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DeNAでの「イタい新入社員」時代。謙虚さ芽生えさせた先輩の言葉【ユートラストCEO・岩崎由夏3】

ユートラスト・岩崎由夏

撮影:伊藤圭

20代、30代を中心に、登録者数が10万人を超えるキャリアSNS「YOUTRUST」。サービスを提供するユートラストの代表取締役CEO・岩崎由夏(33)は大学卒業後、新卒でDeNAに就職した。

地元神戸で就職を考えていた岩崎がDeNAという会社を知ったのは、SNSがきっかけだった。Twitterで出会った同じ就活生の仲間から、「今度DeNAの南場さんの講演会があるから来なよ。絶対聞いた方が良いよ」と誘われたのだ。

その時、「たとえ新卒であっても、120%の力で頑張ってできるかどうかの仕事しか渡さない」という南場の言葉に、最初からそんなにやらせてもらえる会社があるのかと衝撃を受けた。

岩崎は自身を「放っておくと家から出ずにずっとゴロゴロするような怠惰なタイプ」だと話す。ただ、ややこしいのは、それが続くと自己嫌悪で自分のことがどんどん嫌いになってしまうことだ。

「だから、身を置く場所を選ぶのは大事だと思っていました。この会社だったら、私がサボる暇がないくらい仕事をさせてもらえそうだと思ったんです」

神戸で就職するなら、P&Gか地元に研究所がある企業の研究職がいいなあ。そうぼんやりと考えていた岩崎が、初めて真剣に自分のキャリアについて考えた瞬間だった。

「私は仕事がデキる」と勘違い

DeNA時代の岩崎

DeNAに新卒で入社した岩崎だったが、最初の1年は「調子に乗ってしまった」と話す。

提供:ユートラスト

しかし、そうして入社したDeNAで岩崎は、本人曰く「勘違い野郎のイタい新入社員」になってしまったという。それは、新卒採用担当に配属された岩崎が、自分の選考時の評価をたまたま見てしまったのがきっかけだった。同期の中で最上級の評価がついていたのだ。

「それで調子に乗ってしまったんです。私はデキる! 私は優秀! 私は正しいんだって」

その日から、誰のアドバイスも素直に聞けなくなった。ミスをしても、「それは私のせいではないです」と反論をするようになった。「私は仕事がデキるのに、この人は何でこんなに面倒くさいことを言ってくるんだろう」と思うようになった。会社のお偉いさんと飲みに行くのが大好きで、「偉い人に誘われている私、イケてる」と思っていた。勘違いは1年近く続いた。

変わるきっかけをくれたのは、直属の先輩だった。「岩崎、お前、自分のことをコミュ力あるって思ってるやろ?」と聞かれたので「ええ、まあ」と答えたら、岩崎の雑な仕事ぶりを指摘し、「お前、完全にコミュ障やからな」とガツンと言われたのだ。

「そのときは、泣くでもなくショックでもなく、あまりにもびっくりして、ぽかーんという感じでした。『私って、コミュ障だと思われているんだ』という事実が衝撃的すぎて」

給料をもらって仕事をするとはどういうことか。それを教えてくれたのも、同じ先輩だった。頼まれた仕事の納期に間に合わず言い訳をした岩崎に、先輩は言った。

「いいか、お前はピザ屋だ。30分以内にお届けしますと言ったピザ屋は、どんなにガス欠でも、渋滞にハマっても、30分以内に届けなきゃあかんのや。それができなかったら、客は二度とお前に仕事を頼まん」

その言葉がダメ押しとなった。

「ああ、私はいろんな人を裏切って、嘘をついて、勘違いして仕事をしてきたんだなあ、と。新卒2年目の春のことですから、ずいぶん遅い気づきでしたけれど、そこからいろんなインプットを浴びよう、謙虚に生きようと思うようになったんです」

「エントロピーの増大」は避けられない

ユートラスト・バリュー

ユートラストのオフィスの壁には、4つのバリューを示した紙が何箇所にも貼ってあった。

撮影:伊藤圭

謙虚に生きる。一度そう決めた岩崎の気持ちは、起業してからも変わらない。むしろ、経営者になってなおさら、人の意見に真摯に耳を傾けるようになった。

ユートラストには4つのバリューがある。中でも、「KEEP THINKING(学び続ける。その頭で考え抜く)」は、岩崎の思想を色濃く反映している。

「私、自分のことを賢くない、アホやなと思っているんです。学校の成績も良くなかったし、頭脳明晰なタイプでもない。DeNAでは調子に乗って一瞬勘違いしたけれど、繰り返し反復しなければ新しいことを覚えられないアホなんです。起業した当時は、いつか社長を代わってくれる優秀な人が出てきたら、すぐにでも譲りたいと思っていたくらい」

だから、トップダウン型の経営はありえないと思っている。一つの脳みそで考えるよりも、10個、20個の脳みそで考えた方が絶対良いものができる。だから「KEEP THINKING」なのである。

とはいえ、バリューを決めても、会社のルールを決めても、それだけでは、組織は自走しない。企業の規模が大きくなるほど、創業時の想いや熱量が浸透しにくくなるのは、多くの経営者が悩むところだ。その課題を岩崎は、彼女ならではの言葉で表現する。

「仕事や会社って、エントロピーが増大するものなんですよね。自然界の法則だから、もう、これは仕方のないことです」

エントロピーの増大とは、端的に言えば、「放っておくと、全ての物事は散らかっていく」という熱化学の考え方だ。学生時代、生化学を学んでいた岩崎の目には、企業のエントロピーも、時間とともに増大していくものに見えている。

組織が大きくなり、関係者が増え、時間が経過すると、最初の決め事はどんどん乱雑になっていく。それを全部自分が把握しようと思うのは、物理的に無理だ。だから、岩崎も誰かが把握していればいい、人に任せようと考えるようになった。

「健全な諦めのようなものでしょうか」

ただしそれでも、いつでも元の目的を思い出すための手がかりとして「バリュー」が錨のような役割として存在する。KEEP THINKINGという言葉をわざわざ標榜するのは、放っておくとできないことだからだ。

ユートラストの本棚には、経営の本、マネジメントの本、はたまた法解釈の本などがずらり並ぶ。それらの本にはいくつもの赤線が引かれ、何度も読みこまれていることが窺える。「一度読んだだけで理解できるほど、頭がよくないから」という岩崎は、初読で本にアンダーラインを引き、再読する自分のためのガイドを作るのだという。

何度も繰り返し読む。読むだけではなく実践し、学んで少し成長する。もう一度読んで、考える。また実践する……。プログラミングを学びプロトタイプを作ったときと同じだ。時間はかかるけれど、このやり方が一番自分に合っている。

国も会社も「生きている」

幼少期の岩崎

幼少期の岩崎(写真右)は研究職だった父親の影響もあり、理科に興味を持ったという。

提供:ユートラスト

インタビューの間、「生き物に例えると〜」という言葉を何度も使った岩崎。父親が理学部出身で企業の研究職だったこともあり、幼い頃からその影響を受けて育ってきた。

夏休みの自由研究では石鹸を作った。綿菓子を作る機械を工作したこともある。アルミ缶に針金をつけて穴をあけ、バーナーで炙る。ザラメ砂糖がふわふわの綿菓子になるのが楽しかった。

今でも忘れられないのは、高校時代の生物の先生が、キネシンというタンパク質の動画を見せてくれたこと。キネシンは、顕微鏡で見ると、まるで二足歩行をしているように見えるタンパク質だ。しかし、歩いているように見えても、このタンパク質単体では「生物」とは言えない。

「キネシン一つでは生きていると言えないのに、なぜその集合体である人間や生物は、生きていると言えるのだろう。同じように“歩く”ように見えるのに、いったい何が違うんだろう。“生きている”の境界線はどこにあるのか? そう考えるようになって、大学では生物を学びたいと思いました」

ちなみに岩崎が高校時代に感じた疑問、「生きていることの境界線はどこにある?」は、今でも生物界で議論が続いている難しい命題である。ただし、いくつか「生きている」の要件とされている定義はあり、例えば外界と遮断され区別できること、中に血がめぐっていること、常に止まっていないことなどが「生きている」の要件になるのだという。

この「生きている」の要件を、岩崎は国や企業にもあてはめて考える。

「日本という国は、他の国と区別されていて、その中で経済活動があって、人が動いている。これってある種の生物だよね、と思うわけです」

だからこそ岩崎は、「人材の流動性の高い国(生物)は、成長発展することができる」と考えている。YOUTRUSTで生まれる人の動きで、日本という国に血がめぐり、生物活動が活発化する。岩崎の脳内には、日本という生物が生き生きと活動する、そのイメージがある。

最終回では、岩崎の個人としてのミッション、女性経営者のロールモデルになりたいという想いに迫る。

(敬称略、続きはこちら▼)

(第1回はこちら▼)

(文・佐藤友美、写真・伊藤圭)

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