Ramin Talaie/Getty Images; Mike Blake/Reuters; Savanna Durr, Alyssa Powell/Insider
グーグル(Google)は世界で最も人気のある検索エンジンと最もユーザー数の多いブラウザを有し、オンライン広告の最大の販売者でもある。それゆえに、「2番手」という立ち位置に慣れていない。
だが2016年ごろから、マーケティング関連のカンファレンスのパネルセッションやEC企業のプレゼン資料などで、気がかりな統計を目にするようになった。アメリカの消費者を対象とした調査で、商品検索時にはまずアマゾンを使うと回答した人が、グーグルを使うと回答した人を初めて上回ったのだ。
実はグーグルはこれよりはるか以前から、急速に追い上げてくるアマゾンをバックミラー越しに見ていた。
「フェイスブック、グーグル、アマゾンなど現在成功を収めている企業は、自社を特徴づける重要分野に並々ならぬ執着を持っていて、その分野での存在感が薄れることに恐怖を感じています」と、グーグルの元広告・コマース担当上級副社長で現在は検索スタートアップのニーバ(Neeva)を経営するスリダール・ラマスワミ(Sridhar Ramaswamy)は語る。
しかも厄介なことに、グーグルとアマゾンは長年にわたってお互いを頼りながら事業を成長させてきたという事実がある。アマゾンはグーグルに対し、「本当は1セントも払いたくないと思いつつ」(ラマスワミ)、多額の広告を出稿してきた。一方のグーグルは、「ある商品カテゴリーがごっそり丸ごとアマゾンに奪われてしまうんじゃないかと恐れていた」とラマスワミは言う。
グーグルは自分の縄張りでアマゾンと対峙しながら、ここ数年のうちにショッピング戦略を頻繁に変え、ECに強いリーダー人材を代わるがわる起用してきた。直近で参画したのは、2020年にペイパル(PayPal)から転身したビル・レディ(Bill Ready)だ。
グーグルはレディのもと、料金を支払った広告主のみがショッピングページに商品を表示できるとしていた以前のポリシーを変更し、どの業者でも商品を表示できるようにした。
また第三者のコマースプラットフォームとの提携も決めたほか、アナリストらが見るところ、グーグルは昨年頃からプロダクト開発のスピード化を図ってきた。
こうした取り組みが功を奏している兆候も見られるものの、グーグルは依然としてアマゾンに後れをとっている。
アマゾンは、自社プラットフォームでの検索が増えたことで広告収入を伸ばしている。マーチャントがアマゾンのプラットフォーム内外で販促できる機能も続々追加中だ。また、アマゾンのサイトで商品を販売しない広告主の受け入れも増やしている。
こうした取り組みによってアマゾンの広告事業は成長を加速させており、2021年の広告収入は310億ドル(約3.9兆円、1ドル=127円換算)に急増した。
メディアエージェンシーであるハバス・マーケット(Havas Market)のEC責任者、ジェシカ・チャップロウ(Jessica Chapplow)は次のように語る。
「私が広告業界に入った頃はこんな感じでした——フェイスブックはユーザーが好きなものを知っている、グーグルはユーザーが検索したものを知っている、アマゾンはユーザーが買ったものを知っている。でも今ではこれらがお互いにつながって、境界が曖昧になってきました。ECとSEOに関しては、2021年に引き続き今年もグーグルの年になりそうです」
「小売業者は門番に依存すべきではない」
元ペイパルCOOだったビル・レディは、グーグルに移籍したのはオンラインショッピング空間の「民主化」のチャンスが見えたからだと言う。
「Googleショッピングで私たちが行おうとしているのは、オンライン小売のための事業環境を整えること。買い物ができる場所が1つしかない世界には誰も住みたくないでしょう。小売業者は門番に依存すべきではありません」
レディは、自分が移籍して以降Googleショッピングのチームが挙げてきた実績をよどみなく披露してみせる。無料リスティングによる商品掲載枠を追加したことで、グーグルの商品カタログは2020年5月から2021年5月の1年間で70%増になった。2021年5月の時点で、「ショッピンググラフ」と呼ばれるグーグルのデータセットには240億以上の商品が掲載されていたという。
レディが言うもう1つの大きなシフトは、グーグルが発表した提携だ。
グーグルがショッピファイ(Shopify)、ウーコマース(WooCommerce)、ゴーダディ(GoDaddy)などのECプラットフォームや支払いプラットフォームと提携したことで、小売業者はグーグルのショッピングサービスでこれらパートナーの既存のツールを使用できるようになった。
このプラットフォームを使用するマーチャント数は2021年5月までの1年間で80%増となった(グーグルは総数や最新データは公開していない)。
レディによると、これらの努力が実を結んだことは既に第三者が行った調査でも検証済みだという。モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)が2022年3月に実施した調査では、アメリカの消費者の61%がオンラインで商品を調べるときは最初にグーグルのサイトに行くと回答しており、2021年11月の57%から増えている。
一方、アルファベット(Alphabet)の幹部は、ここ何四半期かの広告収入の伸びに最も寄与しているのは小売だと話す(ただしこれは、パンデミックを受けEC全体が活気づくなかで実現されたものではある)。
しかしアマゾンと1対1で比較すると、グーグルが意味のある形で目立った変化を起こせているは定かではない。
顧客体験に特化した企業であるサイトコア(Sitecore)にInsiderが委託して実施したオンライン調査では、対象となったアメリカのウェブユーザー1000人のうち約3分の2(69%)が「オンラインショッピングの時に最初に見るサイトはアマゾン」と回答している。
この数字は、サイトコアが2021年の調査で同じ質問をした時(54%)よりも増加している。2022年の調査では13%が「検索エンジンの検索結果から見にいく」と答えているが、これは昨年の調査時の24%から減少している。
一方、Insider Intelligenceの推計では、アメリカの検索広告市場におけるアマゾンのシェアは、2021年の20.1%から2022年は22.6%に増加するとされている。グーグルのシェアは同期間に57.2%から56.1%に下がる予測だ。またウェブFX(WebFX)によると、アマゾン広告の平均コンバージョン率はグーグル広告の2倍以上だという。
自動化はいい。だが使いこなせていない
グーグルは、アマゾンに商品を掲載しない主義のマーチャントなどに対し、多くの買い物客に商品を表示させるための最も合理的な選択肢を提供している。
また検索以外でも、よりコマースフレンドリーな機能を追加している。その一例がYouTubeでのライブストリームショッピングで、ここにはアマゾンのFreevee(旧IMDb TV)より多くの広告が掲載されている。
衣服ブランドのバックメイソン(Buck Mason)の最高顧客責任者であるジム・デイビス(Jim Davis)によれば、同社は2020年から2021年の間にGoogleショッピングへの支出をゼロから「相当な予算」にまで増やしたという。2022年1〜4月の支出額は昨年同期比で「2倍近く」だった。
グーグルの担当者はアルゴリズムの自動化と賢さをどんどんアピールするようになった、とデイビスは言う。特に「スマートショッピングキャンペーン」などがそうだ。
これは広告のクリエイティブ生成から広告の配信先ネットワークの入札までを自動で行うもので、小売業者の商品カタログを使い、検索ネットワーク、YouTube、Gmail、ディスプレイ広告を横断して広告を掲載する。
デイビスは「これのおかげで、基本的にはもう優秀な代理店に頼らなくてもGoogleショッピングで収益を挙げられる。今では誰もが簡単に稼げるようになっているんです」と言う。
しかしデイビスや他の広告の専門家は、シンプルさを追求すればするほど洗練されたEC広告主のニーズを犠牲にしかねないとも考えている。こうした広告主は、例えば客の平均購入アイテム数を増やしたり、高利益率の商品をターゲティングして最適化できるようなオプション機能を求めている。
デジタルエージェンシーのジェリーフィッシュ(Jellyfish)で有料メディアのグローバルリーダーを務めるダニエル・ウィルキンソン(Daniel Wilkinson)は、「グーグルのプロダクトはブラックボックス化しているものもある」として、次のように語る。
「機械のほうがはるかに多くの回数をこなしてできる限り最高の結果を導き出せるので、全ての決定を機械に任せること自体はいいんです。ただ現状だと、全てのシグナルを丹念に見るのは無理ですし、考えられる最高のパフォーマンスを得られるシグナルはどれなのか、改善するには何に時間を使えばいいのかよく分からないんです」
他にも、グーグルのセールス担当者はアマゾンの担当者ほど代理店のEC担当の責任者とつながっていないと言う人もいる。デジタルエージェンシーのアップ・アンド・トゥ・ザ・ライト(Up and to the Right)のジョン・ドナヒュー(John Donahue)は次のように話す。
「私のところに『ぜひ当社の買い物客データについてお話をさせてください』とグーグルの担当者が電話をかけてくることはないですね。『あなたがDiageoのプログラマティック広告のためにTrade Deskに支出している予算を、DV360(グーグルのデマンドサイドプラットフォーム)に乗り換えることでスリム化させませんか?』なんてね。本当に残念な話ですよ。そういう売り込みをすればよかったのに」
だがグーグルが以前から強みにしているのは、主要ブランドの経営幹部たち(CEOクラスが出てくることも多い)と取引できることだ。小売業者やD2C企業が自前の広告事業を急ごしらえしようとしている昨今の状況にあっては、こうした経営幹部たちとの関係性は、グーグルが重要な役割を果たすうえで有利に働く。
サイトコアのコマース担当責任者であるマーク・ジョンソン(Mark Johnson)は、取引のある小売業者から「どうやってアマゾンに対抗すればいいか」とよく訊かれると言う。
「今この業界では、ブランド各社がにわかに『自分たちはデマンドアグリゲーターであり、マーチャントになれるんだ』と気づき始めています」とジョンソンは語り、こうした取り組みには「主にグーグルが使われることになるでしょうね」と付け加える。
アマゾンが投じた起爆剤「Buy with Prime」
アマゾンは2022年中に新プログラム「Buy with Prime」を開始予定。これがグーグルとの戦いの風向きを変えるか注目だ。
アマゾンのBuy with Prime紹介サイトよりキャプチャ。
グーグルにとって自社のショッピングサービスは、客が1つのプラットフォームではなく、あらゆるところで買い物ができるようにするための手段という位置づけだ。
しかし、アマゾンの最新動向はその位置づけを揺るがすことになるかもしれない。
アマゾンは2022年4月に「Buy with Prime」なる新プログラムを発表した。アマゾンの加盟店が自社のウェブサイトに「Buy with Prime」ボタンを設置することで、アマゾンの支払い・配送サービスを利用して消費者に商品を届けられるというもので、2022年中に開始予定だという。
広告の専門家たちは、ECをめぐるアマゾンとグーグルの競争はこの先も熾烈を極めると予想する。グーグルがこの競争に先んじようと思えば、受注から配送にいたるあらゆる面でさらなる投資が必要になりそうだ。
「グーグルが本腰を入れて、物流を含むエンドツーエンドのECに取り組まない限り、アマゾンとの差をどうやって縮めるのかが現時点では見えません」と指摘するのは、広告代理店グループWPP傘下のワンダーマン・トンプソン・コマース(Wunderman Thompson Commerce)でグローバルメディア責任者を務めるキース・ラムーア(Kiesse Lamour)だ。
前出のレディは、アマゾンとグーグルが同じ買い物客や広告主を奪い合うゼロサムゲームを繰り広げることはないだろうと見ている。
「大きな上げ潮がたくさんの船を持ち上げている状態です。問題は、『どうやったらみんなが平等にその上げ潮を利用できるか』でしょうね」
[原文:Inside Google's fierce Goliath-versus-Goliath fight against Amazon for shopping dollars]
(編集・常盤亜由子)