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【ユートラストCEO・岩崎由夏1】南場智子氏が惚れ込んだ若者10万人登録のキャリアSNS。「努力が報われる社会をつくりたい」

ユートラスト・岩崎由夏

撮影:伊藤圭

「あなたたちの会社が、こんな小さな規模でおさまるわけがないでしょ! 自分たちがやっていることは、もっと大きな意義があることだと自覚しなさい」

それはオンライン画面の向こうからとんできた、DeNA代表取締役会長、南場智子(60)による叱咤激励だった。

その日、ユートラスト代表取締役CEOの岩崎由夏(33)は、南場がマネージングパートナーを務める投資会社、デライト・ベンチャーズに対して資金調達のためのピッチを行なっていた。実はこの時点で、メインの投資をしてくれるリード株主はほぼ決まっており、調達のめどはついていた。だから南場にプレゼンしていた時、岩崎の心には余裕があった。出資してくれたらありがたい。でもまあ、難しければ、仕方ないか。

気楽な気持ちで臨んだピッチで、岩崎は南場に一喝された。

「本当に、このサービスの将来性を考えている? このサービスが日本の未来を救うなら、こんな規模の考え方をしていちゃいけないでしょ」

南場の言葉に、岩崎は頬を張られた気持ちになった。

「あ、この人とつるまないといけない。この圧倒的に高い目線で物事を考えている人と共に進まなければ、私たちの成長は止まると思ったんです」

それは岩崎の直感だった。彼女はその後、デライト・ベンチャーズにリード株主になってほしいと依頼している。シリーズBラウンドの調達リリースには、南場と岩崎が並ぶ2ショットが公開された。そこには、「日本型キャリアを、ゲームチェンジする」のコピーが踊る。

南場が惚れ込むほどのサービス。それが、これまでなかった採用の形を日本にもたらした、キャリアSNS「YOUTRUST」だ。2022年4月に公表されている情報では、その利用者数は20代、30代を中心に10万人を超える。

利用者の半数が「いますぐ転職考えてない」

南場智子さんと岩崎由夏さんのツーショット

調達リリース時の南場智子(写真左)との2ショット。岩崎は新卒でDeNAに入社後、ユートラストを起業した「卒業生」だ。

提供:ユートラスト

YOUTRUSTの仕組みは、他の転職サイトとは大きく異なる。これまでの転職サイトは、「転職する」と決めてから登録をし、履歴書を書いてオファーを待つものだった。ところが、YOUTRUSTのユーザーの約半数以上は「今すぐには転職を考えていない人たち」だ。なぜ、そのような人材が集まるのか。そこには二つの理由がある。

一つ目は、とくに若い世代において「一生のうち、いつかは転職をするであろう」と考える人が増えたこと。岩崎の言葉を借りれば、「1億総転職スタンバイ状態」の時代がやってきているのだ。YOUTRUSTの利用者の6割は「良い条件があれば、転職をしてもよい」と考えている、ゆるやかな機会待ちの人たちだという。こういった潜在的な転職意欲を持つ人材はほかの転職サイトにはほとんどいない。採用側から見れば、一般的な転職サイトでは出会えない人材に出会える場とも言える。

二つ目は、YOUTRUSTがSNSであること。キャリアSNSといえば全世界で6億人を超えるユーザーが利用するLinkedInが有名だ。日本での登録者数も200万人を超えるが、一人あたりの平均転職回数が11回を超えるアメリカの市場環境で生まれたSNSなので、文化的背景が異なる日本では広く利用されているとは言い難い。日本語以外でオファーがくるため、外資系企業での転職希望などを除いては、アクティブ率が低いと言われている。

その点、YOUTRUSTはかつてのmixiのようなゆるやかなつながりが形成されている。友人、もしくは友人の友人までの近いつながりの中で、プロフィールや投稿を見に訪れる人もいるし、友人を紹介するコメントもつけられる。そのコメントが友人の転職の手助けになることもあるから、今すぐ転職する気がない人もくり返し訪れることになる。

また、このサービスの特徴は「転職意欲」や「副業意欲」のステータスが可視化されていることだ。自分の友人が転職意欲を高めたと分かったら、通知が届き、自分が所属する企業や、知り合いを紹介することもできる。リファラル採用(紹介や推薦を元にした採用)の仕組みがSNS上で回っているのだ。そこでは、「トラスト=信頼」が何よりもモノを言う。

これは岩崎の知り合いの話だが、YOUTRUSTに登録していた人が副業の意欲を変えた瞬間に、元同僚から連絡をもらい、その日のうちに副業が決まったことがあった。さらに、その人は後日、その副業先に転職することにしたという。これまで築いた信頼が採用の決め手になる。YOUTRUSTのマッチング数は、2020年から2021年にかけての1年で13倍になっている。

「努力がフェアに報われる社会をつくりたいんです。本人の努力以外の要素で、物事が決まる社会を変えたい」

落ち込んだ日本の一人当たりGDPを回復させる

ユートラスト・岩崎由夏 経歴

撮影:伊藤圭

ユートラストのビジョンは、「日本のモメンタムを上げる偉大な会社を創る」こと。世界30位まで落ち込んだ日本の1人あたりGDPを回復するには、人の流れを加速する必要があると岩崎は考えている。そのことを、大学で生化学を学んだ岩崎は、独特の表現で語った。

「自分の子どもを見ていると思うのですが、成長していく生き物はたくさん食べて、たくさん排泄するものなんですよね。これって、国や経済も同じだと思うんです。30年間時価総額ランキングに大きな変化がない日本は、生物として見れば鈍化している」

失われた20年。生まれたときから右肩下がりの経済成長。今日より明日がいい日になると信じることができない、20代、30代の友人たち。閉塞感ある日本を変える鍵が「成長産業への人材流動」にあるのではないかと、岩崎は言う。

実際、日米欧35カ国の傾向として「勤続10年以上の従業員の割合が10%低いと、経済の実力を示す潜在成長率が1.4ポイント高い」ことが分かっている。つまり、人が動くほど、経済成長率が伸びるというわけだ。

日本の経済規模は今でも世界第3位で、人口も多い。しかしその経済規模の大きさに対して、全企業におけるスタートアップの割合は低く、規模も小さい。日本の人材流動性が10倍になれば、人材がスタートアップにも流れやすくなる。そうすれば、日本にもGAFAが生まれるかもしれない。

「遠回りかもしれないけれど、私たちがやろうとしていることは、きっと日本の未来を明るく元気にしていくことにつながると思っているんです」

岩崎は、まっすぐにそう言う。そこには、かつて新卒入社したDeNAで採用担当として働いたときに感じた人材業界の課題を解決したいという強い意志がある。次回は、YOUTRUSTが生まれた背景と、急成長の理由に迫る。

(敬称略、続きはこちら▼)

(文・佐藤友美、写真・伊藤圭、連載ロゴデザイン・星野美緒)

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