定年退職はもちろん、FIRE(経済的自由、早期退職)においても、「4%ルール」と呼ばれる重要なルールが存在している。リタイア後、資産からの年間引き出し率(インフレ調整済み)を4%とすれば、「資産は枯渇しない」と結論付けたものだ。
例えば、100万ドル(約1億3400万円、1ドル=134円換算)を貯めてから退職する場合なら、毎年4万ドル(約536万円)を上限に引き出せば、資産が底をつくことはない。500万ドル(約6億7000万円)を貯めてから退職する場合は、毎年20万ドル(約2680万円)を取り崩すことができる。
公認ファイナンシャルプランナーであるウィリアム・ベンゲン(William Bengen)が1994年に発表した論文を根拠に導かれたこの結論は、1990年代後半から2000年代前半にかけて行われたトリニティ大学の教授陣による研究で、一層強固なものとなった。
研究者らは過去のマーケット・リターンを基にこの引き出し率を検証し、退職後の運用期間を30年と想定した場合、ポートフォリオを株式と債券に50%ずつ投資すれば、4%は「安全な引き出し率」※であるとしている。
「4%ルールが提案されるまで、そうした考え方は存在していませんでした」とトリニティ大学ファイナンス学部のユージェニオ・ダンテ・スアレス(Eugenio Dante Suarez)准教授は語る。
「多くの人がこのルールを非常に便利だと思っています。ただし、本来の理解という点に立ち返ると、何かを見失っているように思えるのです」
4%ルールとは基本的に、資産を使い果たす確率を計算する際に「90%の安全レベル」を採用する方法だとスアレスは説明する。つまり、4%ずつ使っても資産が底をつかない確率は90%であり、資産が底をつく確率は10%となる。
4%ルールで最も重要なのはこの確率なのだが、多くの人が4%という数字にとらわれてしまっているとスアレスは述べる。問題はそれが安全すぎるということだ。
「逆に言えば、死亡時に多額の“余り”が発生する確率が90%もあるのです。つまり、お金を残しすぎてしまい、最初からもっと使うべきだった……と後悔する羽目になるということです」
スアレスは、自身の研究によると、退職者が参考にすべき代わりとなる引き出し率は「6%」なのだという。以下ではその根拠と、具体的なケースを紹介しよう。
完璧な引き出し率は「6%」
スアレスは90%ではなく、50%の安全レベルを採用する。
「五分五分で考える方がいいと私は思います。将来的に引き出し額を減額する必要が出てくる可能性が50%、引き出し額を増額できる可能性が50%になるような引き出し額から始めることです。その数値が6%強なのです」
彼は2020年のレポート『The perfect withdrawal amount over the historical record(過去の記録による完璧な引き出し額)』で、その調査結果について詳しく説明している。
「完璧な引き出し額(PWA)」とは、最終的にちょうど望ましい残高が口座に残る金額を指す、とスアレスはレポートに書いている。4%ルールに従った場合、「最終的に残る金額が退職時より多くなる可能性は50%以上ある」とスアレスは指摘する。
「例えば、リタイア時に100万ドル(約1億3400万円)だった資産が、毎年4%取り崩しているにもかかわらず、30年後に150万ドル(約2億100万円)になることもあり得ます。これでは見込み違いでしょう」
PWAは固定的なアプローチではないと彼は付け加える。その年の株式市場の動向によっては、引き出し率を調整する必要も出てくるかもしれない。スアレスの想定では、引き出し額が多くなりすぎる確率も同じく50%あり、その場合は将来的に引き出し額を減らす必要が出てくる。
「そのため、臨機応変な対応が必要です。6%で取り崩してきたものの、途中で引き出し額を4%まで引き下げざるを得なくなる可能性もあります。しかしそうだとしても、少なくとも、20年間は6%引き出しても大丈夫だった、ということもあり得るのです」
退職後の資産からの取り崩し額を考える際は、単純に「割合を決めたらあとは放置」というのではいけない。これも4%ルールの問題点の一つだとスアレスは指摘する。
「何があろうと常に資産の4%のみを引き出すという固定的な考え方は、もはや学界のコンセンサスではありません。最近の研究では、退職後も株式市場の最新動向をチェックしながら、よりベイジアン(ベイズ推定)的な方法で考えるように助言しています」
4%と6%ではそれほど大きな違いはないと思うかもしれないが、実際は大きな違いなのだとスアレスは言う。100万ドル(約1億3400万円)でリタイアする場合、4%ルールなら年間4万ドル(約536万円)使えることになるが、6%なら年間6万ドル(約804万円)使えることになる。
「これは(取り崩せる額が)1年当たり50%増えるということですから、人生を変えるほど大きな違いです。もちろん、退職後の資産の取り崩し額というのは、人それぞれの独立性が強いものです。退職後に生活が成り立たなくなる可能性を最小限に抑えようとするなら、4%ルールに従ったほうが安全です」
ただし、毎年の引き出し額を4%にすると決めたとしても、少なくとも4%という数字を毎年計算し直すことを勧めるという。
「その年の株式市場が好調なら、翌年は退職時の100万ドルではなく、株式市場が上昇した後の新しい資産額で4%を計算してください」
とは言うものの、スアレスはやはり4%の引き出し率は「不必要に安全すぎる」と考えている。
「リスクが高まる? ええ、ある程度はそうでしょう。ですが、4%にもリスクはあります。リタイア生活で楽しめるはずだったお金が、この世を去る時にそのまま残ってしまうというリスクです」
(編集・野田翔)