スタートアップのウェイジストリーム本社内に作られたパブ「ウェイジング・ブル」。
Wagestream
ロンドンは、世界で最も重要なフィンテックの中心地として、長きにわたりその地位を確立してきた。
この都市は、330億ドル(約4.2兆円、1ドル=128円換算)規模のチャレンジャーバンク(編注:特定のサービスに特化し、手数料の安さや小回りの利くサービスを提供する新しいタイプの銀行)であるレボリュート(Revolut)、いまや世界的な上場企業となった送金サービスのワイズ(Wise)、そしてオンライン決済企業のチェックアウト・ドットコム(Checkout.com)といった企業の本拠地となっている。
労働市場における競争が激化する中、ロンドンのスタートアップたちは今、自社のオフィスに改良を加えたり、柔軟な勤務環境を整えたりして、人材を引きつけ、確保しようとしている。
年30万円の航空運賃を支給
「以前の働き方に戻すのはもう無理でしょうね」と、タイガー・グローバル(Tiger Global)が支援するスタートアップであるトゥルーレイヤー(TrueLayer)の人材担当バイスプレジデント、ヴァソ・パリシノウ(Vaso Parisinou)は、Insiderにこう話した。
「会社として競争優位性を築きたいんです。基本的に対面には対面なりの強みがあり、でもそれと同じくらい柔軟性も大切だと思っています。ハイブリッドワークは従業員にも評判がいいのですが、完全にリモートで働きたいという人にはトゥルーレイヤーは向いていないでしょうね。ただ、それを知ることも私たちにとって強みになります」
オープンバンキングのスタートアップであるトゥルーレイヤーは従業員に、ロンドン、ダブリン、ミラノのオフィスをハブと考えてもらいたいと思っている。これらのハブが、デモデイ(事業計画をプレゼンする機会)のハッカソンやチームでのランチといった、対面での活動を開催する場となるのだ。また、同社はスタッフたちに他のオフィスを訪問してもらうため、航空運賃や宿泊代として年間2000ポンド(約32万円、1ポンド=160円換算)を支給している。
トゥルーレイヤーの人材担当バイスプレジデント、ヴァソ・パリシノウ。
TrueLayer
一方、タイガー・グローバルの支援を受け、中小企業データのAPIを提供するフィンテック企業であるコダット(Codat)は、出社不要という方針を打ち出した。
「鍵になるのは、チーム内に成長の文化があるということです」コダットの人材担当ヘッドであるトム・デニー(Tom Denny)は言う。
「私たちがオフィスの将来について検討し始めた当初は、オフィスは当然価値があるものだと思っていました。もちろん職場で直接会ってコラボレーションするのはいいことだと思いますが、最終的には従業員が選べるようにしています」
本社に自前のパブも
新型コロナウイルスによるパンデミックが発生して以降、求人市場はますます働き手主導になってきている。求職者は転職にあたって、ハイブリッドワークを求めることが多い。フィンテック企業は、概ねそれに適った方針を採用し、魅力ある職場であり続けようとしてきた。
データ分析のスタートアップであるクァンテクサ(Quantexa)は、オフィスを改装して従業員が共同作業をしやすくした。同社のチーフ人材担当オフィサーであるローレイン・メトカーフ(Lorraine Metcalf)は、才能ある従業員が最高の仕事をするための「磁石」となるようにオフィスを設計したが、出勤を義務付ける日は設けなかったという。
このほかの企業も、職場にもっと社交的なハブとしての機能を持たせようとしている。ロンドンを本拠地とするウェイジストリーム(Wagestream)は、スタッフを街の中心部に呼び戻すため、本社内に独自のパブをオープンさせた。
ロンドンのフィンテック企業たちは、多様な働き方を促すべく、表面的なわずかな変更ではなく、より大きな変更をオフィス空間に加えてきたという。
静粛なオフィスフロアからコラボレーションを促すための会議室、新たにオープンしたルーフテラスに至るまで、オフィスはもはや単にデスクが並ぶ空間とはみなされなくなっている。
「私たちは、ハイブリッドワークの本質的な面を取り入れようとしています。何がうまく機能しているのか、どんな要望がスタッフから寄せられているかを見極め、それに応えていこうと思っています」と、ゴールドマン・サックスが支援する経済犯罪予防企業のコンプライアドバンテージ(ComplyAdvantage)の人材担当バイスプレジデントであるアマンダ・ワード(Amanda Ward)は言う。
「社内ではSlackも使っていて、そこでは日々アイデアや提案が飛び交っています。こうしたアイデアや提案を実行に移すことでスタッフの望みやニーズを叶えられ、かつスタッフの生産性が上がるんですから言うことなしです」
(編集・大門小百合)