米投資銀行エバーコア(Evercore)傘下の金融調査会社インターナショナル・ストラテジー&インベストメント・グループ(ISI)は、迫りくる景気後退を勝ち抜くテクノロジー企業の条件を分析している。
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ハイテク株はパンデミック下で急激な上昇局面を迎えたが、2021年11月を節目に急転直下下落が始まり、いまや歴史的な株価低迷(専門用語で言うところの「調整局面」)とも言える状況から、景気後退入りの可能性も示唆されている。
メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)やツイッター(Twitter)は最近、新規採用の凍結を打ち出し、ネットフリックスやキャメオ(Cameo)などの動画配信大手もレイオフを実施している。
一方、米投資銀行エバーコア(Evercore)傘下の金融調査会社インターナショナル・ストラテジー&インベストメント・グループ(ISI)が5月第3週に発表したレポートは、景気後退を乗り切る体制を整えて好位置につけるハイテク株も多数存在すると指摘する。
同社アナリストのマーク・マヘイニーらは「景気後退入りのリスクを現実のものと認識」したうえで、消費支出、消費者の需要動向、コスト上昇などのファクターに注目し、景気後退に最も強いハイテク銘柄および最も弱いハイテク銘柄を検証している。
「当社のハウスビュー(投資見解)では、世界の景気後退入りを『プロバビリティ(=起こりうる可能性)』ではなく『ポシビリティ(=起こる可能性が高い)』と判断しています。その通り現実となれば、インターネットセクター全体がネガティブな影響を受けるでしょう」
エバーコアISIは、グーグル(Google)やスポティファイ(Spotify)、アマゾン(Amazon)は景気後退を順調に乗り切り、ツイッターやイーベイ(Ebay)、エッツィー(Etsy)の先行きは平坦でないと予測する。
同社が分析する、この危機の時代に企業のレジリエンス(=強靭さ、回復力)に変化をもたらすファクター、さらにその影響を受ける企業を、以下で具体名を挙げて紹介しよう。
旅行需要の増加:ポジティブな影響
この春は旅行需要が増加し、予約サイトなど関連企業が受けつけた旅行予約はコロナ前の2019年を上回った。結果として、エアビーアンドビー(Airbnb)、エクスペディア(Expedia)、ブッキング・ホールディングス(Booking Holdings)は優位な立場にある。
エバーコアISIのアナリストはこう分析する。
「夏の旅行需要は確実に盛り上がります。オンライン旅行予約関連銘柄にとっては引き続き追い風が吹くでしょう。
なお、『ブッキング・ドットコム(Booking.com)』などを傘下に持つ最大手ブッキング・ホールディングスのバリュエーション(=企業価値評価)は依然として割安であり(株価収益率は17倍)、業績見通しも引き続き上方修正のポテンシャルがあると踏んでいます」
エアビーはすでに2019年夏前の同時期比で30%増となる物件予約を受けつけていることを明らかにしている。また、エバーコアISIも、2年間にわたって続いたパンデミック下の行動制限で抑圧されていた旅行需要が開放されるとの見方を示している。
高インフレ:ネガティブな影響
インフレがサプライチェーン(=供給網)に影響をおよぼすなか、多くの企業がそれぞれに対応を迫られている。
配車サービス大手ウーバー(Uber)やリフト(Lyft)はガソリン代高騰を織り込み、アマゾンは自社アナリストにコンテナ輸送のコスト追跡をさせる必要に迫られてきた。
エバーコアISIのアナリストは「数十年ぶりの高水準で推移するインフレの影響をまともに受けているのがアマゾンです」と指摘する。
38億ドル(約5000億円)の純損失を計上した2022年第1四半期決算発表の翌日(4月29日)、同社シニアバイスプレジデント(グローバル物流サービス担当)のジョン・フェルトンは、「予測不可能なインフレ環境が状況をいっそう困難にしている」と説明している。
エバーコアISIは、アマゾンの株価パフォーマンスがコロナ前も含めて最も厳しい見通しを示していること、さらにウーバーとリフトの株価がパンデミック前の水準を下回って取引されていることを指摘している。
ほかにも、ロク(Roku)、ピンタレスト(Pinterest)、ショッピファイ(Shopify)、ネットフリックスなどもパンデミック前の水準を下回って推移している。
サブスクリプション型モデル:ポジティブな影響
単発の取引よりサブスクリプション型モデルのほうがより高い顧客ロイヤリティ(=ブランドやサービスへの愛着・信頼)を獲得できる可能性が高く、サブスクサービスを展開する銘柄は高いパフォーマンスを発揮している。
オンラインデーティングのマッチ・グループ(Match Group)やバンブル(Bumble)、ペット保険のトゥルーパニオン(Trupanion)がその好例だ。
例えば、バンブルはファーストメッセージから女性が主導するそのビジネスモデルのあり方と、パンデミック後の社会活動再開から恩恵を受けている。
エバーコアISIのアナリストは、デートのあり方がどう変化しようと、同社が女性のエンパワーメントに関するメッセージを一貫して発信していることは強みで、特に現在も女性創業者であるホイットニー・ウルフ・ハードが経営トップとして同社を率いていることは大きい。
また、トゥルーパニオンも同じく景気動向に左右されないビジネスモデルを展開ししており、景気後退の懸念される現在も力強いパフォーマンスを発揮している。
ペット産業は一般的に景気後退時に強く、ペットフード通販のチューイ(Chewy)なども優位に立つという。
[原文:These are the most and least recession-proof tech companies]
(翻訳・編集:川村力)