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「妊娠した責任をどうとるのか?」と言いがかり。こんな経験は私が最後であってほしい【ユートラストCEO・岩崎由夏4】

ユートラスト・岩崎由夏

撮影:伊藤圭

努力した人が報われる社会になってほしい。明日が今日より楽しい日になると思える社会をつくりたい。キャリアSNS「YOUTRUST」を運営するユートラスト代表取締役CEO、岩崎由夏(33)には、社長としてのミッションとは別に、個人としてのミッションがある。それは、女性経営者のロールモデルになりたいという想いだ。

ダイバーシティーや女性活躍が叫ばれても、いまだ起業家に占める女性の割合は低い。それゆえ、男性経営者であれば考えなくても良い負荷を、背負わされることも多い。

本当の平等にはほど遠い

病室で呆然とする女性

妊娠時に入院した岩崎に対し、一通の衝撃的なメッセージが届いた(社員はイメージです)。

PR Image Factory/ShutterStock

岩崎には、子どもが1人いる。その子を妊娠したときに、子宮筋腫をこじらせて2週間入院することになった。関係各所に迷惑をかけたと思った岩崎は、Twitterで入院を公開して詫びた。

手術を終え、病院のベッドでTwitterを眺めているときだった。当時流行っていた匿名の質問箱に、一つの質問が入っていることに気付いた。何気なく、その質問箱を開ける。そこにはこう書かれていた。

「社長がこのタイミングで妊娠する責任は、どう取られるつもりですか?」

それでなくても、予期せぬダウンで心が参っている時だった。だから、普段はしない反論をしてしまった。「うちの会社の人は、私に対して責任なんて言ってきませんよ」と。実際、会社のメンバーは「大丈夫だから、気にせず治療に専念してね」と言ってくれていた。ほどなくしてまた匿名の返事が返ってきた。「それは、言わないだけです。心の中ではみんな思っていますよ」。

その返事を見て、岩崎は質問箱をぱたんと閉じた。そのままアカウントごとその質問箱を削除し、布団をかぶってぎゅっと目をつぶった。

「もちろん、妊娠したことが悪いなんて思いません。けれども、私が急に休むことでメンバーに負担をかけたことは申し訳ないと思っていた時でした。だから、『ひょっとしたら、みんな私のことを迷惑な社長だと思っているのかな』と疑心暗鬼になってしまって」

今となっては、それが理不尽な言いがかりだと分かる。妻を入院させたからといって責められる男性経営者はいないだろう、もしくは創業時に子どもが生まれたことを責められる男性経営者はいないだろう。

「こんな経験をしなくちゃいけない社長は、私が最後であってほしいと、いつも思っています」

匿名の投稿だけではない。臨月の時、大きなお腹で投資先を回ったら、「保活はどうするのですか?」「育休はどれくらいとる予定ですか?」とずいぶん聞かれた。もっと事業プランを見てほしいと思っても、やはり質問は出産後の話ばかり。これが男性経営者で、たとえ配偶者が臨月だと相手に知られたとしても、絶対にこんな質問は受けないだろうと思った。男女雇用機会均等法が施行されて30年以上が経つが、やはり本当の平等にはほど遠い。

「だから、自分が社会を動かすことに貢献できるのなら何かしたいなと思うんです。子どもを育てながら、めちゃくちゃ大きな会社を作って働いている女性経営者が私たち世代で何人も生まれたら、『妊娠した責任をどうとるのか?』なんて聞かれなくなると思うから」

それが、岩崎が「女性経営者のロールモデルになりたい」と語る理由であり、その想いはYOUTRUSTで実現したいと考えた「フェアな機会の提供」というコンセプトにもつながっている。

成長に必要な「活性化エネルギー」

ユートラスト・岩崎由夏

出産と育児、そして社長業を並行した経験は岩崎に新たな視点をもたらした(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

子どもが生まれて分かったことがたくさんある。一つは「子どもがいたら家で仕事など、できっこない」ということだ。これは産む前には想像できなかったことだった。経験が増えた分、理解できる他人のシチュエーションが増えた。

子育てだけではない。子を持って、親の気持ちが分かるようになったように、経営をして初めて、前職の経営陣の気持ちが想像できるようにもなった。若い頃は、経営陣がわけのわからない意思決定をしていると居酒屋で文句を言っていた。だが経営陣は49対51のようなギリギリの意思決定を重ねて、会社を守ったり成長させたりしてくれていたと思えるようになった。

子どもを育てながら、人間や組織の成長についても思いを巡らせる。岩崎は「人間の成長は、化学反応エネルギーと似ている」と話す。酸素と水素が反応して水になるのは、「熱」というエネルギーが与えられることによって、「活性化エネルギー」と呼ばれる壁を越えることができるからだ。壁を越えれば、酸素と水素は水となって安定した存在になる。

「それは人間の成長も同じなんですよね。楽して成長したり、楽して活躍している人はいない。一定の苦痛を伴う壁を越えられた人だけが、もっと素敵な安定状態に進めるのだと感じるんです」

だから、苦しいときは「ああ今、自分は活性化エネルギーの壁を越えようとしているのだ」と考えるようになった。

面白いのは、この壁は、人からもらったエネルギーを使って越えることもできることだ。だから自分も、他者からのエネルギーを正しく受け取って壁を越えようと考える。メンバーにも、「あんたやったら、きっとできるで。もうひと踏ん張りや」と声をかける。

ユートラストという生物の成長は、メンバーの成長でもあり、そのまま、岩崎の経営者としての成長でもあるのだ。

南場の「元気は利益!」に励まされて

ユートラスト・岩崎由夏

撮影:伊藤圭

前職の創業社長であり、今は株主でもある南場智子は、女性経営者として最前線で活躍してきた人物だ。その南場に最近、岩崎は褒められたという。

岩崎は、自分の強みを「深く悩まないこと、病まないこと、折れないこと」だと自己分析している。

「これは自分に暗示をかけている部分もあるのかもしれませんが、私に限って折れることはないと、言い聞かせているんです。イライラしたり悩んだら、これ以上考えちゃダメ!と寝てしまう。寝ればたいていのことを忘れられると信じているんです」

そのポジティブさが、前面に出るからだろうか。先日南場に、「あなたはいつも元気でいいね」と褒められた。

「この歳になって、“元気”で褒められるのかと苦笑していたら、南場さんが『元気は利益!』と、言うんですよ。元気でいると正しい意思決定ができるから、あなたが元気でいることは会社の利益につながるのよって」

マッキンゼー出身で、ゴリゴリのロジカルシンキングだと思っていた南場から「元気は利益」と言われるなんて思っていなかった。驚いたけれども、それは自分のそれまでの価値観と照らし合わせてもしっくりきた。社長がニコニコしている会社かそうでないかで、社員の心の余裕は変わる。努めて元気に振る舞おうと考えていた岩崎にとって、南場の言葉は、自分の経営者としての生き方にお墨付きをもらったような嬉しさを感じた。

創業当時は「事業が軌道にのったら、CEOは誰かふさわしい人がやってくれたらいいのにな」と考えていた。でも今は、GAFAを超える企業を日本に生み出したい、そのきっかけをユートラストが担いたいと、他でもない自分が考えている。そして、そのためには自分自身が、めっぽう元気で高い視座を持ち続けなくてはならないと考えている。

YOUTRUSTが、「日本を変えるきっかけになる」ためには、岩崎が言うところの「活性化エネルギーの壁を超える」経験を、これから何度もしなくてはならないのだろう。

(敬称略、完)

(文・佐藤友美、写真・伊藤圭)

佐藤友美: 書籍ライター。コラムニスト。年間10冊ほど担当する書籍ライターとして活動。ビジネス書から実用書、自己啓発書からノンフィクションまで、幅広いジャンルの著者の著書の執筆を行う。また、書評・ライフスタイル分野のコラムも多数執筆。 自著に『女の運命は髪で変わる』のほか、ビジネスノンフィクション『道を継ぐ』など。

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