世界経済フォーラムでスピーチを行うバングラデシュのディプー・モニ教育大臣。2022年5月24日。
World Economic Forum/Sikarin Fon Thanachaiary
- オートメーションや社会問題、ネットゼロの目標に向けたグリーン産業の成長によって、世界の労働者に負担がかかっている。
- 世界経済フォーラムでは、教育プログラムや管理体制の改善によって未来の労働者にいかに貢献するか、などが議論された。
- 「社会的な仕事」やよりよい健康状態への投資の増加は、より大きな成果や雇用創出をもたらす可能性がある。
ダボスで行われた世界経済フォーラム(ダボス会議)に登壇した各国政府高官や専門家によると、「グリーン革命」や人口の高齢化のため、未来の労働者は新たなレベルの変化やストレスに直面するという。
労働者のスキルアップ、ソーシャルサービスの向上、労働自体の再構築が、今後数十年にわたる持続可能な労働力の構築には欠かせない要素になるだろう。
スキルトレーニングによって将来性を確保
2030年代半ばまで、教育水準の低い労働者の44%は、機械によって仕事を失うリスクにさらされるだろう。
だが、スウェーデンとカナダの政府高官はダボス会議において、バーチャルトレーニングプログラムや新しい仕事の創出を通して、オートメーションとAIは奪うよりも多くの雇用機会を作り出すだろうと述べた。カナダのイノベーション・科学・産業大臣であるフランソワ-フィリップ・シャンパーニュ(François-Phillipe Champagne)は「テクノロジーは可能性を与えてくれる」と述べている。
それでも、2人の大臣はオートメーションには依然として大きな問題があると認め、それは作業を維持するための十分なスキルを持った労働者を確保することだと述べた。
「ロボットは生産性を高めるための鍵になる」とシャンパーニュは語った。課題は、余剰人員になる労働者のスキルアップや再雇用への投資だという。
特に各国が「グリーン経済」に移行する中で、国による継続的な教育やトレーニングプログラムが不可欠で、産業拠点への労働者の移住の奨励も重要だ。
「ストックホルムに移住して仕事を見つける人々に支援金を出して10年から15年が経った。今度は人々をストックホルムから新しい産業の仕事が生まれるヨーテボリやスウェーデンの北部へ動かす方法について考えなければならない」とスウェーデンのミカエル・ダンベリ(Mikael Damberg)財務大臣は述べた。
一方で、バングラデシュのように人口が多い国では、政府が各地に十分な仕事を確保しなければならない。「人口は我々が持つ最大の強みのひとつであり、この人口を人的資源に変える必要がある」とバングラデシュのディプー・モニ(Dipu Moni)教育大臣は述べた。
人々に「技術的なノウハウ」だけでなく、変わりゆく仕事の内容に常に適応できるスキルを教えることが、これを実現する唯一の方法だとモニ大臣は述べている。
変わりゆく仕事のかたち
しかし、未来の仕事への不透明さは、すでに大きくなっている世界的なメンタルヘルスの危機を悪化させるかもしれない。これは世界の貧困層に不釣り合いに影響を与えており(世界の自殺者のうち77%が中所得から低所得の国で生まれている)、雇用や雇用される可能性に影響を及ぼしている。
オランダのヘルスケア団体、ビュートゾルフ(Buurtzorg)の創設者であるジョス・デ・ブロック(Jos De Blok)によると「我々は労働環境でうつ病を作っているのだ」という。
健康へのネガティブな影響を減らし、幸福で生産的な職場を作るためには、職場を再構築し、官僚的な管理体制を排除し、柔軟性のある働き方を認め、労働者に自分で管理する機会を与えなければならないと、彼はダボス会議で述べた。
労働者に目的意識を与えることは、メンタルヘルスの問題の回避に役立つとシャンパーニュは述べた。
「人はただ仕事がしたいだけではない。人生において意味ある何かを手にしたいのだ」
職場における問題は社会的な問題と切り離すことはできず、労働者だけでなく男女不平等や障がいの問題に注意を払うことが、将来の労働システムの構築には極めて重要だとパネリストたちは話している。
先日発表された世界経済フォーラムの報告書によると、指導、健康、教育などの社会的な仕事へ1.3兆ドルの投資を行うアメリカ経済の新しいモデルは、2030年までにGDPで3.1兆ドルを生み出し、1100万人の雇用を創出できるとしている。
カナダのシャンパーニュ大臣は「我々は人々を応援し、社会的な仕事に就く人をその価値に見合うように扱うべきだ」と述べたが、デ・ブロックはこう反論した。
「だが、我々は彼らに報いることを望んでいるのか。給料を上げたいと思っているのか」
彼は聴衆に、従業員のケアを行うとき、「我々は信頼と思いやりを中心に据える必要がある」と述べた。
(翻訳:Makiko Sato、編集:Toshihiko Inoue)