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わずか数日で、テラ(terra)のアルゴリズム型ステーブルコインUSTとネイティブガバナンストークンLUNAの暴落により、額面価格にして500億ドル(約6.5兆円、1ドル=130円換算)以上の価値が消え去った。
仮想通貨史上最も急速な資産崩壊とも言えるこの事件において、テラのエコシステムをめぐる劇的な崩壊が始まったのはわずか1週間前、USTがドルペッグをわずかに下回った時のことだった。
いわゆるアルゴリズム型ステーブルコインがドルとの等価性を失い続けるなか、投資家らは、さながら従来の銀行の取り付け騒ぎのように、保有するUSTを我先にと売却した。コインゲッコー(CoinGecko)の価格情報によると、同トークンは過去1週間で87%下落し、本稿執筆時点では0.13ドルで取引されている。
CoinGecko
USTがドルペッグから著しく乖離すると、テラのネイティブガバナンストークンLUNAも底に向かって暴落を始めた。
これは、トレーダーがいつでも1 USTをバーン(焼却)して1ドル相当のLUNAに交換できるという裁定メカニズムを通じて、USTのドルペッグが維持されていることによるものだ。
USTが1ドルを下回った場合、賢いトレーダーはUSTを購入して1ドル分のLUNAと交換し、その差額を利益として懐に入れることができる。反対に、USTが1ドルより高くなれば、トレーダーは1ドル分のLUNAを1 USTと交換することができる。
しかし、この「バーン・アンド・ミント(焼却と鋳造)」から成るメカニズムは、人々が進んで参加する場合にのみ機能する。USTの需要を生み出すために、テラはアンカープロトコルを開発し、プラットフォーム上のUST預託者に20%近い固定金利を提供した。利払いの大部分は、テラエコシステムを支える非営利団体「ルナ基金ガード(Luna Foundation Guard)」が補助してきた。
投資家がUSTをバーンしてLUNAを手に入れようと殺到したため、同ステーブルコインの供給量は減少し、LUNAの供給量は膨れ上がった。一時USTの時価総額はLUNAのそれを上回ったが、LUNAの時価総額は実質的にゼロにまで急落した。
5月13日の午後の時点で、6.5兆枚以上のLUNAトークンが流通しており、コインゲッコーのデータでは、LUNAの価格は0.00008231ドルにまで薄れた。
CoinGecko
USTとLUNAの急落は、金利上昇と金融引き締めに揺らぐ仮想通貨市場の不安を煽った。
USTのドルペッグを守るために、ルナ基金ガードはUSTの準備高として購入していた30億ドル(約3900億円)のビットコインを清算したと見られる。清算による市場への影響は不明だが、ビットコインをはじめ主要仮想通貨には売り圧力がかかり、コインゲッコーによれば、ビットコインは2万6900ドル(約350万円)まで暴落した。
テラエコシステムの今後の展開
テラエコシステムへの救済計画の協議が停滞するなか、テラフォームラボ(Terraform Labs)のCEOで共同創業者のド・クォン(Do Kwon)氏によるテラのフォーラムへの投稿を引用しているザ・ブロック(The Block)によると、クォン氏は10億トークンを発行してさまざまなステークホルダーに配布することで、テラのブロックチェーンを再開することを提案しているという。
USTとLUNAの暴落を受けテラエコシステムの復活を絶望視する投資家がいる一方で、このブロックチェーンにはまだ復活の見込みがあると考える人もいる。
イギリスに拠点を置くデジタル資産仲介会社グローバルブロック(GlobalBlock)のアナリスト、マルクス・ソティリウ(Marcus Sotiriou)氏は12日に発表したリサーチノートで、「テラが再起する1つの方法、そしておそらく唯一の方法は、USDTかUSDCをステーブルコインとして採用し、レイヤー1ブロックチェーンとそのエコシステムの成長に集中することだ」と述べ、次のように付け加えた。
「レイヤー1エコシステムがうまく成長を遂げた場合、最終的には負債を完済できる可能性がある。しかし現時点では、USTやLUNAの保有者と同様に、テラもまた望み薄だ」
実際、両トークンがゼロにまで急落するなかで、テラに投資していた機関投資家らはほぼ無言を貫いてきた。
スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)の共同創業者で初期のテラ支援者でもあるスー・ズー(Su Zhu)氏は5月13日にTwitterのスレッドで、テラエコシステムは、ステーブルコインが攻撃を受け、ドルペッグを失うリスクを批評家から指摘された後に「もっとゆるやかに安全に推移するよう、手を打つべきだった」と認めた。
「これはテラ版DAOハッキング事件だ」とズー氏は言う。「テラの行く末については分からないが、支援のために自分の役割は果たすつもりだ」
テラ暴落の余波
仮想通貨史上最も荒れた1週間を経て、投資家らはこのような大暴落が仮想通貨業界にもたらす影響について不安を募らせている。
LUNAに大きく賭けたヘッジファンドが破産しないか、アンカープロトコルに資金を預けていた分散型金融プロトコルが運営を続けられるかどうかは、まだ不透明だ。
既に、USTの崩壊はジャネット・イエレン米財務長官の目に留まっている。長官はこの事件を使ってステーブルコインのリスクについて説明しており、5月12日の米下院金融サービス委員会での証言で新たな規制を呼びかけた。
暗号ヘッジファンドのパイサゴラス・インべストメンツ(Pythagoras Investments)の最高経営責任者ミッチェル・ドン(Mitchell Dong)氏はInsiderのメールインタビューに対し、「USDTやUSDCのように現金または現金相当物による完全な裏付けがあるステーブルコインを含め、他のステーブルコインに長期的な波及効果が及ぶだろう。DAIなどのアルゴリズム型ステーブルコインへの影響はさらに深刻なものとなる。DAIはETHで超過担保が設定されているにもかかわらずだ」と述べた。
一方で、NFTマーケットプレイスの4k.comのCEOを務めるリチャード・リー(Richard Li)氏は、テラの一時的活況とその崩壊を仮想通貨業界の「短期的な減速」と見ている。仮想通貨投資家でもある同氏は、USTに約20万ドル(約2600万円)を投資していたが、ポジションを決済することは考えていないという。5月12日に取材に応じた同氏は、こう語っている。
「これは、このシステムに対する一時的なショックだと考えています。これによって私の長期的な戦略が変わることはありません」
(編集・常盤亜由子)