アマゾンでは離職率の上昇が深刻化している。
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アマゾン(Amazon)では、同社にとって「失いたくない」従業員の退社が相次いでいる。Insiderが独自入手した社内データから明らかになった。
アマゾン社内で「後悔の伴う(regretted)」人員減(率)と呼ばれ、追跡対象とされている指標が、2021年6月以降の1年間はここ数年の倍以上の水準となる12.1%に達している。2016年から21年5月までは5%前後で横ばいに推移していた。
「後悔の伴う」人員減とは、同社側が辞めてほしくないと評価していた従業員の離職率を指し、ほとんどの場合は自己都合退職となる。
それとは別に、アマゾンは「後悔なき(unregretted)」人員減と呼ばれる(正反対の)指標も追跡対象としている。Insiderが過去記事で報じたように、有り体に言えば、同社にとって辞めてもらってかまわない従業員を指す。
アマゾンの広報担当にコメントを求めたが、返答はなかった。
アマゾンの「後悔の伴う」人員減の急増は、高インフレの数ある弊害のひとつと言える。
要するに、賃金インフレと人材獲得競争の激化により、同社が最も高く評価している従業員たちが他社に移籍してより良い待遇を得る機会が増えているのだ。
過去にInsiderの取材に応じた(1月19日付記事)あるアマゾンの従業員も、同社の比較的低い給与、冴えない株価、過酷な労働を是とする社内カルチャーが、離職率上昇の要因となっていると語っている。
従業員からの給与をめぐる懸念の声に対処するため、アマゾンは2月に(倉庫作業員を除く)従業員の基本給の上限を従来の2倍に引き上げることを発表。株式報酬の総額も過去最高を記録する勢いで、2022年第2四半期(4〜6月)は60億ドル相当の付与となる見通しだ。
それでも、基本給上限の引き上げ後に取材に応じたアマゾン従業員の少なからずが「昇給は期待外れだった」と語る。
Insiderが入手したアマゾンの社内データによると、一部のチームでは離職率が際立って上昇している。
例えば、外部委託配送業者のマネジメントを担当する配送サービスパートナーチームは、2021年の離職率が55%にも達した。
くり返されるチームリーダーの交代により「見通しの不透明さが増した」ことや、仕事への満足度やリーダーの行動に対する信認が低く従業員の士気が高まらないことが、高い離職率の原因という。
なお、配送サービスパートナーチームはここ数年、外部委託パートナーの拡大を推進してきたが、2022年は大幅に抑制する方針を明らかにしている。
また、プライム・エア(Prime Air)と呼ばれるドローン配送部門についても、かつてない水準の離職率が報告されている。Insiderの独自取材により明らかになった。
およそ800人が所属する同部門では、2021年通年の(退社や解雇など)離職率が30%超に達した。とりわけ、飛行試験を担当するチームでは71%という驚くべき離職率が記録された。
ほかに、クラウドビジネスを展開するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や消費者向けのリテテール部門なども似たような深刻な人材流出に苦しんでいる。
内情に詳しい関係者によれば、AWSのあるチームではエンジニアの離職率が35%に達し、リテール部門に所属する別のチームでもエンジニアの30%が離職するに至っている。
アマゾンはかつて管理職はじめ優秀で忠誠度の高い人材ほど退職率が低く会社に長くとどまる社内状況を自画自賛していただけに、「後悔の伴う」人員減の増加は際立って見える。
Insiderが入手した社内資料によれば、現在アマゾン最高経営責任者(CEO)で2019年当時はAWSのCEOだったアンディ・ジャシーは、自ら率いるチームの「後悔の伴う」人員減をわずか4.75%に抑えていた。
AWSシニアバイスプレジデント(グローバルインフラ担当)ピーター・デサンティスのチームも同水準の4.83%だった。
ただし、当時も「後悔の伴う」離職の主な理由は現在と変わらず、報酬の低さとキャリア開発(=職務経験を通じた従業員の中長期的な能力開発)の不十分さ。社内資料によれば、「後悔の伴う」人員減のうち26.8%が「報酬」を、19.5%が「キャリア開発」を離職理由に挙げている。
(翻訳・編集:川村力)