EVバッテリー原料の供給不足と価格高騰は、いったいいつまで続くのだろうか。
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世界的なカーボンニュートラルへのシフトに加え、ウクライナ侵攻、コロナ禍に伴う中国のロックダウンなど、電気自動車(EV)のサプライ(供給)チェーン問題は依然として先行きが見えない状況が続いている。
特に懸念されているのが、リチウムをはじめとするバッテリー原材料の供給不足だ。
テスラ(Tesla)CEOのイーロン・マスク(Elon Musk)は2022年4月、リチウム価格が「非常識なレベル」に達したため、テスラ自身がこのビジネスに参入するかもしれないとツイート。2022年第4四半期決算説明会では、「EV業界は新しいリチウム電池関連の起業家やスタートアップ企業を必要としている」と語った。
その発言にも現れているように、EV関連スタートアップへの投資も相次いでいる。
カナダのリチウム関連スタートアップ、マングローブ・リチウム(Mangrove Lithium)は5月17日、ビル・ゲイツ率いるファンド「ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ(Breakthrough Energy Ventures)」や「BMWアイ・ベンチャーズ(BMW i Ventures)」から資金を調達したと発表した。ブレークスルーからの調達は2回目となり、累計調達額は全体で2500万ドル(約32億円)を超えたという。
メーカーや投資家が現状の打開を急ぐ一方で、状況は当面変わらないと分析するのは、S&Pグローバル・コモディティ・インサイツ(S&P Global Commodity Insights)の未来エネルギー指針マネージャー、アン・ロバ(Anne Robba)氏だ。
「現在のリチウムの供給不足は、少なくとも今後5年間は続くでしょう」(ロバ氏)
さらに、同じくバッテリー用原料であるコバルトとニッケルについても「2025年までに供給不足になる」と予測する。
ロバ氏は、2022年3月の世界のEV販売台数が前年同期比で約6割拡大していることに触れ、テスラやゼネラル・モーターズ(GM)、フォルクス・ワーゲン、日産自動車といったOEM(完成車メーカー)各社による「バッテリー製造拠点の現地化を進める投資や取り組みは興味深い」としながらも、OEMや政府の「非常に野心的な目標」の達成には手厳しい見方を示す。
「電気自動車の市場の視点から見ても長期的な視点から考えても、サプライチェーンの問題が2030年までの主要なハードルであることに変わりはない。上流サプライチェーンの制約と消費者の需要の点から見て、OEMが掲げるEVの供給目標は達成不可能です」(ロバ氏)
【図1】リチウムイオンバッテリー主要金属材料の水酸化リチウム、炭酸リチウム、硫酸ニッケル、硫酸コバルトの価格推移(2016年〜)。リチウムは昨年後半、史上最高値を更新し続けた。S&Pグローバル・コモディティ・インサイツは、「供給制約と電池価格の上昇が、補助金の効果を弱めている」と指摘する。
出所:S&P Global Commodity Insights
上流サプライチェーン制約の大きな要因となっているEVバッテリーの原材料、特にリチウムの供給不足は深刻だという。同社のEMEA地域(欧州・中東・アフリカ)プライシング・ディレクターのスコット・ヤーハム(Scott Yarham)氏はこう指摘する。
「新しいバッテリーや代替バッテリーの研究は行われていますが、すべてリチウムをベースとしており、そのリチウムは供給不足に陥っている。 現時点ではリチウムから“脱却”する商機はないのです」(ヤーハム氏)
ヤーハム氏は、車載バッテリーからリチウムを取り出しリサイクルする取り組みが進められていることについても、次のようにコメントしている。
「使用済み電池が十分に供給されるようになれば、将来のバッテリー金属を構成する要素になり得るが、短期的には難しいでしょう」(ヤーハム氏)
(文・湯田陽子)