私たちの生活を脅かす、世界的なエネルギー価格の高騰。海外では電気代の急騰が生活を直撃、資金繰りに行き詰まり、経営破綻する電力会社も続出している。そんななかでも、安定した電気代とユニークなサービスで急成長している電力会社がある。
2016年の創業以来、イギリスを中心に世界8カ国、300万件以上の家庭に再生可能エネルギー100%の電力を販売しているオクトパスエナジーだ。
イギリスの消費者団体「Which?」から5年連続で「推奨」された唯一のエネルギー企業、世界中の企業をレビューする口コミサイト「TrustPilot」で約9割が最高点「5」と評価——など、顧客満足度の高い電力会社としても知られている。
そんなオクトパスエナジーが、いよいよ日本にも上陸した。
2021年、約270万件以上の電力小売り顧客を持つ国内最大の新電力・東京ガスと合弁会社を設立し、ベータ版の提供を経て、2022年1月に本サービスを開始。現在、関東・中部・関西・東北・中国・九州エリアで実質再生可能エネルギー100%の電力を販売している。
オクトパスエナジーはなぜ支持を広げているのか。オクトパスエナジーのターゲット層である編集部員2人と、オクトパスエナジーの中村肇社長とマーケティング・ディレクターの厚地陽子さんとの対話を通じて、「オクトパスエナジーが選ばれる理由」を解き明かしていこう。
登場人物
編集部員A:男性/妻と小学生と幼稚園児の娘の4人家族/東京近郊の分譲マンション(持ち家)
編集部員B:女性/首都圏郊外の賃貸マンションで一人暮らし
オクトパスエナジー 中村肇社長
オクトパスエナジー マーケティング・ディレクター 厚地陽子さん
実質再エネ100%なのに安い
B
携帯ショップで新電力への切り替えを勧められたけど、ネットでいろいろ調べても会社がたくさんありすぎてどこを選べばいいのか分からなくて。Aの家は新電力に切り替えたって以前言っていたけど、どうしていまのところに切り替えたの?
A
携帯を切り替える時に、その携帯会社が提供している新電力に切り替えたんだ。キャンペーン中だったし、携帯料金とセットならお得になるということで。
B
安くなるのは大歓迎だけど、この間の冬は一部の新電力の電気代がものすごく上がったと聞いたし、最近、環境のことも気になるし。再生可能エネルギーの電気ってどうなんだろう?
B
外資か……大丈夫なのかな?
A
東京ガスと組んで展開しているから、企業としての安定性という意味では手堅そうな気がするけれど。
B
再エネだと、やっぱり通常の料金より高くなるんだよね?
A
オクトパスエナジーは違うらしい。少なくとも自社の通常の料金プランより、環境に良いプランの方が安いんだって。
B
サイトを見てみたら、ネット上で簡単に料金をシミュレーションできるのね。先月の電気料金請求書の数字を入力してみるわ。
東京23区内在住で2022年3月に30A、144kWhでシミュレーションした結果。
B
グリーンオクトパスが実質再エネ100%で、スタンダードオクトパスが通常の料金プランだよね。確かにほんの少しだけだけど、グリーンオクトパスのほうが安い。
A
パッと見て、電気料金がいくらぐらいになりそうか、すぐに分かるのは単純明快でいいな。年間で想定される最低月額料金と最高月額料金という項目もあって分かりやすい。
B
サイトの雰囲気もほかの新電力と違うね。タコのキャラクターも何だかかわいいし。
A
従来の電力会社のイメージとはずいぶん違うな。僕もちょっと興味が出てきたな。オクトパスエナジーの人にもっと詳しく聞いてみるか。
他社の料金とどう違う?
B
オクトパスエナジーのサイトで料金のシミュレーションをしてみたら、とても明快でした。一方でネットの比較サイトやおすすめランキングを見たんですけど、料金のシミュレーションや比較の仕方が会社やサイトによって違っているので余計に混乱してしまって。
中村肇社長(以下、中村)
そうですね。なかには新規切り替え向けの割引キャンペーン料金込みで算出しているところもあって、キャンペーンの適用期間終了後はかえって割高になってしまう例もあるようです。
B
オクトパスエナジーでも新規加入の割引キャンペーンを随時行っているようですけど、シミュレーション後の見積もり料金は、キャンペーン割引が適用されたものですか?
厚地陽子さん(以下、厚地)
いえ、見積り料金から割り引くので、キャンペーンがある場合は表示料金より安くなりますよ。
B
賃貸マンションで一人暮らしをしているので、家族持ちの人より電気の使用量はかなり少ないと思うんです。そんな人の電気代も安くなるんでしょうか?
厚地
はい。ご家族を持っている方でなくても、ずっと不在にしていて使用量が極端に少ない例外的なケースでなければ、ほとんどの方に価値を感じていただける設定にしてあります。是非具体的な使用量を入力して料金シミュレーションしてみてください。
B
それは楽しみですね!
電気代が急上昇しない安心の仕組みとは?
B
ただ、電気料金ってすごく複雑ですよね。請求額の内訳を見ると、基本料金や従量料金、再エネ賦課金、燃料費調整額とかあって、まるで分かりません。
中村
確かにそうですね。例えば、再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)は再エネ電気を普及させるために毎年国が決めている金額で、すべての電力会社の電気料金に含まれています。もちろん、オクトパスエナジーの料金にも。
B
燃料費調整額って何ですか?
中村
家庭で使う電気は、国内のどこかの発電所で発電しています。発電するためにはガスや石油、石炭といった燃料が必要で、日本はその多くを輸入しているんです。太陽光や水力、原子力は国産ですが、電源別で見ると全体の約8割は輸入燃料に頼っているんです。
A
その燃料価格を電気料金に反映しているということですね?
中村
その通りです。輸入価格は毎月変動するのですが、3カ月間の燃料の平均価格を電気料金に反映させる国の制度があって、燃料価格が上がれば燃料費調整額も上がり、下がれば調整額が下がる仕組みです。
A
燃料費調整額は毎月変わるんですか?
中村
そうです。例えば2022年5月の燃料費調整額は、2021年12月と2022年1月・2月の平均燃料価格が反映されます。
A
そうすると、エネルギー価格が高騰した場合、2021年の冬のように電気代がはね上がる可能性もあるということでしょうか?
中村
昨年の冬に電気代が上がったのは、燃料費調整額ではありません。つまり、「燃料価格」の高騰が原因ではなく、別の理由があったからなんです。
B
どんな理由でしょう?
中村
あの時は、「市場価格」の高騰が主な理由でした。新電力のなかには、自前の発電設備を持っていない会社も多くあります。そうした会社は電力卸売市場で電気を調達しています。昨年の冬は厳冬で電気の使用量が急激に増えました。それに対して市場に提供された電気の量が少なかったので、市場価格が高騰したというわけです。
B
もし同じことが起きたら、オクトパスエナジーの電気代もはね上がってしまうんですか?
中村
オクトパスエナジーは東京ガスから電気を調達する契約を結んでいます。そのため市場価格が高騰したからといって電気代がすぐにはね上がるという影響は受けません。
顧客満足度が高い理由
A
海外では顧客満足度が高いことでも知られているそうですが、なぜそれほど評価されているのでしょうか?
中村
例えば、オクトパスエナジーの本拠地・イギリスの電気料金は、大まかに言って新規切り替え用のキャンペーン料金と標準料金の2種類があります。キャンペーン料金は最初の12ヶ月あるいは24ヶ月を割安価格で提供し、その後は自動的に標準料金に切り替わるというものです。ところが、その標準料金というものがかなり割高に設定している会社が多く、オクトパスエナジーは問題視していました。
B
オクトパスエナジーは違うんですか?
中村
キャンペーン料金ほどではないにしても、オクトパスエナジーは標準料金もお客さまに価値を提供できる価格で設定することを信条としています。そこがお客さまに評価されている大きな理由です。さらに、キャンペーン料金の期間満了が近づくとお客さまにきちんとお知らせしたりするんです。
B
うっかり料金プランの更新をしていなくても、電気代がドンとはね上がることもないわけですね。
中村
はい。しかも、「○月でキャンペーン期間が終わって標準料金になりますが、お客さまの場合はこんなお得なプランがありますよ」と、それぞれのお客さまに合った料金プランを提案しているんです。
B
良心的ですね!
A
オクトパスエナジーはなぜ、そんなことができるんですか?
中村
電気の小売事業は、料金計算や請求といった間接コストが原価に占める割合が高いので、それをいかに抑えるかが効率化のキモになります。オクトパスエナジーは、効率化の要と言えるプラットフォーム「Kraken(クラーケン)」を独自に開発し、適宜改善しながら社内で運用しています。でも、システムを外注するとどこかの段階でシステムコストを回収しなければなりません。だから、標準料金を高くせざるを得ないんです。
A
オクトパスエナジーは独自のテクノロジーで間接コストを抑えられるから、2年目以降も安い価格で電気を供給できるというわけですね。
中村
はい。オクトパスエナジーではそれを「正直な価格」と表現しています。
厚地
「フェアな価格」と言ってもいいかもしれませんね。目先の利益を得るための無理な価格設定をせず、お互いにサステナブルな価格で提供する。それを前提とした「Cheaper and Greener (環境価値の高いエネルギーをより安く)」がオクトパスエナジーの哲学なんです。
これが電力会社? 驚きのサービス
A
独自のプラットフォームを開発するなんて、IT企業のようですね。
厚地
そうですね。海外では電力会社というよりテック企業と捉えられていますし、私たちもエネルギー分野のテック企業だと考えています。
B
テック企業らしいユニークなサービスもあるんでしょうか?
中村
はい。英国オクトパスでは、電力需給がひっ迫して節電が必要になると、お客さまのパソコンやスマホに「あなたのパソコンは充電済みだからコンセントを抜きましょう」といった通知を送ったり、風力などの再エネ発電量が余って電気代が安い時間帯に「いま電気代が安いですよ」と通知したり。そんなことができるのも、「クラーケン」がお客さまの電気利用状況や発電状況など全体のバランスをモニタリングしているからです。
A
面白いですね!
厚地
楽しいサービスもたくさんあります。お問い合わせ電話の保留音を過去100年の中から好きな年のヒットソングを流せたり、アメリカでは、節電を促すために家の中のどこで熱が逃げて(冷えて)いて、どこに熱がこもっているのかをチェックするサーモグラフィーカメラを貸し出す施策も行いました。
B
徹底していますね! そこまで来ると顧客サービスというよりファンサービスに近いような……。
中村
そうなんです。オクトパスエナジーは一方的に電気を提供するプロバイダーではなく、お客さまのご意見、お客さまとのコミュニケーションを積極的に行って、一緒にサービスや解決法を作り上げていくことを重視してきましたし、これからもそうありたいと思っています。
厚地
各エリアに「エナジースペシャリスト」という担当者を配置していて、常に同じスタッフ・チームが一人のお客さまを担当するんです。
B
珍しいですね! そういえば、電話での問い合わせにおいても、自動音声で何度も番号をプッシュして問合せ内容を選ばなくてよい設計だそうですね。
厚地
その通りです! 電話回線のキャパには限りがありますが、メールやSNSでも対応していますし、お客さまをお待たせしないことに全力を注いでいます。お客さまの問い合わせに迅速に対応することはもちろんですが、お客さまからの声はすぐに社内にフィードバックされています。
EV専用の料金やサービスも
A
実は今、妻とそろそろ車を買い替えないとねと話しているんです。ハイブリッド車をベースに考えているんですけど、電気自動車(EV)にも興味があって。EV関連でも何かユニークなサービスはありますか?
中村
イギリスで好評なのは、電気料金が最も安い時間帯を選んで充電するというサービスですね。EVをコンセントにつなぐと、すぐに充電し始めるのではなく、深夜や明け方といった電気料金が一番安い時間帯をAI(機械学習)で自動的に計算して、朝出かける頃までに充電完了しておいてくれるんです。
A
まさにテック企業ならではのサービスですね! ほかにも何かありますか?
中村
はい。英国オクトパスでは、テスラオーナー用の各種料金メニューや日産リーフのレンタルと組み合わせた料金プランも提供しています。
SNSで盛り上がった節電チャレンジ企画
B
調べてみて驚いたのですが、海外のオクトパスエナジーは、200種類以上の料金プランがあるとか。
厚地
初めから種類が多かったわけではなく、お客さまからのご意見や使用状況などの分析をしながら料金プランを改善し、もとの料金プランのバージョン違いや同じ種類の地域別バリエーションが次々と追加された結果、200を超えたと言ったほうが正確です。なかには、お客さまのご意見やアイデアから生まれたサービスもあるんですよ。
B
例えばどんなサービスですか?
厚地
色々ありますが、最近では今年の冬に展開した「Winter Workout」という節電チャレンジ企画ですね。節電行動のリストをクリアしていって、過去の平均使用量に対する削減率が増えるたびにポイントを獲得し、貯まったポイントを電気代の支払いに充てられるんです。実際にどのくらい節電できたのか、(ガスの場合※)CO2排出量がどのくらい抑えられたのかを表示することもできて、ゲーム感覚で節電できると好評でSNS上でも盛り上がりました。
※イギリスのオクトパスエナジーでは、電気とガスのセット契約をしている顧客が多く、ガスはイギリス周辺で産出される天然ガスを供給している。
オクトパスエナジーの「Winter Workout」チャレンジの成果について、グレッグ・ジャクソンCEOは「16万人の顧客が12週間で500万ポンド(約8000万円)節約した」とツイート。
B
楽しそうですね!
厚地
そのキャンペーンの最中に、あるお客さまから「獲得したポイントを電気料金の支払いに苦労している人に寄付できるようにしてもいいのでは?」というアイデアが寄せられたんです。イギリスでは昨年から電気代の高騰で苦しんでいる人が多いこともあって、賛同の声が広がり「よし、やってみよう!」といった具合で実現しました。
ジャクソンCEOは、顧客の提案から始まった寄付活動で「1万人を超える顧客から、(電気・ガス代の)支援が必要な人をサポートするために合計14万ポンド(約2200万円)を寄付できた」ことに感謝のツイート。
A
この節電チャレンジや寄付について、顧客からどんな声がありましたか?
中村
もともとオクトパスへのポジティブな投稿は、家族か友人かというくらいの暖かい気持ちのやりとりに対するものが多かったのですが、今回の企画に関しては、楽しんで節電している様子、節電の進捗を共有してくれる投稿が目立ちますね。
A
日本では2022年1月の関東を皮切りに、中部、関西、東北、中国、九州……と販売エリアを次々と拡大していますね。日本では今後どんな展開を期待すればいいのでしょうか。
中村
エネルギーの世界は日々の展開が激しいうえに、ウクライナ侵攻やエネルギー価格をはじめ世界情勢も緊迫しているので、テック企業らしくアジャイルに、その時々の状況を注視し、機敏に柔軟に動きながらエリア拡大とサービス拡充を進めています。重要なのは、お客さまとのコミュニケーションを主体的に、アウトリーチ型で行っていくこと。今までの電力会社にはない新しい発想の料金やサービスを、日本のお客さまと一緒につくり上げ、提供していきたいと思っています。
厚地
オクトパスエナジーに加入した方には中村から愛のこもったメールが届きますので、是非、オクトパスの仲間になってくださった方には読んでみてほしいです! 返信も歓迎ですから。
中村
お楽しみに(笑)。