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- ニューヨーク・タイムズによると、ミレニアル世代とZ世代は将来のための貯蓄をしていないという。
- その代わりに、外食、新しいアパート、趣味など、「今」にお金をかけている。
- 両世代とも、経済的な不安定に対処し、気候変動という存在に関わる脅威を見据えている。
二度の不況、一生に一度であろうパンデミック、気候危機、そしてまた新たな戦争と、アメリカの若年層はすでに多くのトラウマを抱え、経済的な混乱も経験してきた。
多くのアメリカ人が仕事についてそれぞれの「大いなる気付き(Great Realization)」を経験する中、最も若い世代の労働者たちは、不確実な未来のために貯蓄することにはあまりメリットがないと判断しているようだ。アンナ・P・カンバンパティ(Anna P. Kambhampaty)がニューヨーク・タイムズで報じたように、ミレニアル世代(1981年から1996年生まれ)とZ世代(1997年から2012年生まれ)は、自分たちの生活に意味をもたらすものにお金を使うようになっている。
実際、フィデリティ(Fidelity)が約2600人のアメリカの成人を対象に行った退職計画に関する調査では、18歳から35歳の「次世代」の45%が、「物事が正常に戻らない限り、貯蓄に意味があると思えない」と回答している。
経済の見通しは依然として厳しい
Z世代の中には、「普通」とは彼らが経験したことではなく、むしろ雰囲気のようなものだと感じている人もいるだろう。この世代では、パンデミック前に高等教育や仕事を経験したことのある人はごく一部だ。
そしてミレニアル世代は、パンデミック以前にすでに暗い経済状況を経験している。2019年、彼らは過去最高額の学生ローンの返済や、購買力の低下、高額な住居費、医療・育児費用の高騰に苦しんでいた。彼らは労働力の中心を占めているが、その貯蓄額はベビーブーマー世代(1946年から1964年生まれ)よりもはるかに少ない。
そして、2020年になると、Z世代はパンデミックによって最も大きな打撃を受け、学校、生活、仕事、出会いなど、すべてが混乱に陥った。失業率は高く、人々の精神状態も悪化していった。ミレニアル世代は、20年間続く経済的打撃の中で、またしても不況と停滞を経験することになった。
その結果、カンバンパティが取材した若い労働者たちは、コツコツと貯蓄に励むのではなく、人生の意味を知ることにお金を使うことにしたのだという。例えば、友人との食事や音楽フェスティバル、大好きな趣味などにより多くのお金を使うといったことだ。また、これまでの慎重すぎる生活を捨て、転居を決意する人もいた。ミレニアル世代の少なくとも4分の1は家を買える経済状況ではないが、それでも貯蓄を活用して住みたかった街で賃貸住宅を借りることはできるだろう。
雇用の回復は力強く、傷だらけのミレニアル世代は、グレート・リセッションのときよりもアメリカ経済がはるかに速く回復していることに安心するかもしれないが、それだけでは若い労働者が直面している無数の問題の解決にはつながらない。
インフレは凄まじい速さで進んでおり、1981年以来の高い水準となっている。パンデミックの間に低く設定されていた家賃は、再び高騰し始めている。給与は上昇傾向にあり、Z世代は職を渡り歩いて「大改造(Great Reshuffle)」を推し進めているが、昇給したとしてもそれはインフレに飲み込まれてしまうだろう。
そして、気候危機が追い打ちをかける
また、世代によって生き方に対する考え方に違いがある。
国連の報告書によると、今後10年以内に気候危機を回避できるかもしれないという。しかし、それを実現するにはかなりの政治的行動と資金が必要になる。手をこまねいていれば、36億人が温暖化による沿岸都市の浸水、水不足、飢餓に脅かされる可能性があるという。
気候変動はミレニアル世代とZ世代の両方にとって最大の懸念事項となってきた。2019年にInsiderがアメリカで行った世論調査では、18歳から29歳の3分の1が「子供を持つかどうかを検討する際、気候変動を判断材料とすべき」と回答している。ベビーブーマーがインフレに貯蓄を食いつぶされることを心配している間に、Z世代は気候変動を心配していたのだ。
「将来に対して黙示録的なビジョンを持つ人が、貯蓄なんてするだろうか」と、金融心理学者のブラッド・クロンツ(Brad Klontz)がニューヨーク・タイムズに語っている。
「当然、そんなことはしないだろう」
タイ出身でニューヨーク在住のニマルタ・ナラン(Nimarta Narang)は、久しぶりに帰ったバンコクで、どれだけのものを失ってきたか考えさせられたと、ニューヨーク・タイムズの取材に答えている。これ以上失いたくないと考えた彼女は、「ずっとやりたかった」というニューヨークへの転居を決め、ロサンゼルスから移り住んだのだ。
「これまで貯めてきたお金で、人生経験をしてみたくなった」とナランは言う。以前よりも高い家賃のアパートに住み、夜は友達と出かけ、これまで我慢していた小さな贅沢もするようになったという。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)