PoliPoliの伊藤CEO(前列右から3人目)は、ここ1-2年来の構想だったZベンチャーキャピタル(ZVC)を筆頭に、機関・個人投資家から数億円を調達。ZVCの堀新一郎社長は「PoliPoliなら事業を通じて社会を変えてくれる」とコメントした。
写真提供:PoliPoli
「これまでも全力を注いできましたが、今春大学を卒業したことで、この事業に人生をかけていく覚悟が決まりました」
政治家・行政と国民をつなぐ政策提言プラットフォーム「PoliPoli」「PoliPoli Gov(β版)」を手掛けるPoliPoli(以下、社名はポリポリと表記)のCEO伊藤和真氏は、筆者にこう語った。
ポリポリは5月12日、ヤフーやPayPay、LINEなどを傘下に持つZホールディングスのベンチャーキャピタル「Z Venture Capital(Zベンチャーキャピタル、ZVC)」を筆頭に、複数の機関・個人投資家から、シリーズAの資金調達を実施したと発表した。金額の詳細は明らかにしていないものの、「数億円規模」に上る模様だ。
調達資金は、PoliPoli、PoliPoli Gov(β版)のサービス・組織の拡大のほか、新たなサービスの開発などに充てる。
今回の資金調達について、伊藤氏はこう語る。
「とても高く評価していただきました。特に、ZHDはYahoo!ニュースなどの公共性の高いサービスを提供している企業なので、それらとのシナジー効果を期待されているのかもしれません。具体的な検討はこれからですが、Yahoo!ニュースやLINEなどとも連携していければと思っています」(伊藤氏)
ポリポリが提供するプラットフォームサービス、政治版の「PoliPoli」と行政版の「PoliPoli Gov(β版)」の特徴。
出所:PoliPoli
19歳で学生起業家として創業
ポリポリとは何者で、何を目指しているのか? それを知るために、これまでの軌跡を手短に振り返ってみたい。
ポリポリは2018年2月、慶應義塾大学の学生だった伊藤氏が創業した。当時まだ19歳だったが、「インターネットサービスで世の中を変える原体験」(伊藤氏)はすでに経験していた。大学入学後、2カ月でプログラミングを習得し、高校時代からハマっていた俳句の交流アプリ「俳句てふてふ」をリリースしていたのだ。
「一介の大学生が自分のビジョンや価値観をサービスに乗せて安価に発信することができる。個人の時代の到来を実感」した伊藤氏が、次に注目したのが「政治」だった。
それまで「政治にほとんど関心がなかった」という伊藤氏が、なぜ“政治の世界”に足を踏み入れたのだろうか。
きっかけは、初めて選挙権を得た2017年10月の衆議院議員選挙だった。候補者の政策に関する情報を思うように入手できない状況に歯がゆさを感じ、「それなら自分でつくろう」と思い立つ。海外ではブロックチェーンなどのテクノロジーを絡めた政治関連のビジネスが盛んになりつつあり、「市場規模が6兆円にも上る」成長性も、背中を押した。
伊藤氏はまず、翌11月に行われた千葉県市川市の市長選挙に向けて、立候補予定者の政策や経歴を紹介するアプリを数日間で開発。これが、PoliPoliの前身となった。
アプリへの反応に手応えを感じた伊藤氏は、翌2018年2月、PoliPoliを設立。同11月、社会の課題解決を目指す市民と政治家がつながる日本初の政策提言アプリ「PoliPoli」を正式にリリースした。
リリース1年後、大変革に踏み切った
当時は、主に地方議員と市民をつなぐプラットフォーム、簡単に言うと「地域の課題について、気軽に楽しく陳情できるアプリ」を目指していた。
「政治家と、まちづくり」をコンセプトに、地域の課題に賛同者を集めて提言するほか、議員が投稿した政策や発言に対する市民の「いいね!」に応じてトークンを発行(投げ銭)するなど、ブロックチェーン技術を絡めながら展開することも視野に入れていた。
アプリへの期待と評判は上々だった。ダウンロード数は2万を超え、1000以上の政策アイデアを話し合い、地方議員にも浸透し、事業は順調に発展していた。
その一方で、伊藤氏はサービスのコンセプトに限界を感じ始めていたという。
「ボトムアップ型は、政治的な主張をしたがらない日本の国民性とあまり相性が良くないことを実感したんです。社会を変えるインパクトを出すには相当な数の参加者が必要ですが、PoliPoliで声をあげる人は多くて数十万人が限界なんじゃないかな、と」(伊藤氏)
PoliPoliアプリの登録者は10〜30代という若い層が中心で、持ち家や家族を持たない人が多く、地域に対する課題感を見出しにくいという側面も見えてきた。
「地域ごとに一定程度の住民や議員が参加する必要があるのですが、それがなかなか厳しい地域もあります。その結果、言いっぱなしになったり、政策として実現させづらかったりする状況が見えてきたんです」(伊藤氏)
さらに、トークンエコノミーについても、当初想定していた仮想通貨市場の成長や規制の先行きに不透明感が漂ってきたため、「政治」「政策」という“堅い”テーマを扱うサービスに実装するハードルの高さを感じたという。
PoliPoliは2018年に創業。2019年には6000万円の資金調達を行い、ビジネスモデルの転換・充実を図ってきた。
出所:PoliPoli
“新生”PoliPoliがスタート
正式リリースから約1年後の2019年12月、ポリポリは大変革を行い、新たな展開を始めることを発表した。
最も大きな変革は、 地域の課題に関する意見を政治家に提案するボトムアップ型ではなく、政治家の投稿する政策・プロジェクトに対して参加者(国民)が意見・アイデアを出し合うプラットフォームに変えたことだろう。
これは、旧PoliPoli上で話題を呼び、実際の政策につながった多くが、政治家側が自ら抱く問題意識をもとに、広く意見や解決法を求めたプロジェクトだった……という経緯を踏まえている。
また、地域という個別のエリアではなく、日本全体に共通する課題を中心に議論する場に変更。仮想通貨市場の状況を踏まえトークンエコノミーの活用を停止し、アプリではなくWEBサイトで展開することにした。
「トークンエコノミーの導入見合わせは、最先端のテクノロジーを使うスタートアップのイメージが剥がれる感じがするからか、 当時は反対の声もけっこうあったのですが、振り返ってみると思い切って方針転換して良かったと思っています」(伊藤氏)
以来、ポリポリが力を入れる「政治・行政と国民が政策を共創するためのプラットフォーム」としての実績を積み重ねてきた。
PoliPoliでの投稿を機に話題となった「生理の貧困」に関しては、生理の貧困状態にある人に生理用品を無料配布する政府予算を獲得した。個人クリエイターと顧客が取引を行うプラットフォームで問題視されてきた「クリエイターの個人情報入力」については、法解釈の変更により入力不要になった。
「生理の貧困」改善に向けた予算獲得など、PoliPoliは数々の政策を実現させてきた。
出所:PoliPoli
国会議員の参加だけでなく、政党単位での導入も始まっている。2022年3月には自民党が導入。国民民主党も導入予定だという。
「自民党さんとは近々新たな意見募集のプロジェクトを発表する予定で、岸田文雄総理や茂木敏充幹事長と意見交換をする機会を設けることも企画しています」(伊藤氏)
さらに、2021年10月には行政版のPoliPoli「PoliPoli Gov」のベータ版もリリースした。デジタル庁や経済産業省などで、国民の意見やアイデアを募るプラットフォームとして活用されている。その他、2022年5月13日には、全国の都道府県で初めて、群馬県がPoliPoli Gov(β版)を活用した意見募集を開始するなど、参加する中央省庁・自治体が続々と増えている。
伊藤氏を含め「少数精鋭」で展開してきたポリポリだが、今回の資金調達を機に人員・組織の拡大を図る考えだ。
出所:PoliPoli
「政策に対する意見を言うだけではなく、政治家や行政の人たちと一緒に政策をつくるプラットフォームにすることが最大の目的」と話す伊藤氏は、議論を経て積み上げてきた理想を実現するためにふさわしいタイムラインとして、現実的に「6年後」の上場を視野に入れているという。
そのためにも、まずはプロダクトの充実・強化を図ることを重視している。
「今回の資金調達の狙いの一つは、規制が厳しい、あるいは新業態のために規制が整備されていない分野のスタートアップのロビイング活動を支援するサービスをつくっていくこと。
この1年で、組織・人員を増強して既存の2サービスのスケールを拡大させていきつつ、例えば『PoliPoli PRO』のようなネーミングで、スタートアップの意見を政策に反映できるようなサービスの開発をしていきたいと思っています」(伊藤氏)
さらに、次の2年では、やや規模の小さい10万人規模の自治体やその地方議員へもサービスを拡大。ゆくゆくは海外進出も考えている。
「(上場を目指している)6年後までには、海外行政にも挑戦したい。成長が見込まれる途上国の自治体や政府に『PoliPoli Gov』を広げていきたいと考えています」(伊藤氏)
(文・湯田陽子)