ソニーグループ会長兼社長 CEOの吉田憲一郎氏。
撮影:西田宗千佳
ソニーグループは5月18日、2022年度の経営方針説明会を開催した。
ソニーグループは先週、2021年度の通期決算を発表したばかり。今回はそれを受け、会長兼社長 CEOの吉田憲一郎氏が、ソニーの注力領域領域とその成長戦略について語る場だ。
ポイントは3つ。「エンターテインメント関連事業」と「モビリティ」と「メタバース」だ。
ソニー約10兆円の売上の半分を支える「エンタメ」
吉田氏がソニーの社長兼CEOに就任したのは2018年のこと。そして、2020年に代表執行役会長兼社長CEOとなった。
2018年以来、一貫してメッセージとして掲げているのが「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす。」というキャッチフレーズだ。
これを同社は「ソニーの存在意義(パーパス)」と位置付けている。
メッセージ自体は吉田氏が社長に就任した2018年から大きく変わっていない。
出典:ソニーグループ
これ自体は、2022年も変わっていない。そのため説明会の中で、吉田社長は何度も「感動」という言葉を使った。
ただ、どの分野でどのように「感動を目指す」のか、それがより具体的になってきた印象を受ける。
中核となっていくのが「エンターテインメント領域」だ。この領域を吉田社長は「人の心を動かす事業」と話す。
具体的には「ゲーム」「音楽」「映画」の3領域がある。2021年度はソニーの歴史の中で、これらの事業の売上が連結売上全体の5割を超えた。それだけに、これらの領域には戦略的な投資が続くことになる。
「人の心を動かす事業」=エンタメの成長率は大きく、2021年度には売上全体の半分を超えた。
出典:ソニーグループ
「PS5」と月間ユーザー数1億を超える「PSN」
中でも重要なのはゲームだ。
ネットワークサービスである「PlayStation Network(PSN)」を軸にPlayStation 4(PS4)とPlayStation 5(PS5)のビジネスをつなぎ、利用者数の安定を図っている。
PS5のこれまでの販売台数は1900万台以上、2022年度は半導体不足などの影響を受けつつも、1800万台以上を出荷する予定となっている。
PSNを介した売上高は5年間で劇的に伸び、2022年3月の月間アクティブユーザー数は1億アカウントを超えるという。これを強力な地盤とし、さらなるビジネス拡大を図る。
PS4、PS5の販売は好調。
出典:ソニーグループ
それを受け、ネットワークサービス「PlayStation Network」も好調。月間アクティブユーザー数は1億アカウントを超えている。
出典:ソニーグループ
ソニーG・副社長兼CFOの十時裕樹氏も「ゲーム事業については、ファーストパーティー(自社傘下)の開発能力を高めるための戦略的買収は、今後とも考えられる」とコメントしている。
映画や音楽などについても、アーティスト・クリエイターとの関係を重視し、コンテンツを積極的に開拓するための投資を進める。アーティスト開拓だけでなく、番組制作会社などの買収も進めている。
ゲーム・映画・音楽などで、近年にソニーが買収・戦略投資をした企業。全体で1兆円を超える。
出典:ソニーグループ
ただ、ゲームと違い、映画・音楽でソニーはプラットフォームを持っていない。あくまでパートナー戦略となる。
吉田社長は「(映画・音楽において)ソニー自身をプラットフォーマーとは考えていないし、単一のプラットフォームでやっていくことも考えていない」とした上で、考え方を次のように示した。
「私としてはソニーをクリエイターに一番好かれる存在にしたい。メディアや消費者への届け方は時代とともに変わるが、結局つくるのは『人』。クリエイターに対するサポートを強化していきたい」(吉田社長)
同様に、投資戦略上重要と語るのが「AI」だ。ただ、ここも注力するのは「人」だ。
「投資については、半導体生産設備投資などを戦略的に行い、ディスプレイも、基盤を半導体とするOLED(マイクロOLED)などを中心に進める。
ただ、同様に重要なのが『人材投資』。特にAIについては、人材への投資が最も重要になる」(吉田社長)
「モビリティー」と「メタバース」への投資
ここからの成長領域を「モビリティー」と「メタバース」と位置付ける。
撮影:西田宗千佳
吉田社長は、これから市場が伸びる領域について「モビリティー」と「メタバース」と語る。
モビリティーについては、2022年3月にホンダと提携。2025年までにEV市場への参入を目指している。
その具体的な進捗については語られなかったが、モビリティー空間の活用については、次のような言葉で説明している。
ホンダとのパートナーシップの進展に関するコメントはなかったが、同社と共に2025年にEVを発売する計画に変更はない。
撮影:西田宗千佳
「世界には10億台の自動車があり、これらを長期的にサービス化していくことには大きな可能性があり、自動車がソフト化し、買ってからも進化する世界になる。
また、センサーによるモビリティーの安全にも、弊社は貢献できる。そのためのイメージセンサーにも成長領域がある」(吉田社長)
ソニーがつくる車載向けセンサー群も「成長領域」とする。
撮影:西田宗千佳
そして、バズワードとなっている「メタバース」も成長領域と位置付ける。
「エンターテインメントの本質は時間と空間を共有するライブ」(吉田社長)という考え方から、それが活かせて新しく市場創造が見込める領域がメタバースである、という考え方だ。
メタバースを「ライブエンターテインメント」と位置付け、ビジネス伸長を狙う。
撮影:西田宗千佳
「ジャンルは交わるようになり、それぞれが広がっていく。フォートナイトなどを見ても、ゲームはアーティストの表現の場ともなってきている。メタバースはジャンルが交差して広がる、ライブネットワーク空間になるだろう」(吉田社長)
メタバースではゲーム技術はコアとなり、映画・音楽・ゲームの領域を交差するために重要性が増していく。
出典:ソニーグループ
そこで戦略的に大きな柱となるのが、2022年1月末に36億ドル(約4100億円)での買収を発表したゲーム開発会社「Bungie」の存在だ。
2022年1月に買収した「Bungie」は、ゲームとメタバース戦略の中核となる。
出典:ソニーグループ
Bungieは「Destinyシリーズ」をはじめとしたネットワークゲームを長く運営している企業だ。吉田社長は「Bungieから、『ライブサービスはインタラクティブにユーザーとともにゲームを開発していくもの』という点を学んだ。ここはソニーにまだ足りない部分」と説明する。
Bungieからの学びをもとに、ソニー・インタラクティブエンタテインメント傘下の「PlayStation Studio」で、2025年までに10タイトル以上のライブサービスを開発する予定だという。
また、今後発売予定のPS5向けVRヘッドセット「PlayStation VR2」も「ユーザーに近づくためのキーデバイス」(吉田社長)と位置付けていくと話す。
PlayStation VR2もメタバース戦略では重要な存在に。
出典:ソニーグループ
さらに、ソニー傘下のHawk-Eyeの技術を使い、スポーツ競技のリアルタイムでの3D化によって、ライブ・エンターテインメントの中に「スポーツ」という要素を取り込んでいくことも想定している。
「3回目」の経験を活かしてメタバース技術を精査
ただし、ここで問題となるのは、メタバースをどのようにビジネス化するか、という点だ。
メタバースには多様なビジネスがあり、定義もまちまち。「開発には5年・10年をかけて」と公言する、Meta(旧Facebook)のような企業もある。
吉田社長は「メタバースの事業モデルをどうするかは大きな課題」としつつも、次のように方向性を語る。
「当社はエンターテイメント企業なので、そこからつなげていきたい。特にゲームはビジネスモデルができつつある。
ただ、この領域でも色々あっていい。1つでなくてよく、コミュニティー・オブ・インタレストでつながっていきたい。多様性が重要だ」(吉田社長)
ソニーグループ専務兼CTOの北野宏明氏。
撮影:西田宗千佳
またこの点については、3月に、ソニーG・専務兼CTO(最高技術責任者)に就任した北野宏明氏が次のように補足する。
「メタバース的なものは、'90年代後半に『VRML 2.0』としてチャレンジし、さらにそのあとセカンドライフのようなものもあり、我々としては3回目になる。
そういう意味では、何に可能性があってどこに課題があるかは、だいたい理解している。
今回はリアリスティックな表現と、NFTのようなトランザクションがあるのが違い。技術的な部分も検討しながら見極めていきたい」(北野CTO)
カーボンニュートラル化も「10年前倒し」へ
カーボンニュートラル達成も前倒し。2030年までに再生可能エネルギー利用率を100%とし、カーボンニュートラルは2040年に達成を目指す。
出典:ソニーグループ
なお、こうした事業群を支えるもう一つの変化となるのが「環境対策」だ。
吉田社長は「地球環境に対する責任を果たし、技術や事業によって貢献していく」として、今回改めて、二酸化炭素(CO2)排出量削減に取り組むことをアピールする。カーボンニュートラルの実現時期を、政府目標であった2050年から10年前倒しにして「2040年」に実現するとした。
まず、2030年までに自社事業所で利用する電力をすべて再生可能エネルギーとし、自社からの直接CO2排出量をゼロにする。
さらに、サプライチェーン上でのCO2排出量についても、部品調達先や製造委託先企業に協力を求めた上で、2040年までに、自社が関わる供給網全体での「ゼロ」達成を目指すという。