マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)。給与引き上げを計画していることを認めたが……。
Anshuman Poyrekar/Hindustan Times via Getty Images
マイクロソフトのエグゼクティブバイスプレジデント(クラウド+人工知能担当)スコット・ガスリー(Scott Guthrie)は5月16日、月例の社内ミーティング「アスク・ミー・エニシング(私に何でも聞いて)」を開いた。
計画から実現までだいぶ時間がかかったこのミーティング。偶然にも、同社が業績給と株式報酬をベースにした給与引き上げに向けて社内予算を大幅に増やす計画を発表した、そのわずか数時間後に開催された。
マイクロソフトのこの動きは、従業員からの給与に対する不満に対処するのが目的で、少なくとも部分的には、最近基本給の倍増を発表したアマゾンのようなライバル企業への人材流出を防ぐ狙いがある。
ただ、ガスリー主催のミーティングに出席した従業員の話や、従業員から(オンラインで)出た質問のスクリーンショットからは、社内の少なくとも一部が今回の給与引き上げの動きに懐疑的な見方をしていることが分かる。
ミーティングの出席者は、急成長中のクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure(アジュール)」を含むクラウド部門の従業員で、言ってみれば市場でいま最も需要の高いテック人材の代表格だ。
ガスリー自身がミーティングで「全世界20万人の従業員全員を満足させることはできない」と発言しているように、特にマイクロソフトのような巨大企業においては、給与待遇は常にセンシティブなトピックと言える。
それでも、少なくとも同社の膨大な数の従業員の一部に、新たな給与引き上げ構想が実現に至ったところでマイクロソフトはアマゾンが新人に支払うような水準ほどの給与を出すことはないとの考えが広がり、それが不満を生み出している現状がある。
このままだと人材を引きつけ維持する能力が損なわれる懸念があると、会社の動きに懐疑的な従業員たちは語る。また彼らは同じように、新たな給与制度の運用が始まる9月1日を待つことに価値があるかどうかも疑問視する。
Insiderが確認したスクリーンショットによると、ミーティングで従業員が投稿したコメントのうち最も多くの共感が寄せられたのは、次のようなものだった。
「株式報酬の支給レンジ拡大と最大3%の業績給積み増し(という今回の給与引き上げ措置)によって、当社の倍以上の給与待遇で新人を迎える地元の大手競合との競争力が生まれると考えていいでしょうか」
「地元の大手競合」は、マイクロソフトと同じく米ワシントン州シアトル周辺に本拠を置くアマゾン、同エリアで存在感を発揮するグーグルやメタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)を指すとみられる。
また、「競合他社に比べてそもそも株式報酬の支給レンジが低すぎると思う」というコメントにも多くの共感が集まった。
上記のコメントにはいずれも、クラウド部門の従業員数百人が共感や賛同を示すアップボート(Upvote)をつけている。
Insiderのスクープ記事(5月13日付)に続いてマイクロソフトのサティア・ナデラ(Satya Nadella)最高経営責任者(CEO)が同16日の発表で認めたように、同社は給与引き上げに向けて原資となる社内予算をほぼ倍増させる。
この計画には個別の業績に基づく給与の引き上げが含まれており、その対象は国・地域によって異なり、地元市場の人材需要に応じて増額の水準も変わってくる(=人材確保競争が厳しい国・地域ほど増額幅も大きい)。対象となるのは若手から中堅の従業員。
また、同社の「パートナー」職位以上を除くレベル67以下の従業員は、年次株式報酬が最低でも25%増えることになる。
Insider既報のように、マイクロソフトのキャサリン・ホーガン(Kathleen Hogan)最高人材責任者(CPO)は、同社全体の2021年の離職率が10%を下回ったことを管理職向けの社内メールで共有している。
マイクロソフト社内では、今回の給与引き上げはクラウドビジネスで競合するアマゾンが2月に基本給の上限を従来の倍以上にあたる35万ドル(約4500万円)に引き上げたことに対抗する措置とみられている(なお、アマゾンの基本給倍増計画もInsiderのスクープ記事[2月8日付]で明らかになったものだ)。
アマゾンの発表もマイクロソフト同様に懐疑的な意見が社内から出て、結果的にすべての従業員の大幅昇給には至らなかったものの、Insiderの取材に応じた複数のエンジニアは90%もの昇給になったと語っている。
ガスリー主催の月例ミーティングで出た従業員からのコメントは、他の同社従業員がInsiderに直接語った懐疑的な意見に合致するものだ。
ある従業員はInsiderの取材に対し、給与引き上げ措置が(9月1日に)運用開始され、それが会社にとどまるに値する改善かどうか見きわめるほどの余裕はなく、引き続き別の仕事を探すと語っている。
また、別の従業員は業績給の引き上げ原資を「ほぼ倍増」させたところで、「業績給の伸び率そのものはインフレ率とさほど変わらない(のでさほどその影響には期待できない)」と語った。
さらに別の従業員は、現金給与の代わりに株式報酬を増やすのは、付与日から権利確定日までの間、「マイクロソフトをしばらく離れられないようにする」ための手段にすぎないとの厳しい見方を口にした。
マイクロソフトの広報担当はInsiderの取材に対し、メール(5月16日付)で次のように回答している。
「当社は給与向けの社内予算をほぼ倍増させ、新人から中堅の従業員を主な対象として、株式報酬の支給レンジを最低でも25%増やします。今回の給与引き上げは従業員への総合的な報奨の一環として行われ、成果主義は従来通り維持されます。
インフレおよび生活費上昇の影響は織り込み済みで、今回の給与引き上げは同時に、当社の掲げるミッション、カルチャー、顧客や事業パートナーを支える世界レベルの優秀な人材に対する評価を示すものでもあります」
(翻訳・編集:川村力)