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米国のインフレは「サービス」価格が中心、欧州と日本は「モノ」。その違いが意味する「事態の深刻度」

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アメリカで4月の消費者物価指数(CPI)が発表され、他の雇用統計などと組み合わせてさまざまな見方が出ている。

Shutterstock.com

米労働省が先週(5月11日)発表した4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.3%上昇、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数も6.2%上昇と、いずれも市場予想の中心値を上回った。

すでにさまざまな報道や分析が世に出ているが、世界経済の状況を理解する上で見落とされがちだが軽視してはならないポイントをいくつか、本稿で指摘しておきたい。


アメリカにおける消費者物価指数の上昇加速は、2021年春(4月以降)と同年秋(10月以降)の2段階にわたって起きている。

今後半年間は、インフレが鈍化する展開がすでに予測されているものの、ウクライナ危機の影響で資源価格全般が押し上げられているため、伸び率はどうしても高い水準とならざるを得ない。

失業率の低位安定が示すように、実体経済の需要は非常に強い【図表1】。一方で、ロシア・ウクライナ戦争のこう着状況が続くなか、供給が回復する見込みはほぼない。

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【図表1】米消費者物価指数(CPI)と失業率の推移。

出所:Macrobond資料より筆者作成

結果として、利上げなど金融引き締めで需要を押し下げることで縮小均衡を図るしかないというのが、いま米連邦準備制度理事会(FRB)の置かれた厳しい状況だ。

アメリカでは高い水準のインフレ率が続く一方、平均時給は前年同月比5~6%程度の増加にとどまっている。そのため、理論上は(名目所得からインフレの影響を差し引いた)実質所得が悪化し、人々の消費投資意欲は衰えていくことになる。

下の【図表2】を見ると分かるように、実質可処分所得は2021年9月以降、前月比マイナスの流れが続いている。にもかかわらず、辛うじて消費が衰えずに済んでいるのは、アメリカ特有の「所得以上に消費する」文化の賜物(たまもの)と言える。

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【図表2】アメリカの所得・消費環境。黒線が実質可処分所得、青線が実質個人消費支出。

出所:Macrobond資料より筆者作成

アメリカの3月消費者信用残高(5月6日発表)を見ると、年率換算で前月比14.0%増と大幅な伸びを示している。とりわけクレジットカードなどの「リボルビング払い」ローンは同35.3%増と、1998年4月以来およそ24年ぶりの伸び。

このように家計の債務が積み上がりも経済の不均衡拡大につながるため、FRBにとっては抑制すべき対象となる。

モノからサービスへの需要シフト

アメリカでは2021年から、消費者物価指数の4分の1を占める(内訳項目の)帰属家賃を高止まりさせる要因として、住宅価格の上昇が注目されてきた。

※帰属家賃……持ち家を住宅サービスととらえ、所有者はその利用料を払っているとみなし、持ち家の市場評価価格から推計される家賃を指す。国内総生産(GDP)を計算する上で便宜的に使われる。

4月の帰属家賃は前月比プラス0.5%と若干ながら伸びを示しており、落ち着いたとは言えない。

住宅価格は2021年半ばにピークをつけているので【図表3】、帰属家賃が消費者物価指数を押し上げる現在の構図もいずれ崩れていくことが期待されるものの、現在の水準ではまだFRBの警戒は解けないだろう。

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【図表3】米住宅価格と帰属家賃の推移(3カ月移動平均)。

出所:Macrobond資料より筆者作成

4月の消費者物価指数の内訳項目でもうひとつ注目すべきは自動車関連だ。

新車の伸び率は前月比1.1%上昇、3月の伸び率に比べて加速した。中古車も前月比0.4%低下ながら、3月は同3.8%低下したのに比べると、低下の勢いが弱まっている。

ひと言でまとめれば、住宅や自動車などここ1年の消費者物価の伸びを支えてきた項目はいまだに存在感が薄れておらず、予断を許さないということになる。

一方、ここにきて新たに伸びの際立つ内訳として、航空運賃(季節調整済み)にも注目する必要がある。3月は前月比10.7%、4月は同18.6%と2ケタの伸び率を記録する加速ぶりだ。

これは、アメリカのインフレが供給制約による「財(あるいはモノ)」中心から、旅行や外食などの「サービス」中心にシフトしていることを示す数字と言える。

財の価格は供給制約とともに落ち着く見通しが立つが、賃金のかたまりとも言えるサービスの価格は一度上がり始めると(賃金の引き下げは容易でないために)そう簡単には落ちない。

4月公表の国際通貨基金(IMF)世界経済見通し春季改訂版でもその点が指摘されていた。

アメリカのインフレはその他地域とは異なり、寄与要因の半分以上がエネルギー以外に変わっていて、言い換えれば「エネルギー主導のインフレではない」怖さがある【図表4】。

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【図表4】先進国のインフレ内訳の比較(2020年12月〜21年12月の寄与度)。

出所:国際通貨基金(IMF)資料より筆者作成

欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は最近の理事会後の記者会見(4月14日)で、なぜFRBの正常化プロセスに追随しないのかと問われ、

「(FRBとECB)両者の金融政策を比較するのは、リンゴとオレンジを比較するようなものだ」

と一蹴している。その背景には、アメリカと欧州のインフレ構造には根本的な差異があるとの認識があった、と理解すべきだろう。

日本銀行が5月16日に国内企業物価指数を発表し、(第二次石油危機の影響色濃い)1980年12月以来およそ41年ぶりとなる2ケタの伸びを記録。日本でも物価動向にますます多くの関心が寄せられるようになっている。

高まる議論のなかで「欧米」という括(くく)りが使われがちだが、上で見たようにエネルギー主導のインフレに苦しむ欧州と、サービス分野でのインフレに直面するアメリカの間には「実体経済の力強さ」に大きな距離が生まれており、もはや同じ土俵の話として語りにくい状況があることを認識しておきたい。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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