アメリカ最大の住宅バブルが最も懸念されるテキサス州オースティン。
RYAN KYTE/Getty Images
アメリカの不動産市場は、急上昇からようやく反落に転じつつあり、バブルの崩壊が近いのかもしれない。
セントルイス連銀のデータによると、住宅価格の中央値は2020年春から約33%急騰した。一つにはリモートで働く富裕層の働き手が小規模で比較的割安な都市圏に大量移住したことが要因だ。しかし、連邦準備制度理事会(FRB)が3月に利上げを開始して以来、不動産市場はすでに冷え込み始めているようだ。
その後、住宅ローン金利は昨年の歴史的な低水準から上昇し、30年固定金利は現在、過去10年で最高水準にまで上昇している。住宅ローン会社フレディ・マック(Freddi Mac)は現在の週間平均金利を5.3%としているが、6%に近づいている借り手も多い。供給不足が数カ月続いた後、住宅在庫は2022年3月からようやく増加し始めた。市場に出ている住宅の価格引き下げが進んでいることは、市場が軟化している兆候かもしれない。
しかし、サブプライムローン危機後の引受基準の厳格化や、住宅の価格対家賃比率(PRR:Price-to-Rent Ratio)のバランスが取れていることなど、現在の住宅市場の楽観的な指標を考慮すると、現在の不動産価格の高水準が2008年のような暴落をもたらすかというと、疑問を呈するアナリストもいる。
住宅バブルは崩壊寸前?
不動産データ分析会社リベンチャー・コンサルティング(Reventure Consulting)のニコラス・ガーリ(Nicholas Gerli)CEOは、投資家は再び住宅バブルが弾けることに備えるべきだと考えている。
「一番シンプルな考え方としては、住宅価格は名目価格でもインフレ調整後価格でも、現在史上最高値にあるということです。過去130年間、インフレ調整後の住宅価格はおおむね非常に安定していました。住宅市場は基本的にインフレと賃金に連動しているので、実質的にはあまり上がることはないのです」とガーリはInsiderの電話取材に答えた。
しかし、このバランスが大きく崩れようとしているとき、何が起こるのだろうか。
「住宅価格がインフレ率や賃金を上回って乖離した場合、それは歴史的にみてバブルの兆候です」とガーリは指摘する。
その理由は、最終的には賃金が追いつくか住宅価格が下がるかして、賃金と住宅価格は再び収斂せざるを得ないからだ。
ガーリによれば、住宅価格がインフレと賃金を上回って急伸したのは、アメリカ史上2度目だという。前回は2008年の住宅バブル崩壊前の2006年であり、今日の価格はその時よりさらに高くなっているとガーリは警告する。
しかし、住宅購入者は必ずしもパニックに陥る必要はないと言う。なぜなら、現在の住宅価格の急激な上昇は、主に一部の大都市圏の住宅市場に牽引されているものだからだ。ガーリは、暴落を「二元的」に考えてはいけないと注意を促す。
「住宅価格とインフレ率や賃金を比較すると、よりファンダメンタルによって支えられている地域がある一方で、一部地域ではバブルを誘発していることが分かります。この3〜4年の上昇の大半は、15〜20の地域の不動産市場に起因していると言えるでしょう」
例えば、2008年の住宅バブルの崩壊では、ネバダ州ラスベガスの住宅価格は60%下落した。しかしガーリは、今回は住宅建設がそれほど多くなく、需要も高いため、下落はより緩やかになると見ている。一方、テキサス州オースティンの住宅価格は、前回の住宅バブルの崩壊では4%しか下落しなかったが、今回は現在の高水準から大きく下落するとガーリは予測している。
ハイテク産業に隣接する都市に注意
ガーリは、特定の地域を評価する際、四つの要素を並行して考慮するという。一つ目がその地域の賃金に対する住宅価格の伸び、二つ目が市場に出ているものと建設途中のものを合わせた住宅供給の状況だ。三つ目の要素として、不動産投資家の存在も考慮する。投資家の資金が失われると、特定の市場の需要に穴が空き、不動産投資家は大きなリスクを抱えることになる。
さらにガーリは四つ目として、地域の経済状況も分析し、特に金利上昇の影響を受けそうな産業が集中していないかどうかも考えるという。
例えば、ワシントン州スポケーン、ネバダ州リノ、ワシントン州シアトル、カリフォルニア州サンフランシスコなど、特にIT産業の中心地に隣接している地域をガーリは挙げる。これらの都市は、潜在的なIT不況のリスクを最もはらんでいるとガーリは言い、今日の多くのIT企業は収益性が低く、過大評価されていると警告する。
「アメリカ経済におけるテック企業の雇用者数は、他のどの産業と比べても相対的に少ないのですが、彼らは法外な富と住宅需要を独占しています。株価が暴落し、人員削減が始まっている今、これらの住宅市場にとっては大きな経済的リスク要因となります」
ガーリはそう述べ、ここ数カ月で人員削減を発表したロビンフッド(Robinhood)、ネットフリックス(Netflix)、ベタードットコム(Better.com)などの特定の企業名を挙げた。
オースティンは住宅バブルの先頭を走っている
現在のアメリカ史上最大の不動産バブルを見極めるために、ガーリは不動産会社ジロー(Zillow)、セントルイス連銀、米国勢調査局のデータを使って、コロナ禍での地域別住宅費の伸びを調査した。具体的には、住宅ローンの支払額と固定資産税の伸びを組み合わせ、年間の住宅費の伸びを計算した。
この方法により、ガーリは2020年4月から2022年4月までの間に年間住宅費の伸びが最も大きい上位15市場を特定した。その結果、テキサス州オースティンがトップとなり、過去2年間で年間住宅費が93.5%上昇したことが明らかになった。
ガーリによると、この2倍近い住宅費の伸びは、同時期におけるオースティンの賃金(7%)と家賃(24%)の伸びを大きく上回っているという。こうしたことから、オースティンをはじめ、年間の伸び率が最も高い都市は、現在、住宅バブルに陥っているとガーリは考えている。
オースティンのラウンドロック・メトロ・エリアにおける新規住宅購入者の年間住宅費。住宅ローンの支払い額と固定資産税を含む。
Nicholas Gerli/Reventure Consulting
ガーリは、フロリダ州タンパ(7位)の年間住宅費は、イリノイ州シカゴとほぼ同等の高い水準になったと推定している。また、9位のユタ州ソルトレイクシティの住宅費はワシントンDCよりも高く、オースティンの住宅費はニューヨークの市街地よりも高い。
テキサス州オースティンとニューヨーク(市街地)における新規住宅購入者の年間住宅費。住宅ローンの支払い額と固定資産税を含む。
Nicholas Gerli/Reventure Consulting
以降では、ガーリが特定した、2020年4月から2022年4月までの年間コストの伸び率が高い上位15都市を紹介する。
1.テキサス州オースティン
RYAN KYTE/Getty Images
2020年平均住宅コスト:2万3593ドル(約302万円、1ドル=128円で換算)
2022年平均住宅コスト:4万5648ドル(約584万円)
上昇率:93.5%
2.インディアナ州ボイシ
Anna Gorin/Getty Images
2020年平均住宅コスト:1万8200ドル(約233万円)
2022年平均住宅コスト:3万3624ドル(約430万円)
上昇率:84.7%
3.フロリダ州ノースポート
Jack Elka Photo/Getty Images
2020年平均住宅コスト:1万6404ドル(約210万円)
2022年平均住宅コスト:3万0079ドル(約385万円)
上昇率:83.4%
4.フロリダ州ケープ・コーラル
Keita Araki / EyeEm via Getty Images
2020年平均住宅コスト:1万4389ドル(約184万円)
2022年平均住宅コスト:2万6274ドル(約336万円)
上昇率:82.6%
5. アリゾナ州フェニックス
Lightvision, LLC/Getty Images
2020年平均住宅コスト:1万5954ドル(約204万円)
2022年平均住宅コスト:2万9117ドル(約373万円)
上昇率:82.5%
6.ユタ州オグデン
mandicoleman.com/Getty Images
2020年平均住宅コスト:1万8795ドル(約241万円)
2022年平均住宅コスト:3万3989ドル(約435万円)
上昇率:80.8%
7.フロリダ州タンパ
Busà Photography/Getty Images
2020年平均住宅コスト:1万3301ドル(約170万円)
2022年平均住宅コスト:2万3539ドル(約301万円)
上昇率:77.0%
8.ユタ州プロボ
DenisTangneyJr/Getty Images
2020年平均住宅コスト:2万0592ドル(約264万円)
2022年平均住宅コスト:3万5999ドル(約461万円)
上昇率:74.8%
9.ユタ州ソルトレイクシティ
Darwin Fan/Getty Images
2020年平均住宅コスト:2万1985ドル(約281万円)
2022年平均住宅コスト:3万8211ドル(約489万円)
上昇率:73.8%
10.ノースカロライナ州ローリー
Kevin Ruck/Shutterstock
2020年平均住宅コスト:1万6567ドル(約213万円)
2022年平均住宅コスト:2万8733ドル(約398万円)
上昇率:73.4%
11. ワシントン州スポケーン
Kai Eiselein/Getty Images
2020年平均住宅コスト:1万7137ドル(約219万円)
2022年平均住宅コスト:2万9563ドル(約378万円)
上昇率:72.5%
12.フロリダ州レイクランド
Sean Pavone/Getty Images
2020年平均住宅コスト:1万1171ドル(約143万円)
2022年平均住宅コスト:1万9070ドル(約245万円)
上昇率:70.7%
13.テネシー州ノックスビル
Henryk Sadura/Getty Images
2020年平均住宅コスト:1万1123ドル(約142万円)
2022年平均住宅コスト:1万8901ドル(約242万円)
上昇率:70.0%
14.カリフォルニア州サンディエゴ
David Toussaint/Getty Images
2020年平均住宅コスト:3万5027ドル(約448万円)
2022年平均住宅コスト:5万9457ドル(約761万円)
上昇率:69.7%
15. ノースカロライナ州シャーロット
Murat Taner/Getty Images
2020年平均住宅コスト:1万4132ドル(約181万円)
2022年平均住宅コスト:2万3985ドル(約307万円)
上昇率:69.7%
(翻訳・住本時久、編集・大門小百合)