さまざまな仮想通貨やNFTが登場しては消えていくが、多くの投資家は仮想通貨の未来はまだ安定しており、チャンスに満ちていると考えている。
ビットコインとイーサリアムの価格が過去1カ月で30%下落し、ステーブルコインのテラUSD(TerraUSD)とルナ(Luna)が崩壊したにもかかわらず、Web3のスタートアップの世界では、投資家は依然として1999年のようにパーティーを楽しんでいる。
ハイライト(Highlight)やマラ(Mara)といったこの分野の新しいスタートアップは、今でも桁外れの“マンゴーラウンド”(訳注:シード期ながら調達額の大きなラウンドを、種〔シード〕が大きいという意味合いからマンゴーラウンドなどと称する)を発表している。
なぜVCたちはWeb3企業への投資を続けるのか
投資家たちは、景気後退がWeb3にそれほど打撃を与えていないのには、それなりの理由があると言う。Web3への投資についてInsiderが取材した12あまりのベンチャーキャピタル(VC)のうち、ほぼ全社が“ピック&ショベル(※)”、つまり他のアプリケーションを支える基礎技術に注目していると話す。
※ピック&ショベル(picks-and-shovels)とは
19世紀アメリカのゴールドラッシュ時代、全国から一攫千金を狙う人々(picks)が我先にと殺到したため個々の採掘者は大して儲けられず、一番儲かったのは採掘器具を売っていた人たち(shovels)だったことから、投資するなら「ショベル」に注目せよという教訓。
Web3の前提である、「ユーザーがデジタル資産の所有権を維持できる、暗号資産により分散化がさらに進んだ形のインターネット」は浸透してきていると語るのは、アーリーステージに投資するVC、645ベンチャーズ(645 Ventures)の共同創業者で経営パートナーを務めるアーロン・ホリデイ(Aaron Holiday)だ。同社はWeb3企業のソリダス・ラボ(Solidus Labs)とサイオン・デジタル(Cion Digital)に投資している。
Web3企業は果たして現代の“ピック&ショベル”なのか。
SPF/Shutterstock
ホリデイはWeb3の“ピック&ショベル”について、市場全体の暴落とは裏腹に「この分野は、全体のトレンドからは切り離されていると見ています」と言う。「資本のうち多少の損失は出るでしょうが」
VCの資金供給の多くは、ブロックチェーンに関するセキュリティとコンプライアンスに強みを持つチェイナリシス(Chainalysis)のような、仮想通貨の世界に広くツールを提供する会社に向けられている。
チェイナリシスは最近、1億7000万ドル(約215億円、1ドル=127円換算)のシリーズFラウンドを経てバリュエーションを86億ドル(約1兆円)に倍増させた。また、金融機関向けに仮想通貨のリスク分析を提供するソリダス・ラボは、5月初めにシリーズBラウンドで4500万ドル(約57億円)を調達したと発表している。
新興VCの中にはWeb3特化型も
CBインサイツによると、2022年第1四半期はVCからスタートアップへの投資額は全体的には減速したものの、Web3企業に対する投資額は同期間に92億ドル(約1兆1700億円)と過去最高を記録している。
パラダイム(Paradigm)やハウン・ベンチャーズ(Haun Ventures)など、仮想通貨に特化した新興の独立系VCが台頭し、過去数カ月で数十億ドルを供給しており、Web3スタートアップへの資金供給を維持している。しかし、それ以外のVCもこの分野での専門性を強化する動きを見せている。
ラックス・キャピタル(Lux Capital)のように、ここ数カ月でこの分野に特化した投資家をチームに加えた企業もあれば、ベイン・キャピタル・ベンチャーズ(Bain Capital Ventures)のように仮想通貨に特化した部門を立ち上げた企業もある。
比較的新しいVCは、投資対象をWeb3に限定しているわけではないにせよ、ポートフォリオのかなりの部分を仮想通貨に割り当てている。
例えば、シード期に投資するデイワン・ベンチャーズ(Day One Ventures)は、スーパーレア(SuperRare)やワールドコイン(Worldcoin)など仮想通貨分野の企業を支援し、その資金の一部をNFTに投資しているほどだ(同社は人気の高いボアード・エイプス・ヨット・クラブ(Bored Apes Yacht Club)やクリプトパンクス(CryptoPunks)などのコレクションも所有している)。
Insiderの取材に応じたデイワンの創業者マーシャ・ブッチャー(Masha Bucher)は、Web3企業は今も堅調なバリュエーションで資金を確保し続けていると明かし、「優秀な企業なら資金調達に苦労しませんよ」と言う。これはここ数カ月、投資家の間で呪文のように唱えられているフレーズだ。
デイワン・ベンチャーズは、人気コレクション「ボアード・エイプス・ヨット・クラブ」のNFTを所有している。
OpenSea
「Web3熱は当分冷める」との見方も
投資家の中には、ここのところの仮想通貨暴落を前にしても、さほど動揺していない人もいる。過去にも同じような動きを見てきたからだ。
グレイロック(Greylock)のパートナーであるマイク・デュボー(Mike Duboe)は、悪名高い2014年の仮想通貨取引所マウント・ゴックス(Mt. Gox)破綻の少し前から個人的にビットコイン投資を始め、現在に至っている。デュボーはその後、ピナタ(Pinata)やマジックエデン(Magic Eden)といったWeb3企業を支援し、その間にも仮想通貨の下落を何度か目の当たりにしてきた。
しかし、Web3の傑出したスタートアップたちは概ね、市場の潮目の変化にも耐えてきたとデュボーは言う。
「こういう企業は、創業者が不景気の時代を生き抜いてきた百戦錬磨であることが多いんですよ」とデュボーは言う。「この確信はずっと変わりません」
とはいえ、投資家の誰も彼もが完全に楽観視しているわけではない。VCのシャイン・キャピタル(Shine Capital)の創業者モー・コイフマン(Mo Koyfman)は、Web3系スタートアップに対する投資家の熱は当分の間冷めるだろうと見ている。
ハイテク株の急落がバリュエーションの低下を招いたように、仮想通貨の下落もそうなる——「こういう事象はすべて相関していますから」とコイフマンは言う。
仮想通貨に強気な見方をするVCたちでさえ、ベルトを締め始めている。前出のブッチャーは、今年初めごろから個人的に購入するNFTの量を減らし始めていると明かす。「あと数カ月もすれば、もっといい値段で買えるようになりますよ」
(編集・常盤亜由子)