペットボトルに再生(水平リサイクル)されているのはわずか3割の8万6300トンにとどまっている。
【図1】PETボトルリサイクル推進協議会の調査によると、国内で回収される使用済みペットボトルは63万7000トン(2020年度実績)。国内でリサイクルされているペットボトルのうち、水平リサイクルされているのは3割にとどまっている。
出所:アサヒ飲料
水平リサイクルが進まない要因の一つが、自販機を中心とする事業系分野の立ち遅れだ。
水平リサイクルを行うには、使用済みペットボトルに付着したゴミや不純物を取り除く必要がある。
しかし、市町村で分別回収されるキャップやラベルが外されたきれいなペットボトルと異なり、自販機横にある回収ボックスに捨てられている事業系の使用済みペットボトルには、キャップやラベルはもちろん、飲み残しや土、泥などが付着していたり、タバコの吸い殻、ガラス片、金属片が混じっていたりすることも多い。それらを除去するには手間やコストが膨大となるため、長らく「事業系の使用済みペットボトルは水平リサイクルには適さない」と言われてきた。
【図2】ペットボトルの水平リサイクル率が上がらない背景には、自販機横の回収ボックス経由で回収される使用済みペットボトルなど事業系の取り組みが進んでいないことがネックとなっているという。
出所:アサヒ飲料
「世界で唯一」の最先端工場とタッグ
その状況を打開する手法として注目を集めているのが、アサヒ飲料が今回発表した水平リサイクルプロジェクトでタッグを組む日本環境設計の技術だ。
日本環境設計の子会社ペットリファインテクノロジーが開発したリサイクル技術は、粉砕・洗浄して再生する従来型のメカニカルリサイクル(物理的再生法)と異なり、ペットボトルを分子レベルまで分解した後、不純物を除去してから再びペットボトルへと再生するケミカルリサイクル(化学的再生法)だ。
汚れやゴミなどの不純物を含む使用済みペットボトルでも、石油由来のバージンPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂とほぼ同等品質の原料に再生できると考えられており、世界的にもさまざまな研究・実証が進められている。
そうした中、世界に先駆けて商用ケミカルリサイクル施設として稼働しているのが、神奈川県川崎市にあるペットリファインテクノロジーの工場だ。日本環境設計の髙尾正樹社長はこう話す。
「(基準に適合した)品質を満たすペットボトルの商用ケミカルリサイクル工場は、我々の調べる限りにおいては世界でもここにしかない。世界最先端の技術を用いた水平リサイクルの仕組みを、アサヒ飲料さまと進めていける状態にある」(髙尾氏)
神奈川県川崎市にある日本環境設計の子会社ペットリファインテクノロジーのケミカルリサイクル工場。年2万2000トンの再生PET樹脂を生産できる。
撮影:湯田陽子
日本環境設計は2018年、東洋製罐の子会社だったペットリファインテクノロジーを買収し、傘下に収めた。買収時、同社のケミカルリサイクル工場は使用済みペットボトル価格の値上がりや石油由来製品の低価格化などによって操業を一時停止していたが、日本環境設計は2020年にアサヒ飲料から融資を受け、2021年5月末に運転を再開、同10月に本格稼働を果たしていた。
粉砕・洗浄したフレーク状の原料(左端)を分子レベルまで分解し、不純物を除去してから化学反応で再びPETに戻すことで、バージンPET樹脂とほぼ同等の品質にリサイクルできる。右端のペットボトルが実際に水平リサイクルを行って製品化したペットボトル。
撮影:湯田陽子
新たな「循環」体制で大型ペットボトルに再生
アサヒ飲料ではこれまで、直営自販機の横にある回収ボックスから使用済みペットボトルをグループ内で回収し、中間処理業者にリサイクル前の中間処理(分別・圧縮・梱包)を委託。その後、中間処理業者がペットリファインテクノロジーなどのリサイクラー(リサイクル事業者)に販売していた。
今後は、中間処理業者に委託した後にいったんアサヒ飲料グループが引き取り、それをペットリファインテクノロジーに販売する流れに切り替える。
「アサヒ飲料販売から中間処理業者までの廃棄物としてのフローと、リサイクラーからアサヒ飲料の資源としてのフロー。両方のモノの流れを当社の意思をもってつなぐことで、事業系ペットボトルのボトルtoボトルの活用推進、ひいては水平リサイクル率の向上に貢献していきたい」(米女氏)
今回の発表に先立ち、アサヒ飲料は2022年4月、主力の「三ツ矢」「カルピス」「十六茶」など、一部の大型ペットボトル商品について、ペットリファインテクノロジーの再生PET樹脂を100%使ったペットボトルに切り替えた。5月中旬から開始する首都圏自販機3万台から回収する使用済みペットボトルに関しても、これら一部の大型ペットボトル製品として再生していく。
これにより、再生PET樹脂を使った大型ペットボトルの年間生産量は約40%に拡大。ボトル製造に伴う二酸化炭素(CO2)排出量は、従来のバージンPET樹脂ボトルの製造に比べて約47%削減、年間で約1万8400トンのCO2削減になるという。
なお、従来型のメカニカルリサイクルによる再生ペットボトルとの製造コストの差について、日本環境設計の髙尾社長は、
「まだ高い状態にあるが、近づきつつある。長く続けていくことによってコストを削減し、無理なく、循環型社会をつくっていくことが我々のミッションだと考えている」(髙尾氏)
と語っている。
今回の提携により、アサヒ飲料とともに「完全循環」の取り組みを促進していきたいとの考えを示した。
「1回リサイクルしておしまい、あるいは燃やして(燃料として)使おうというのではなく、我々が独自に開発したケミカルリサイクル技術を活用して、ペットボトルからペットボトルを作る循環を何度も何度も繰り返す『完全循環』を目指していきたい。またペットボトルを作る際に必要な資源を極力減らす。そうした社会をつくっていきたい」(髙尾氏)
(文・湯田陽子)