ジャングルで捕獲された、サル痘ウイルスを保菌している可能性のあるネズミを調べるコンゴの科学者レムス・カレンバとCDCの科学者ジェフ・ドティ。2017年8月29日、コンゴ共和国のマンフエットにて。
Melina Mara/The Washington Post via Getty Images
- サル痘はこれまで、アフリカの一部地域でよく見られてきたウイルス性の感染症だが、それらの地域以外にも感染が広がり、懸念されている。
- この感染症は、1958年にサルから初めて発見されたことが、名前の由来となっている。
- しかし、人間がサルからこの病気にかかることはあまりなく、科学者もこの名前が誤解を招いていることを認めている。
2022年5月上旬以降、アフリカ諸国以外で人間がサル痘に感染する症例が100例以上確認されている。アフリカ以外の国でサル痘の感染者が発生することは稀であり、世界中が警戒を強めている。
サル痘と名付けられてはいるものの、実際にはサルとはあまり関係がない。なぜ誤解を招くような名前になったのだろうか。
なぜ、サル痘というのか
サル痘にかかる霊長類は人間だけではない。サルにも感染することから、この名前がついた。
サル痘の原因となるウイルスは、1958年にデンマークに輸入された研究用のサルの集団で初めて発見された。この感染症は、天然痘(smallpox)に似た発疹が症状として現れたことから、科学者たちはこれをサル痘(monkeypox)と呼んだ。
それから10年以上たった1970年、人間で初めて、サル痘の患者が確認された。ザイール(現在のコンゴ民主共和国)の子どもが感染したのだ。
「このウイルスの名前はひどい間違いだ。しかし、今となってはそれを変更することはできない」と、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の疫学者で、アフリカの数カ国でサル痘のアウトブレイクについて長年調査しているアンドレア・マッコラム(Andrea McCollum)がInsiderに語っている。
アフリカオニネズミは、サル痘のウイルスを保菌している可能性が高いと考えられている野生動物の一種だ。
Samrang Pring/Reuters
人間が感染するサル痘に、サルは関与しているのか
サルは、人間がかかるサル痘と何の関係もない可能性が高い。
サル痘は人獣共通感染症であり、感染した動物から、人間にもウイルスがうつされる。人間がこのウイルスに感染するのは、感染した動物と密接に接触した場合のみと考えられており、ひっかき傷や噛み傷、野生動物の調理などを通して人間の体にウイルスが入っていくとされている。人から人へ感染する可能性もあるが、それほど多くはないようだ。
どのような野生動物がサル痘を保菌しているのか、正確には分かっていないが、西アフリカと中央アフリカなど、限られた地域に生息している動物だと考えられている。
霊長類が人間への主な感染源である可能性は低い。世界保健機関(WHO)は、西アフリカと中央アフリカに生息する一種か数種の小型のげっ歯類が感染源だろうとの見解を示している。
「森林地帯に住んでいて、これらの小動物と接触する機会のある人は、感染することがある」と、感染症の専門家でロンドン大学衛生熱帯医学大学院の教授であるジミー・ウィットワース(Jimmy Whitworth)は言う。
「これが、一般的な人間への感染経路だ」
この考え方は、2003年にアメリカで発生したサル痘のアウトブレイクで裏付けられている。このときの症例は、西アフリカから輸入されたアフリカオニネズミに触れたプレーリードッグが原因であることが判明したのだ。
今回のサル痘のアウトブレイクでは、西アフリカにいるとされる媒介動物が特定できないという点で、関係者は懸念を強めている。ヨーロッパと北米の人々は、サル痘の流行地域への渡航歴の有無にかかわらず、互いにウイルスをうつしあっている状況だ。発疹のある皮膚と接触することで感染していると見られている。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)