メルカリは「メルカリ物価・数量指数」の提供を開始した。
出典:メルカリ
メルカリは5月16日、個人売買の取引データをもとにした物価・数量指数「メルカリ物価・数量指数」を発表した。今後月ごとに情報をニュースレターとして配信していく。
メルカリ執行役員 VP of Public Policyの吉川徳明氏によると、リユース市場の規模は2020年時点で2兆4169億円まで拡大。
また、メルカリが実施したユーザー調査でも物価上昇対策としての利用意向や、新品購入時にリセールバリューを考えるといった消費行動の変化から、個人間取引市場の広がりが見て取れるという。
メルカリのGMV(Gross Merchandise Value:流通取引総額)は、2022年の1-3月期で2326億円まで到達している。
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「今後の消費活動において二次流通市場のプレゼンスが大きくなるのは、一時的なトレンドではなく不可逆な動き。
そのときに二次流通市場の実態をどう把握するか。一次流通市場はデータが豊富で、活発な分析・研究活動が行われているが、二次流通市場は住宅や自動車など一部に限られ、消費の全体像を示すようなデータが不足している。そこへメルカリとしてデータを出していくことで、一次流通市場のデータなどと合わせて、市場をより良くするための分析、研究の活性化に貢献したい」(吉川氏)
二次流通市場は出品者、購入者の需給を的確に反映
データ作成に携わった、UTEcon取締役で東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授の渡辺安虎氏の解説によると、「メルカリ物価・数量指数」ではメルカリの商品カテゴリーごとに月次の価格指数・数量指数を作成。現時点でのデータでは2018年1月を基準とし、基準時点と比較した現在の各カテゴリーの商品数やその価格の変動度合いを示している。
メルカリのカテゴリーには「レディース→靴→モカシン」のように大、中、小のカテゴリーがあるが、小カテゴリーの取引価格・取引数量をもとに中、大カテゴリーの指数を構築。
また、季節によって変動の大きいカテゴリーでは、季節性を加味して調整したデータと、未調整のデータの両方が見られるという。
小カテゴリーでは上下2.5%の外れ値を除き平均価格と平均数量を算出。中、大カテゴリーでは、小カテゴリーの売り上げ構成比を用いたトルンクビスト指数(基準時と現在の売り上げ構成比の平均を用いて、加重平均した指数)を算出している。
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一次流通市場の物価指数は動向がデータに表れるまでに時間がかかるが、二次流通市場にはより早く反映される。
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「一次流通市場では頻繁に価格を上げたり下げたりできないが、二次流通市場は出品者、購入者の需給を的確に反映して、より敏感に物価動向を確認することができるのが大きな特徴」と渡辺氏。
データからは「各商品カテゴリーごとに需給バランスの観測と物価の変動を見ることができ、市場の状況を多角的に考察が可能」という。
例えば、中カテゴリーの「スポーツ・フィッシング」のデータからは、ブームを受けてゆるやかに伸びていた数量指数がコロナを境に急増しており、それにあわせて価格指数もじわじわ上昇していることが見て取れる。
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統計データからは需給バランスの観測のほか、各小カテゴリーごとに消費トレンドやその変化を可視化することが可能。
メルカリで該当カテゴリーを調べれば、さらに具体的にどんな商品が取引されているかも見られるため、トレンドを把握したいメディアや商品戦略を立案する担当者、マーケティング研究者による活用も期待される。
iPhone 13発売を機にiPhone 12の取引が増加
発表に合わせて開催されたパネルディスカッションには、渡辺氏に加えてニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員の久我尚子氏も参加。
同日に配信された2022年4月のデータをもとに、そこから読み取れる情報の分析例や、二次流通市場の消費動向を把握する必要性、今後の可能性について語られた。
メルカリ執行役員 VP of Public Policyの吉川徳明氏(左)、UTEcon取締役/東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授の渡辺安虎氏(中央)、ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員の久我尚子氏(右)。
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例として挙げられたのは、前年同月比の物価指数上昇ランキング3位の「スマートフォン/携帯電話」。
吉川氏によれば、2021年4月から30%近く物価指数が上昇していて「その間に影響を与える出来事として「iPhone 13」の発売があった」という。メルカリの取引を詳しく見てみると、取引件数が最も多いのは「iPhone 12 本体」だ。久我氏はここから「最新機種が発売になると、消費者心理として最新とはいかなくても、少しでも新しいものに買い換えたいという需要が高まる様子がうかがえる」との解釈を紹介した。
4月の物価上昇ランキングでは、「スマートフォン/携帯電話」のほか、アクセサリーやスポーツチケットが上位にラインクインしており、「久しぶりに行動制限のないゴールデンウィークに向けて、外へ出て行こうという消費者心理の動きがよく分かる」と久賀氏。
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「スマートフォン/携帯電話」カテゴリーの物価・数量指数。「物価指数が上昇すれば、それにあわせて数量指数も増えそうなものだが、メルカリは供給者側も消費者ということで、そうなっていないところがおもしろい」と渡辺氏
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緊急時・災害時の対応の迅速化に寄与できるような仕組みへ
「メルカリ物価・数量指数」の今後の活用について、「日本では企業がなかなか価格を変えられないが、需要を強く反映したデータがそうした値付けに示唆を与える可能性を秘めている。日本の景気全体、個人消費全体と、この二次流通市場の動きが連動するのか、しないのかにもすごく興味がある」と久我氏。
また、渡辺氏はコロナ禍に、リアルタイムで日本の経済状況の実態を把握するのがいかに困難だったをあげ、「毎月の消費者動向が公開される意義は非常に大きい。いつ何が起きるか分からないが、そうした時に世の中で何が必要なのか、何が重要なのか、端的に示されるという意味で社会的な観点、政策的な観点から期待値は高い」と話した。
メルカリとしても「今後は緊急時、災害時の対応の迅速化に寄与できるような仕組みを構築していく」と吉川氏。
一方で、統計データの活用についいては、あえて用途を限定せず「シンクタンクや大学の研究者や公共政策、政府関係機関など、いろいろな人がそれぞれの立場に応じて、生かし方を考えていただくことが何より大事」との見方を示した。
同様に今後の他社との連携についても、オープンでありたいと語り、「二次流通市場をより理解するために、他サービスのデータも入ってきた方がいい。他社の動向は分からないが、多くのデータを取り込んでより役立つ数字をつくっていきたい」と話した。