トーズ・アセット・マネジメントの最高経営責任者であるフィリップ・トーズ。
Toews Corp.
連邦準備制度理事会(FRB)による利上げのサイクルが市場に適切に織り込まれているかどうかを投資家が必死で見極めようとする中、市場は微妙なバランスで推移している。
強気筋の意見は、FRBが年内の計画を明確にしたため、市場は金融引き締めの状態を反映し、既に株価を適切に割り引いている、という見解に基づいている。
また、高い雇用者数や健全な求人倍率など、経済が金利上昇に耐えられるという心強い兆候もある。
しかし、この見解に誰もが同意する訳ではない。22億ドル(約2794億円、1ドル=127円換算)規模を誇るトーズ・アセット・マネジメント(Toews Asset Management)の最高経営責任者であるフィリップ・トーズ(Phillip Toews)は、市場はまだ大きく下がるリスクがあると見ている。株価下落に備え、トーズは自身が管理する資産の90%を現金に移したほどだ。
トーズが下落を予期して市場から資金を引き揚げたのはこれが初めてではない。2020年2月には、適切にエクスポージャーを減らすことでコロナショックによるマイナスの大半を回避した。また、2008年の世界金融危機でも、その最悪期に先立って株式のポジションを減らすことができた。
トーズが「市場はまだ下落のリスクがある」と語る理由と、どのタイミングで株式投資を再開するかを聞いた。
インフレはまだ織り込まれていない
トーズによると、彼の投資プロセスはコンピュータのアルゴリズムに基づいており、下げ相場の初期に反応し、身を引いて状況を伺うよう設計されているという。
現在アルゴリズムが示す状況は完全にキャッシュポジションだ。アルゴリズムが守りに入る時は投資適格債やデュレーションの短い債券に投資することもあるが、これらのポジションさえも今は全て現金としている。
「つまり我々は今、完全に守りに入っている訳です。見通しは主にバリュエーションに基づいていますが、ウクライナ情勢に関して知る限りの情報やインフレも考慮しています。今年はS&P500など、多くのアメリカの指数において完全な弱気相場となるでしょう」
このインフレと金融資産の関係はリスクと潜在的な価格下落をはらんでいるとトーズは見ており、彼の現在のポジションがそのことを如実に物語っている。つまり、持続的な高インフレはまだ適切に織り込まれておらず、高止まりが続けば株価はさらに下落する可能性があるということだ。
「アメリカで起きた過去3回の大幅な累積インフレを調べたところ、現在のように平均インフレ率が2倍になった時期が以前に3回あったのです。その時、金融資産に何が起きたのか。我々が現在置かれている状況には非常に参考になります」
トーズが言及している期間とは1915~1920年、1941~1951年、1973~1981年の3つの期間を指す。
「明らかに、債券は平均して非常に成績が悪く、株式は平均してインフレ率と同程度の年率でした。つまり、インフレ以上の利益は得られず、少なくとも平均するとインフレと同程度の成績だったという訳です。ただし、その平均の範囲で、1回は上昇し、残りの2回は実質的に下落しています」
しかし、興味深い点もある。3回起きた高インフレの事例ではいずれも、インフレが穏やかなものから猛威を振るう状態になるとインフレ銘柄が大幅に売られたのだ。
「そのため、高バリュエーションやウクライナ情勢に伴うサプライチェーン問題、世界的な食糧不足の可能性など、さまざまな問題を考え合わせると、株式市場の見通しは非常に暗いと考えています」
FRBが株式市場の下落に反応してハト派寄りに転じることを見込むマーケットの専門家もいるが、それを当てにするべきではないとトーズは警告する。
「FRBが過去に市場支援に乗り出したことはあっても、今回はインフレがあるため、FRBがそうできるとも、そうするとも限りません」
いつ株式投資を再開すべきか
市場に戻るタイミングに関しては、S&P500やナスダックがここまで下がるのを待っている、というような指標がトーズにある訳ではない。では判断基準は何なのか。
株価のバリュエーションが改善して市場のモメンタムが上昇に転じることを確認できるかどうかで判断すると彼は言う。
「我々はアルゴリズムで動いているため、市場が下落している限りは様子見を続けます。我々が弱気相場だと言うのは、歴史を見ているからです。過去に高バリュエーションとなった時のことを考えれば、現在はまだ下落の初期段階でしょう」
(編集・野田翔)