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現在、投資家にとっては現金が唯一の安全資産のようだ。
2022年、アメリカではスタグフレーションへの懸念が不透明感を強め、株式、債券、仮想通貨の全てが壊滅的打撃を受けている。とはいえ、インフレ率は2022年4月時点で40年ぶりの高水準を続けているにもかかわらず、2022年のブルームバーグのドルスポット指数は0.6%上昇し、現金は多くのリターンをもたらしている。
個人投資家は現金の独り勝ちに気づいたようだ。米国投資信託協会(Investment Company Institute)のデータによると、マネー・マーケット・ファンド(MMF)の個人投資家のキャッシュは5月初めに1.4兆ドル(約182兆円、1ドル=130円換算)に達した。
ヘッジファンド運営会社チューダー・インベストメント・コーポレーション(Tudor Investment Corporation)の創業者でCIOのポール・チューダー・ジョーンズ(Paul Tudor Jones)や、ブラックロック(BlackRock)のマネージングディレクターのリック・リーダー(Rick Rieder)といった著名な投資家も、ここ何週間かは株式と債券の売却と現金の貯蓄を勧めている。
「今は非常に難しい時期。我々がやるべき最も重要なことは、シンプルな方法で資産を守ることだ。明らかに債券や株式を持つ時ではない」とジョーンズはCNBCのインタビューに答え、「そもそも金儲けをしている場合なのかどうかも分からない」と付け加えている。
また、リーダーはブルームバーグTVに対し、「投資家として、辛抱強く現金をたくさん持っておく必要があります」と述べている。「我々は現金を両手で抱えているようなものです」
現金は王様
過去2年にわたり力強く成長してきた株式市場は、今年に入って低迷している。S&P500とナスダックは年初来でそれぞれ16%と25%の下落を記録した。
通常、不確実性からポートフォリオを守るために、投資家は債券を購入する。しかし、金利上昇により債券価格は下落し、ブルームバーグ・バークレイズ米国総合債券インデックスは2022年に10%下落している。
投資家は株式を売却し、債券を回避し、代わりにはるかに安全な避難先である現金へと向かっている。
「市場にこの種のボラティリティがある場合、投資家は現金という安全な場所に群がる。今は間違いなくそのような力学が働いています」と、リチャード・バーンスタイン・アドバイザーズ(Richard Bernstein Advisors)の副最高投資責任者のダン・スズキ(Dan Suzuki)は、2022年5月初旬にブルームバーグに対して述べている。「現金へのシフトは、株式と債券両方の売却により行われている。それが現金需要の急激な上昇として表れています」
過去2回の弱気相場を的中させたアセットマネジャーのフィリップ・トーズ(Phillip Toews)も、最近になって資産の90%を現金に変えた。
市場が最終的に落ち着いた時に再投資が可能な「ドライ・パウダー(手元資金)」を温存したい投資家の目にも現金は魅力的に映っている。現在の売却傾向がどれくらい続くかは分からない。株式がさらに50%下落する可能性があると予測する弱気な投資家もいる。
「FRB政策のタカ派姿勢と、ウクライナ戦争で高まるインフレという背景を考慮すると、投資家は現金の蓄積を続けるべきだ」と、トレジャリー・パートナーズ(Treasury Partners)CIOのリチャード・サパースタイン(Richard Saperstein)は言う。「株式が底を打つのは、FRBが引き締めの停止を示唆するか、インフレが緩和の兆しを見せるか、株価収益の魅力が大きく改善する時だけです」
「投資家たちは自分の資本をどう守るか、かなり懸念しています」と話すのは、ウェドブッシュ(Wedbush)の株式トレーディング担当マネージングディレクターのマイケル・ジェームズ(Michael James)だ。「(彼らは)マクロ環境の悪化の中でどう現金を調達できるか心配しているのです」
景気後退のリスクが増大するなか、株式と債券を売却し現金を得ることは理にかなっている。ウェルスマネジャーの多くは、最低3~6カ月分の緊急用資金を残しておくことを勧めている。
グリーン・ビー・アドバイザリー(Green Bee Advisory)のウェルスコンサルタントのキャサリン・ヴァレガ(Catherine Valega)は、CNBCに対して「必ず十分な緊急用の貯金を持っておくこと」と述べている。「流動性の高い緊急用貯蓄を十分に持っていれば、とれる選択肢が広がりますから」
(編集・大門小百合)