2021年に創業したベンチャー・PowerXが、5月23日、シリーズAラウンドの前半として、第三者割当増資により41.5億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は、Spiral Capital、日本瓦斯をリード投資家に、今治造船、日本郵船、三井物産、三菱UFJ銀行など。
日本瓦斯、日本郵船とは、同日に資本業務提携も発表している。
PowerXは、かつてZOZOのテクノロジー部門トップを務めた伊藤正裕氏が代表を務める、蓄電池などの「エネルギー分野」のベンチャー企業。ただ、今回の資金調達で投資家となっている今治造船や日本郵船といった造船会社や海運会社と資本業務提携していることからも分かる通り、「船」にも深くコミットしている。
「電気運搬船」の準備は着々。調達資金で「電池工場」いよいよ建設
PowerXが開発する電気運搬船のプロトタイプのイメージ。
画像:PowerX
同社が2021年8月に起業を発表した際、伊藤代表が長期的な計画として掲げたのが、国内で注目されている洋上風力発電などで得られた電力を送電線の代わりに船で運ぶ「電気運搬船」の製造だった。
実際、起業後2021年12月には、今治造船と資本業務提携し、2025年末までに電気運搬船「PowerARK」のプロトタイプ船を共同開発すると発表していた。
その後も、ノルウェーのオスロに本拠地を置く世界最⼤級の船級(船舶の格付け)・認証機関であるDNVと LOI(意向表明書)を締結したり、日本海事協会とMOU(基本合意書)を締結したりと、電気運搬船の製造に向けた準備を進めてきた。
一方で、PowerXでは、もう一つの事業の柱として、国内にバッテリー製造工場を建設し、EV(電気自動車)用の「急速充電器用電池」や、船舶用の巨大バッテリーを製造する計画を進めていた。
今回の資金調達で得た資金の一部は、そのための大型電池製造工場「Power Base」の建設費として充てられる。
PowerXが製造する予定のEV急速充電器用電池のイメージ。
画像:PowerX
PowerXの広報によると、2021年夏の段階で選定中だった工場の場所も既に確定し、土地建物の購入契約も完了した状況だという。蓄電池工場で実際に製造する製品の詳細は明かされなかったものの、
「既に存在する工場を改装して利用する予定であり、現在の利用者が退去中です。近く工場の場所、デザイン、スペック、などの構想を発表する予定でおります」(PowerX・広報)
と、順調に工場の稼働に向けた準備を進めていると語る。なお、工場の詳細については、6月に情報が公開される見通しだ。
また、今回の資金調達は、蓄電池商品の研究開発、人材採用にも充てられる予定だ。
PowerXの社員は現在30人前後で、その大半がエンジニアだ。今後、製品開発、ソフトウェア、プラント設計を加速するために採用を進め、年内には専門職人材を採用し、50人前後まで社員を増やす計画だという。
「計画は順調」世界のバッテリー不足の影響は?
2021年8月、創業発表前にBusiness Insider Japanのインタビューに応じるPowerXの伊藤代表。
撮影:今村拓馬
PowerXの伊藤代表は、2021年8月のBusiness Insider Japanのインタビューで、電池工場について「2022年には工場の建設を開始し、2024年には本格稼働する計画」と話していた。現状の進捗を見ると、比較的順調な歩みを辿っているように見える。
改めて事業の進捗を問うと「ペースは順調です。今のところ全て予定通り進んでおります」(PowerX・広報)と、自信を見せる。
一方で、世界を見渡せば、EV車載電池の急速な需要増の影響で、リチウムイオン電池の材料であるリチウムの供給不足が大きな課題とされている。
これから先、PowerXが電池工場を本格的に稼働させる上で影響がないのか質問すると、
「今、自動車の急速なEV化に伴い、特に自動車向け高密度、NMC電池※がひっ迫しているようです。
一方で弊社が直近で展開する予定の定置用電池はそれほどの高密度は必要ではなく、レアメタルをあまり使わないLFP(リン酸鉄)電池を採用いたします。LFP電池※のサプライチェーンもひっ迫することは見込まれますが、弊社が必要と考えている量の調達は特段問題ではないと思います。この辺りも注視しながら早めに動いております」(PowerX・広報)
と、計画に支障はないと語った。
※NMC電池とLFP電池は、電極のタイプが異なるリチウムイオン電池。
(文・三ツ村崇志)