より高い給与、充実した福利厚生、リモートワークの柔軟性、これらがこの1年で仕事を辞めたアメリカ人が転職の際に挙げた理由だ。
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- 2022年になって「大退職」に踏み切った労働者は、すべてが好転したわけではないようだ。
- リンクトインが取りまとめたデータでは転職率は例年より高い、とブルームバーグが報じている。
- ミレニアル世代とZ世代は、お金だけでなく、時間や仕事の目的意識も大切にしている。
「大退職」は、すべての人にとってすばらしいものではないようだ。
アメリカの退職者数は、2022年3月に450万人となり、過去最高を記録した。その一方で、リンクトイン(LinkedIn)が2021年に転職した50万人を調査したところ、新しい職場に留まることを選択する人は少なかったとブルームバーグが報じている。
リンクトインによると、2021年に転職した労働者のうち、前職での勤務期間が1年未満だった人の数は、前年比で6.5%増加した。これは、リンクトインが2016年にこの調査を開始して以来、最も高い数値だ。
リンクトインの主席エコノミストであるガイ・バーガー(Guy Berger)はブルームバーグに、この調査では退職者と解雇された人を区別していないと語っている。しかし、企業は依然として記録的な高水準で人材募集を行っているため、人々が自らの意思で退職していると考えられる十分な理由があるという。
「(退職すると)よりよい機会に恵まれる可能性が高いのだから、これは当然のことだ」とバーガーは言う。
「一時解雇はそれほど多くない。労働市場は本当に熱くなっている」
リンクトインの調査は、アメリカ労働統計局のデータを裏付けるもので、よりよい給与や機会を求めて退職する人の数が増え続けていることを表している。とはいえ、ハリス・ポールが2022年3月に行った調査によると転職者のおよそ5人に1人が退職したことを後悔していると、USA Todayが報じている。
アメリカでは新型コロナウイルスのパンデミックで失われわれた雇用の約93%が回復したものの、職を転々とする人も多い。退職者数が400万人以上となった月は、2022年の3月で連続10カ月目になった。より高い給与、より多くの福利厚生、リモートワークの柔軟性などを求めて、特にZ世代やミレニアル世代が退職している。しかし、リンクトインの調査では、これらの特典が必ずしも新しい職場を気に入る理由にはなっていないことを示している。
よりよい仕事を求めて転職したものの、新しい職場もすぐに辞めてしまったローレル・カミランド(Laurel Camirand)は、「1日の終わりに、人生のほとんどを仕事に費やすのだろうかと考える」とブルームバーグに語っている。
「みじめになるのはうんざりだ」
転職が一部の労働者を「みじめ」にし、企業にプレッシャーを与えている
求人数が増加し、人々が職場を転々とする中、企業は新規採用者を獲得するために賃金を上げ続けている。そのため、職場に留まっている人と新規採用者の間に賃金格差が生じている。
しかし、FlexJobsが2022年に行った調査によると、2021年に給与交渉を行った1248人の被雇用者のうち約半数が交渉に成功したと答えており、賃金上昇が労働者全体にいい影響を与えていることが示唆されている。この調査結果は、特にインフレが家計を圧迫している今、アメリカの労働者を後押ししている。
実際、金融持株会社UBSのクレジット戦略責任者であるマシュー・ミッシュ(Matthew Mish)は、労働者が不足する中で彼らが交渉力を得たことは、今後数カ月にわたるインフレに労働者クラス・ミドルクラスのアメリカ人が持ちこたえられる可能性が高い理由のひとつになるとInsiderに語っている。
特に接客業や小売業において「基本的な交渉力の強さは続いている」とミッシュは述べ、「エコノミストは弱くなる兆候を見ていない」と付け加えた。
しかし、リンクトインとUSA Todayが報じたデータによると、雇用主は新たな社員を満足させるために、高い給与の支払い以上のことを求められている。労働者はより充実した機会や健全な職場文化を求めているのだ。
過去1年間に2回転職し、給与が39%上昇したという28歳の人事マネージャー、レズリー・ラバーバ(Lesley Labarba)がInsiderに語ったところによると、職場の中心的存在になってきている若い世代は、その前の世代のよりも自分の時間を大切にしているという。
「ベビーブーマー世代が引退し、Z世代ばかりになると、時間を(生活に欠かせない)日用品として見るようになる」と彼女は述べた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)