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[ BUSINESS INSIDER JAPAN Special Feature ]

人と企業の価値を、デジタルで高める

入山章栄教授×電通デジタルが語る「両利きの経営」にDXが必要な理由

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経営に革新をもたらすDXに取り組む企業は急増しているが、DXによる価値創出には短期的な対症療法では難しく、そのため時間もかかる。本当に“効く”DXに必要なのは何なのか。

最先端の経営学の成果を日本に導入し続ける入山章栄・早稲田大大学院教授と、電通デジタルの執行役員 ビジネストランスフォーメーション部門 部門長の安田裕美子氏が語り合った。

企業を強くする「両利きの経営」にはDXが不可欠

入山先生

入山章栄(いりやま・あきえ)。早稲田大学大学院経営管理研究科教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』『世界標準の経営理論』がある。

入山章栄教授(以下、入山):最近、講演などでよくする話がありまして、それは「デジタルの競争はこれからが2回戦」だということ。これまで日本勢はGAFAに負けた、それも大負けしたわけですが、それはあくまでも1回戦であって、舞台はスマホの中、PCの中というホワイトスペースでした。

しかし、これからの2回戦ではデジタルとリアルのビジネスを結びつける闘いになる。ここにはGAFAでもなかなか入ってこられなくて、リアルなビジネスを展開してきた多くの日本企業にも大いにチャンスがある。この2回戦で重要になるのがDXなんです。

安田裕美子氏(以下、安田):入山先生は『両利きの経営』(東洋経済新報社)を日本に紹介されていて、「企業経営には知の深化と知の探索という2つの方向性がある」という捉え方はそのとおりだと感じています。DXは「両利きの経営」にどのように役立つとお考えですか。

入山:「深化」と「探索」のどちらにもデジタルは欠かせないツールですが、その“働き”は全く違います。

「知の深化」は企業がすでに持っている資産をさらに深掘りしていく働きで、これまで日本企業が得意としてきた分野です。ここでのデジタルは業務の効率化やコストの削減に有効で、AIが効くのも知の深化の方。ディープラーニングというのはビッグデータに学んで失敗を減らすための仕組みですからね。

安田:なるほど。

入山:一方、「知の探索」においてデジタルは、イノベーションを生み出すための材料になります。イノベーションというのはゼロからは生まれず、既存のものとの組み合わせの中から出てきます。その組み合わせの対象としてデジタルがある。「デジタルの競争の2回戦はリアルのビジネスとデジタルを結びつける闘い」というさきほどの話もこれです。

安田:まさに2回戦に踏み出していると日々感じますね。多くの大手企業のトランスフォーメーションをパートナーとして進める私たちは、「顧客」が最も重要な企業のアセットである、ということを基点に、深化と探索の両輪を推進しています。例えば、既存事業の顧客から信頼を得ながらデジタルで顧客基盤化していく取り組みは「深化」ですし、顧客の半歩先のニーズを新たな事業として創造する取り組みは「探索」と考えています。

入山:そうですね。これまで日本企業は「知の深化」の方を得意としてきましたが、これからはイノベーションを生み出す「知の探索」にも力を入れる必要があって、これを両立できるのが「両利きの経営」になります。

安田:「両立」のためには「深化」=既存事業側と、「探索」=新規事業側の間の「分断」を壊す共通言語やプロセスが必要だとも感じています。成熟している企業がDXに取り組む場合、まだ「深化」の方にもデジタル活用の余地が大きくて、そこでの成功例が積み上がってくると「探究」の方のDXも一歩進化すると私は感じています。

入山:既存の企業は新しい方向へ段階的に進路を変えていきますからね。それでも、新しい方向に進むにはデジタルが不可欠だという認識を持って両利きの経営を回していけば、変化は加速します。

日本企業がDXで抱える「3つの悩み」と処方箋

安田裕美子氏

電通デジタル安田裕美子氏と、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授

入山:ただ、企業からDXについて相談を受ける中で多いのは「DXに取り組み始めたけれど、何をしていいのか分からない」「やらないと取り残されるという危機感が先行していて手は着けるのだけれど結果が伴わない」といった悩みです。だから最近、講演でもまず言うんです、「デジタルはあくまでも手段であって、目的ではありません」と。

安田:すごくよく分かります。

入山:日本にはDXが自己目的化してしまっている企業があって、「よく分からないけれど振ってみればいいものが出てくる“打ち出の小槌”」のように見られている。でも、デジタルを入れれば即、業績が回復するというわけではない。大事なのはデジタルを使って何をやるかという目的です。ところが、「何をやりたんですか」と尋ねてみると、「よく分からないんです」という答えが返ってくることが珍しくない。

安田:すでにDXに取り組んでいる企業様からはいろいろな悩みをうかがいます。今日は入山先生とぜひ議論させていただきたくて、最近いただくお悩みのテーマと、解決方針を3つ、まとめてきました。

入山:おお!

安田第1は、自社の価値の再定義です。社会が変わってお客様の求めるモノ・コトが変わる中で自分たちは何者になっていくべきなのか?ということ。自分たちも変わらなければいけないとDXにも取り組むのだけれど、どこにフォーカスしていいのかが、なかなか見えない。この悩みは、入山先生が今おっしゃった「DXの目的が分からない」というお話そのものですよね。

入山:そうですね。だから私もいつも「まずパーパスですよ」とお話しするんです。DXでデジタルを入れて部分だけ変えてもうまくいかない。大事なのは会社全体を変えることです。会社全体を変えるためにはパーパスを明確に打ち出して、トップから現場までがその実現に取り組まなければなりません。そういう目的を達成するために非常に有効な手段がデジタルなんです。

安田:我々も、新規事業のご相談に対して、その会社の取り組む意義を明確にするためにパーパスやビジョン作りから提案をし、取り組むことはよくあります。最近であれば新規事業に取り組むメンバーの「Will」から問うこともしますね。

全社で取り組むことが必要だというお話は、私たちがよくうかがう悩みの第2に関係してきます。「DX組織はつくったけれど、うまく機能しない」という悩みですね。

入山:それも「DXあるある」ですよね。トップに会社全体を変えるイメージがないのにデジタルをやれと下に言えば、上がってくるのは「一部デジタル」という中途半端なプランで、今度はこれをトップが突き返す。そうなるともうグダグダです。

安田:残念ながら、そういうケースはあります。

入山:逆に、実際にDXがうまく進んでいる企業は基本的にトップダウンで取り組んでいるところです。トップが会社全体を変えるという方針を打ち出して企業としてのパーパスを明確化した上で、じゃあ会社を変えるにはデジタルをどう使うかをよく考えて、取り組みを始めたらトップ以下が全体で協力して支援する。

真に不可欠なのは「ビジネストランスフォーメーション」

安田裕美子氏

安田裕美子(やすた・ゆみこ)電通デジタル 執行役員 ビジネストランスフォーメーション部門 部門長。電通入社後、ビジネスプロデュース部門を経て新設のデジタル組織にてマーケティングの高度化を推進。その後、2016年に電通デジタル設立に参画。デジタルトランスフォーメーション領域の企業コンサルティングを手掛けるほか、事業のサービス化=サービスマーケティング領域において新規事業の開発、ビジネルモデル変革支援、顧客接点の構築、施策マネジメント等に従事している。

入山:トップ自身がデジタルを完全に理解していなくてもいいんです。ある損保のトップは信頼できるプロを外部から招いてきて役員会で「こいつの言うことはおれの言うことだと思え。責任はおれが取る」と宣言してDXを非常にうまく進めています。

安田:覚悟や意思を感じるビジネスはスピードが早いですね。私たちが今お手伝いさせていただいているメーカーさんの案件でも、社内外からの協力が円滑ですごく迅速に進んでうまくいっているプロジェクトがありまして。その理由を担当の方にうかがうと「(事業部門の)トップがやると決めてくれたから」だと。

入山:トップの覚悟というのは本当に大事。それで同じ業種の企業の間で、すでに相当の差が開いてきています。地銀を見ても、DXで先行しているところはもうだいぶ先に行っていて、そういうところはやはりトップの理解度がすごく高い。

安田トップの理解や意思を全社に伝える「指標」作りも重要だと思います。最近では顧客や社会への貢献を非財務の価値として経営指標に取り入れるような活動にグループでも取り組んでいますし、顧客の期待と従業員の取り組みがマッチして双方幸せな形で事業活動がなされているのか評価する顧客体験評価の仕組み作りも行っています。

実は、私達がよくうかがう悩みの3つ目は「仲間集めが難しい」なんです。新たな事業に取り組もうと思うと、自社のアセットだけではなく外部のステークホルダーとの協力が不可欠です。DXに取り組むにも自社人材のリスキルだけでは難しく先生役が必要になります。

入山:これもまた「DXは会社全体でやらないと効かない」という話ですよね。私はDXにせよダイバーシティにせよ、会社を変えようとするときに一番重要なのは、実はカルチャーを変えることだと考えています。例えば、新しいことにチャレンジしようという社内の人材や外部から招く人材を適正に評価できるカルチャーを持っている企業はまだ少数派です。

両利きの経営で言えば、今必要とされているイノベーションをもたらすのは「知の探索」の方。こちらには「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」という面があって、チャレンジがたくさん必要だけれど失敗も増える。意義ある失敗をマイナスではなくプラスに評価するようなカルチャーに切り替えないと、知の探索は進みません。会社のカルチャーを変えていくことは、まさに会社全体を変えることになる。

安田:私自身、担当しているのが、DXに加えてCX(顧客体験)の変革やTX(テクノロジートランスフォーメーション)までを広く含めたビジネストランスフォーメーションですので、文化まで含めて会社全体を変えることの難しさに直面していますし、それはクライアント企業にかぎらず、私たち電通デジタルの課題でもあります。

入山:そうですよね。電通デジタルはまだ創業6年目の若い会社だけれど、電通という歴史のある大きな企業から生まれたわけだから。

安田:ええ。ですので、カルチャーの変革にも取り組んでいまして、この4月には新たなパーパス「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える。」を策定しました。電通で培われてきた「人と人、人と企業、企業と企業の間に立ち、お互いの関係より良くしていく」ための力を基盤として、その力を拡張し、磨き、飛躍させることで新たな価値を生み出し、社会や世界のあり方を変えていく──というものです。電通グループで最先端の分野を走っていく電通デジタルという会社のカルチャーを、このパーパスのもとで作り上げていこうと考えています。


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