孫氏は世界情勢や今の株式市場の低迷が続く間は「守り」を重視すると話す。
出典:ソフトバンクグループ
「一言で言うと『守り』、明確にこの姿勢でいく」
ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンクG)が5月12日に開催した2022年3月期(通期)決算会見で、会長の孫正義氏は神妙な面持ちで今後の方針をそうまとめた。
「通常運転」の孫氏であれば、新しい挑戦が伴う未来へのビジョンなどを語り始めるところだが、今回は終始冷静な雰囲気で会見は進行した。
通期純損失は1.7兆円、SVFも失速気味
ソフトバンクグループは2021年度に1.7兆円の損失を発表した。
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いつもと違う雰囲気は、同社の2021年度の通期決算の不調を受けてのものだ。
2021年度のソフトバンクGの純損失は1.7兆円。孫氏が「会計上の利益ではなく、最も大事(な指標)」の1つとする時価純資産(NAV)も下落傾向で、2021年12月末から2022年3月末までに約0.8兆円減少している。
神妙な面持ちで決算会見に登壇した孫氏。胸のポケットには青と黄のハンカチを覗かせている。
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ソフトバンクGは「投資会社」であるため、マーケットの影響を受けやすい。孫氏は2年以上続く新型コロナウイルスの影響に加え、ロシアのウクライナへ侵攻による世界的なインフレなど、下落要因を挙げている。
下落した時価純資産NAVの内訳を見てみると、中国のIT規制で暴落したアリババ株は2020年9月末には全体の59%を占めていたが、2022年3月末では22%まで落ち着いている。NAVの約半分はSoftBank Vision Fund(以下、SVF)によるものだ。
NAVの内訳。
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そのSVFの成績もふるわない。
SVF1号の累計投資成果は2022年3月末時点で、約3.5兆円の投資利益が出ており、そのうちの上場済みの投資先の利益は約1.7兆円となる。
ただ、2022年度第1四半期にあたる、5月11日時点の上場済み投資先の利益は0.4兆円に落ちている。
SVF2号の方は2022年3月末時点で0.01兆円の投資利益と、さらに小さい状況。そのうちの5月11日時点の上場済みの投資先の累計損失は約0.1兆円で、足元の成績は暗い状況だ。
上場株への投資子会社損失で孫正義氏も3000億円超の損失
SB Northstarでの損失が発表された。
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さらに、決算会見と同日、ソフトバンクGは傘下の投資運用子会社「SB Northstar」に関して6695億4000万円の損失を計上した。
SB Northstarの投資失敗による、回収不能見込み額は9446億1900万円。SB Northstarは孫氏個人が3分の1の損失を補填する契約だったため、孫氏自身も3148億7300万円の損失が発生した。
個人としても3000億円超の損失が出たことについて孫氏は「火傷をした」としつつも、SB Northstar設立の発端がアリババ株1本打法からの脱却であったことを振り返り、「アリババ株に投資したままでいれば、もっと下がっていた」と主張した。
なお、SB Northstarに関しては「開店休業に近い状態で小さくしておく」「手仕舞い状態に近い状況」(孫氏)とした。
「攻め」はArmの再上場、中国子会社問題は進展
頼みの綱は「Arm」。
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一方で、会見の最後には「攻めも忘れずにやる」「中心にいるのがArmだ」とも意気込む。
Armは関係当局からの許認可が降りず、同じく半導体大手のNVIDIAへの売却が頓挫した。だが、孫氏は世界的に進むDX、AIやクラウドのさらなる発展などの成長要因をあげ、「今年来年で大きく上回る利益が出そうという手応え」があると自信満々に話した。
ソフトバンクGはArmの再上場に向けて取り組んでいる。その1つの障壁だった中国子会社のArm Chinaでの経営トップの混乱が落ち着いたことも報告した。
Arm Chinaでは、2年前に当時の責任者の解任を取締役会で決議したが、その責任者が中国で強い法的な意味を持つ「代表印(社印)」を持ったままであったと報じられており、一種のこう着状態が続いていた。
孫氏は会見で、「先週・今週で進展して、新しいArm China Co-CEOが正式に決議された」「新しい代表印を中国政府から手にした」と話し、今後の経営の正常化に期待を寄せている。
「情報革命が幸せに貢献できると信じている」と語る孫氏。
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ただし、失速を感じる面もあった。2月の第3四半期の決算会見では、2023年3月までにArmを上場する方針を示していたが、具体的なタイミングは「時期はできるだけ早く」「近い将来と今のところ、と答えておく」と言うにとどまった。「3カ月、6カ月遅らせることもあるかもしれない」と言葉を濁す場面もあった。
加えて、Armを中心とした攻めの姿勢も「新たなお金を使わずに、持ち駒の中で攻めを進める」と話す孫氏。新しい取り組みや投資先も現在は不透明なままだ。
(文、撮影・小林優多郎)