マティルド・コリン(Mathilde Collin)の頭の中はいつも、「どうすればよりよく仕事ができるか」という課題でいっぱいだ。
コリンは、Eメールの使い方を変え、顧客とのコミュニケーションや職場のコラボレーションを効率化するためのソフトウェアを開発するスタートアップ、Front(フロント)のCEO兼共同創業者だ。先の課題は、そのまま彼女のプロダクトの中核をなす。と同時に、ソフトウェアの枠を超えてコリンが考え続けてきたことでもある。
FrontのCEO、マティルド・コリン。
提供:Front
その一環として、2021年5月、コリンはFrontの他の幹部たちとともに「フレキシブル・フライデーズ」という試みを始めた。社員には、金曜日はネットワークに接続したり、同僚からの連絡に応答しなくてもいいと通達した。この日は、仕事の後れを取り戻すなり家族と過ごすなり、あるいは私用に使うなり、好きなように使っていいことにしたのだ。
「コロナ禍はさまざまなトレンドを加速させましたよね。『人はより柔軟な働き方を求める』というのもその中の一つですが、まさにこれがきっかけで、私たちはフレキシブル・フライデーズを導入したんです」とコリンは言う。
コリンによると、導入当初のハードルはあったものの、この試みは成功したという。この1年間、フレキシブル・フライデーのおかげで採用がうまくいき、従業員数の増加につながった。従業員と顧客の満足度調査では、彼らの幸福度が上がって満足していることが示されたという。Frontは現在、フレキシブル・フライデーズの恒久化を検討している。
コリンは言う。
「この1年間で、従業員数も売上も最速で成長しました。現時点では、これがあったからこうなった、とはとても言えません。しかし少なくとも、エンゲージメントは上がり、業績も上向き、この柔軟な働き方に従業員が満足していることは確かです」
社員も顧客も犠牲にしない
この試みを思いついたきっかけは、コリンがフランスの企業Welcome to the Jungle(ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル)の創業者と、週4日勤務の価値について話したことだ。コリンは次のように振り返る。
「現状を変えようと挑戦している企業っていいですよね。あのとき話を聞いて、自分はこのアイデアのどこが好きで、どこが嫌いなのかを考えるようになったんです」
2年に及んだパンデミックの後、世界中のビジネスパーソンは燃え尽き症候群に直面している。企業各社はその対応に試行錯誤しており、Frontの試みはその一例に過ぎない。例えばセールスフォース(Salesforce)は、社員が会議を行わないことを推奨する「非同期週」を実験的に導入している。柔軟性とワークライフバランスは、働き手の多くが企業側に求める最優先事項になっている。
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コリンは当初、週4日勤務制は理論的には問題ないが、実際には5日分の仕事を4日に詰め込むことを強いられるだけだと感じたという。それでは柔軟性を求める従業員のニーズも満たせない。コリンは次のように語る。
「この実験に参加する社員の体験と顧客の体験、両方を非常に高い水準で維持することは、私にとって非常に重要でした。成長目標も同じく高い水準で設定しました。
でもこの制度を導入することで、社員は金曜日を好きなように使えます。みんなが仕事の時間に集中できる、あるいは必要に応じて自分の時間を持てるようになることで、本当にいい結果につながっているんです」
実験開始からほどなく実施した社員アンケートでは、87%がフレキシブル・フライデーズが今後2年間Frontで働くという意欲にプラスの影響を与えたと回答し、89%が「フレキシブル・フライデーズのおかげで、より幸せに働ける」と回答した。さらに、新入社員の63%が「フレキシブル・フライデーズは入社を決める際に影響を与えた」と回答している。
また、Frontによると、四半期ごとにFrontの顧客に送付されるアンケートに基づく顧客満足度スコアは2021年7月以降、平均98.60%に達しているという。
悩ましいのは金曜の顧客対応
このように「フレキシブル・フライデーズ」はおおむねプラスの効果をもたらしたが、問題がなかったわけではない。
実験を開始して数カ月が経過した頃は、社員同士のコラボレーションが改善されず、調査結果にもそれが現れていた。Frontの人事チームは、どのチームが成果を上げていないのか、仕事の進め方を変更できないのか、データを研究した。
その中で、金曜日に発生する顧客の要望にどう対応するかが課題となった。例えば、顧客がプランをアップグレードしたい場合は財務チームの承認が必要となるが、金曜日は財務チームからの回答が望めないため、営業チームは対応できなくなってしまう。
制度を導入して、すべてのチームが一夜にしてうまく馴染めたわけではない、とコリンは言う。
「何度も試行錯誤して、プロセスを重ねる必要がありました。それにもちろん、この制度をうまく機能させる方法は部署によっても違います」
多くのチームでは、交代制のオンコール・スケジュールを採用し、金曜日に急ぎの案件があれば誰かがアサインを受けて対処することが解決策となった。これは、テック系企業がサービス停止や緊急事態に対応するために、週末にエンジニアを待機させるのと同じようなものだ。
Frontは、特に2022年中に従業員数を300名から600名に倍増させる計画もあることから、従業員からの意見を収集し続け、必要に応じてこの制度を進化させていく予定だ。同社の従業員数は現在400名。「フレキシブル・フライデー」が採用時のセールスポイントになっているという。
コリンは、このプログラムのメリットは、短期的に発生するデメリットを上回っていると言う。
「生産性というのは、単に労働時間の長さでは測れないことが、私たちの事業の勢いを見ていてよく分かりました。仕事をどうこなすか、個人としていかに健康でいられるかが重要なんです」
※この記事は2022年6月6日初出です。