「ゲイと言ってはいけない」法案に抗議するライマン高校の生徒たち。
Courtesy of Skye Tiedemann/Madi Koesler
- アメリカのフロリダ州では、「ゲイと言ってはいけない」法案に抗議する生徒たちの写真がステッカーで覆い隠されるまで、高校がイヤーブック(1年間の学校生活をまとめたアルバム)の配布を止めることにした。
- 生徒たちは学校側の判断に異議を唱えるために結集し、地域の広い支持を集めた。
- 「何か間違ったことをしたとは思っていませんでした。わたしたちの学校で起きたことをただ記録しただけです」とイヤーブックの編集に携わった生徒は語った。
アメリカのフロリダ州にあるライマン高校のイヤーブックの製作に携わった生徒たちは、何よりもまず、自分たちをジャーナリストだと考えている。
「わたしたちは学校で起きたこと全てを記録するだけです」とイヤーブックの共同編集長を務めるスカイ・ティーデマンさんはInsiderに語った。
だからこそ、ライマン高校の生徒たちが今年3月、物議を醸したフロリダ州の「教育における親の権利」法案 —— 通称「ゲイと言ってはいけない」法案 —— に抗議し、ストライキを実行した時、ティーデマンさんともう1人の共同編集長エラ・スナイダーさんは抗議活動の様子を捉えた写真をイヤーブックに含めることを躊躇しなかった。
3月下旬に知事が署名し、法律として成立したこの法案は、幼稚園生から小学校3年生までを対象に、性的指向や性自認に関する教室での議論などを厳しく制限している。
ライマン高校のイヤーブックには、プライド・フラッグや「愛は愛」と書かれたプラカードを掲げる生徒の写真が掲載されていた。
ところが、生徒たちがイヤーブックの最終稿を校長のもとへ持って行くと —— この時、すでに数百冊が印刷済みだった —— 、問題が発生したとティーデマンさんは話した。
「(デモに参加した)生徒にインタビューできたことは本当にポジティブな出来事でした」とスナイダーさんはInsiderに語った。
「検閲されるなんて思いもしませんでした」
配布中止
Insiderが入手したEメールで、ライマン高校のマイケル・ハンター校長は5月9日から予定していたイヤーブックの配布が延期されると保護者に伝えていた。問題となっている抗議デモの写真やそのキャプションは学校や地区が認可したものではないイベントを描写しているため、学校がスポンサーとなっているイヤーブックに掲載することは教育委員会の方針に反すると、この地域の公立学校を運営しているセミノール郡公立学校(Seminole County Public Schools)の広報担当者マイケル・ローレンス氏はInsiderにコメントした。
ローレンス氏は、出版の過程には"校正"があり、学校側が印刷する前にイヤーブックの内容をチェックすることになっていると指摘した。しかし、学校側は「残念ながら」印刷前にこの「潜在的な問題」を見落とした。
ライマン高校が学区に確認を求めると、学区は最終的に「修正がなされないなら、抗議活動に関するコンテンツを掲載したページは教育委員会の方針に反することになり、配布はできない」と判断した。
ライマン高校の教師でイヤーブックの顧問でもあるダニエル・ポメランツさんは、問題のページを除いて印刷を全てやり直すといった、いくつかの解決策を検討するよう言われたとInsiderに語った。ただ、印刷のやり直しには4万5000ドル(約580万円)かかり、配布も数週間遅れるという。
結局、学校と学区は別の解決策に落ち着いた。「ゲイと言ってはいけない」法案に関するコンテンツを1冊1冊、全て大きなステッカーで覆い隠し、その存在を完全に消すというものだった。
生徒たちはショックを受けた。
「何か間違ったことをしたとは思っていませんでした。わたしたちの学校で起きたことをただ記録しただけです」とティーデマンさんは語った。
「LGBTQ+コミュニティーのことを考えると、さらに腹が立ちました。生徒が抗議していたことを隠し、検閲するのは、彼らを黙らせることのように感じたんです」
ライマン高校のイヤーブック。
Courtesy of Skye Tiedemann
不公平な扱い
学区の広報担当者は、一番の問題は写真や抗議の内容ではなく、学校が認可したり、学区が主催したものではないイベントを掲載したことと、その描写だと話している。この写真の存在がもっと早い段階で分かっていれば、多少の編集を加えることでルールに沿ったものにできただろうとローレンス氏は話している。
ただ、ティーデマンさんとポメランツさんは、同じ学区内の2つの他の高校も「ゲイと言ってはいけない」法案への抗議活動を含むイヤーブックを印刷していて、いずれも抗議活動が学校の主催したものではないとイヤーブックの中で補足もしていないとInsiderに語った。
ティーデマンさんは他校のイヤーブックも見たと言い、自身が見つけることのできた唯一の大きな違いは、ライマン高校の写真には有名なプライド・フラッグが映っていたことだと話している。ポメランツさんは2つの高校のイヤーブックの顧問と連絡を取っていて、どちらも学校から配布の許可をもらったと話していると、Insiderに語った。
「とても不公平に感じました」とポメランツさんは話した。
ただ、生徒たちはこれで挫折するのではなく、まとまり始めたとポメランツさんは言う。生徒たちはソーシャルメディアでハッシュタグ「#stopthestickers」(ステッカーを止めて)を作って、今回の件に対する認知を広げ、フロリダ州の下院議員で同州初のLGBTQラテン系議員であるカルロス・G・スミス氏からも支持を得た。ティーデマンさんは生徒たちが署名活動も始めていて、すでに数百人の賛同を得たと話している。
ライマン高校のイヤーブック。
Courtesy of Skye Tiedemann
生徒がもたらした成功
しかし、生徒たちのせっかくの努力も水の泡になりそうだった。
5月10日の夜に開かれた教育委員会の会合で、教育長のセリタ・D・ビーモン氏は繰り返し、どんなに反対の声が寄せられようとイヤーブックの抗議活動の写真を覆い隠すという地区の方針は変わらないと強調した。
「生徒1人1人、全員にはっきりさせておきたいのは、これはライマン高校が特定の生徒を標的にしたり、特定の声を封じようとするものではないということです」とビーモン氏は語った。
「必要なチェックを経て、早期に気付くことのできなかった問題があるということです」
ただ、教育長のこうした強い言葉も、多くの生徒や教師、保護者、地域住民の考えを変えさせることはできなかった。
「ゲイと言ってはいけない」法案に抗議の声を上げるライマン高校の生徒たち。
Courtesy of Skye Tiedemann/Madi Koesler
地域住民からの抗議が殺到したことで、教育委員会は戦い方を変え、別の解決策を提案した。教育委員長のエイミー・ペノック氏は最終的に、このイベントは学校が主催したものではないと表示するための、イヤーブックのページの下部に貼る小さめのステッカーを購入する費用を出すと提案した。
「免責事項を入れることができれば、それは検閲ではないし、芸術を覆い隠すものでも、彼らの言葉を覆い隠すものでもありません。わたしたちにその機会をください」とぺノック氏は言った。
教育委員会は満場一致で賛成した。
会場では"生徒が勝った、生徒の作品が検閲されることはない"と感動が広がっていたと、ティーデマンさんは語った。
教育委員会と学校が小さめのステッカーの手配を急ぐ中、ポメランツさんはイヤーブックを今週中に配れることを願っているという。
ティーデマンさんとスナイダーさんは5月11日、学校からInsiderの取材に応じ、生徒の間にはある種の高揚感が漂っていると話した。
「全ての生徒に、あなたには物事を変える力があるというメッセージを送ったからです」とティーデマンさんは語った。
「自分の声を使うだけでいいんです」
(翻訳、編集:山口佳美)